44.夜明け
夜の帳が降り、王宮の塔の上には静かな灯が揺れていた。
フィーアは、広い窓辺に座り、手のひらに感じる風のぬくもりに目を細めていた。
その背後から、柔らかな声が響く。
「フィーア、冷える。もう少しこっちに」
ファブレムが静かに彼女の肩を包み込む。彼の掌は温かく、まるで冬の夜に差し込む陽だまりのようだった。
フィーアはわずかに頬を染めて、彼の胸に背を預ける。
「……こうしていると、不思議と安心します」
「それは私もだ。お前の魔力が、静かに心を満たしてくれる」
ファブレムの低い声が、耳の奥で響く。
その穏やかな時間の中、扉の向こうから控えめな足音が近づいた。
扉がノックされると同時に、少し照れくさそうな声がした。
「……失礼します。陛下、フィーア。灯がまだ点いていたので」
ガゼルが姿を現した。月明かりに照らされた彼の琥珀の瞳は、相変わらずまっすぐだった。
「ガゼル……来てくれたのですね」
「お前の魔力の波が、少し揺れていたから気になったんだ」
そう言って、彼はためらいなくフィーアの前に膝をつく。
ファブレムも、その行動を止めようとはしなかった。
むしろ、静かな微笑を浮かべていた。
「お前の忠誠と想いを疑ったことはない、ガゼル」
「……ありがとうございます、陛下。でも今夜は、騎士としてじゃなく、“仲間”としてここにいたい」
ガゼルの手がそっと、フィーアの指先に触れた。
その手は硬く、温かく、そして誠実だった。
ファブレムの掌が彼女の肩に、ガゼルの指が彼女の手に――
まるで三つの鼓動が、同じリズムで打ち始めたように、静かな温もりが広がっていく。
「私は……幸せです。二人が、私を信じてくれることが」
「信じるさ。お前が俺たちを光へ導いてくれた」
「……そうだ。お前がいてこそ、我らは立てる」
窓の外では、夜明けの光が世界を照らし始めていた。
三人は、互いの温もりを確かめ合いながら、言葉もなく寄り添った。
それは、恋よりも深く、誓いよりも優しい――“絆の夜明け”だった。




