3.慌ただしい日々
フィーアと名付けられたその赤子は、スクスクと成長していった。
「フィーア!どこにいるの?」
ある日の昼下がり。母であるアリアは、まだ一歳の娘を探していた。というのも、この赤子はすぐに部屋を抜け出し、歩き回るのだ。
そのやんちゃな姿に、周囲の侍女たちもみな呆れていた。
しかも、ただ脱走するだけならまだしも、妖精に好かれているためか、しばしば瞬間移動して移動もする。
その様子にアリアは困り果てていた。
「だっ!ぷぅ!あー!」
遠くからフィーアの楽しそうな声が聞こえる。
(あ、部屋の中にいるのね。良かったわ)
母アリアは一瞬安堵するも、つかの間、「はぁ…」とため息をつく。
聞こえてきたのは、王の仕事場である執務室の方角だった。
扉の前で一度深呼吸をして、ドアをノックする。
「ルヒトー!入りますよ」
ガチャっと開けると、そこには、キャッキャッと笑いながら嬉しそうにしている一歳の赤子と、
「フィーアはほんと可愛いなぁ」
とデレデレしている夫の姿があった。
その様子に「全くもう」とアリアは思うが、フィーアが無事ルヒトーと一緒にいたことに安堵した。
フィーアは楽しげに「キャッ!ぶぅ!」と笑いながら、ルヒトーの顔をベタベタと触る。
ルヒトーも満更ではない様子だ。
「貴方…お仕事は終わったの?」
アリアは、夫が仕事をサボっているとわかった上で聞く。
案の定、ルヒトーは目を泳がせた。
「いや…え?終わった……いや、終わってないが!これは休憩だ!」
ルヒトーは堂々たる開き直りである。
アリアはそっとフィーアをルヒトーから剥がし、
「仕事が終わるまでフィーアと遊ぶのは禁止!ちゃんと書類を終わらせなさい」
と毅然とした態度で怒る。
フィーアはその様子をぽかんとした顔で見ていたが、その後「ぷぅあー」とアリアの顔を触り、嬉しそうにした。
その言葉を聞いたルヒトーは、顔面蒼白である。
「ま、待ってくれ!そんな!俺のフィーアを…」
「待ってもありません。全く、フィーアはお昼寝させますからね。ちゃんと終わらせてね」
そう言い残すと、アリアはスタスタと執務室を出ていくのだった。
「そんなぁ…」
背後で哀願するように呟いたルヒトーを無視して、アリアは子供部屋へと向かう。
「フィーア、遊ぶのはいいけれど、お父様の邪魔をしてはダメよ?」
と話しかけるが、フィーアは
「ぷぅ?」
と、なぜ?といった顔でアリアを見つめる。
「まぁ、まだ幼いのだから、わからなくて当然ね」
アリアはそう思いながらも、フィーアを抱きしめる。
(それにしても、うちの娘はなんて可愛いのでしょう)
と見つめながら思うアリアも、すっかり親バカであ
った。
「お母様とお昼寝しましょうね」
とアリア。フィーアはそれに応えるように、「ぶぅ!」とニコニコしながらこたえるのだった。
本来ならば赤子のお世話は乳母が行うのだが、フィーアは魔力が多く、また半精霊ということもあり、女神の力を受け継ぐ母であるアリアが、常にそばで自らお世話をしていた。




