侵入者(守人の場合)
大理石の壁に囲まれた六角形の大広間。中央に設置された剣が突き立てられる台座の前では、守人である私と冒険者風の中年男が対峙している。
「それにしても妙な角を生やしてるとはいえ、まさかこんな小娘が剣の守人とはな……正直驚いたぜ」
男は使い込まれた大刀を肩に担いだ状態で私を“小娘”と挑発する。けど、実年齢的には間違いなくこちらが十倍以上は確実に歳上。
「ヘヘヘ、一応警告だけはしてやるがよ。大人しくオレに剣を渡せば……そうだなぁ~、ペットとして飼ってやらんこともないぜ?」
にも関わらずに不快なセリフを吐き捲る。よってこれ以上を付き合う必要がないと判断する私は……
「つまらない戯言はいいから、早くかかって来なさい!」
早々に会話を打ち切り、槍の切っ先を振って「かかって来い」と促す。
「テメェ……オレをバカにする気か? だとしたら……」
ただ男の方はこのやり方を安い挑発と捉えたらしく、激昂して目の色を変える。
「ブっ殺してやるぜ小娘!!」
激情に駆られて大刀を振り下ろす攻撃に対し、私は肩の力を抜いた自然体で槍を構える。
「うおぉぉぉぉぉーーーー!!」
キィーーーーン!
単純な力任せの攻撃を難なく受け止めると、哀れみ全快で問いかける。
「ねぇ。一応訊くけど、これが全力とは言わないでしょうね?」
「な、何だとぉぉぉーーーー!!」
これも気に入らなかったのか、男はさらに激昂!
「はあぁぁぁぁーーーー!!」
だが、感情に狂った粗末で幼稚な攻撃はまったく当たらず、全ては簡単にあしらわれていく。
「ぐぅぅぅ……ガアァァァァァーーーー!!」
ただそれでも男は一心不乱に大刀を振り続け、ついには……
「うおおおおーーーー!! 当たれ当たれ当たれぇぇぇぇーーーー!!」
頭に血が上り過ぎて最低限の知性も感じさせない状態で突っ込んで来る。
「やれやれ、ここまで来ると無様でしかないわね」
あまりにも隙だらけの体勢で迫る男。当然私は躊躇することなく槍を突き出す。
ザシュ!ザス!ザス!!
正確に放たれた三段突きは、男の喉、胸、腹を無慈悲に貫いた!!
「お、あああ……ガハァ!」
貫通したた三ヶ所の穴から噴き出す大量の血液は、男がこの世に残す時間が少ないことを示す。
「ば、ばふぁな……」
「バカな……」とで発言したいのだろうか? 喉の穴から空気が漏れるせいで言葉にならない。
「あ、あああ……」
いよいよ最期だ。男の瞳には何が見えているのだろうか? 正直、興味もなければ知りたくもない。でも……本当の最期に何を見えてるのだけはハッキリとわかってる。
それは闇だ。どこまでも深く、どこまでも暗い闇。それこそが男の瞳が見る最期の光景。
そしてそれは、私自身もいつの日か必ず見る光景でもある。
そう、いつの日か必ず見るはずだ。どこまでも深く、どこまでも暗い闇をこの目で……必ず……