↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインガチ推し悪役令嬢は今日も悪役を楽しむ  作者: 月見里 雪
第三章『乱立恋愛フラグを叩き折りましょう』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/57

35

 朝食を取り終え、カナリアはクロウの自室を訪ねた。

 そして、昨夜のことを詳細にクロウへ話す。


「それで、屋敷の秘密はまだ見付けられませんでしたから、また今夜も貴方の護衛をお借りしますわね」

「待って待って待って、ちょっと待って下さい」

「あら、お借り出来ないのなら一人で行きますわ」

「いや、貸したくとも貸せないでしょっ?! はっ?! レイヴンが仮の恋人?! 何がどうしてそうなるんですかっ!!」


 クロウが頭を抱えて叫ぶ。そんな彼女を眉を寄せて面倒臭そうに見つめるカナリアは、腕を組んだ。


「理由は言いましたわ」

「ええ、確かに聞きましたとも。でも、そんなっ! なんかレイヴンに言いくるめられてません?!」

「言いくるめられてませんわ! 寧ろ、利用するのは私の方ですのよ!」

「そ、うです……かっ?!」


 ふらふらと、クロウが自室のソファに座って、俯きながら大きな溜息を吐いた。

 テーブルを挟んで向かいのソファにカナリアが座れば、クロウがチラリと視線だけカナリアへ向ける。


「……条件はあるし、レイヴンはカナリア様の嫌がることを、しないとは、思います。でも、まさか、昨日の今日でそんな話になるなんて……」

「恋愛感情はありませんわ。ただ、表現力を上げる為だけですのよ」

「……うーん、カナリア様はそう考えてても、レイヴンがなぁ」

「心配し過ぎですわ、クロウさん。彼は、私の反応を面白がっているだけ。飽きれば、離れますわよ」


 真剣な顔で言い放つカナリアに、クロウは苦虫を噛み潰したような顔をして、またもや頭を抱える。


 カナリアは本気で自身の歌の向上しか頭になく、何ひとつ理解していない。

 レイヴンがどれほど本気なのかも。自分がどれほど無知なのかも。

 恋という感情が、どれほど難解で、厄介なのかも分かっていない。


 ――それに。


「偽物の恋なんて、虚しいじゃないですか」

「虚しい?」

「ロビンの歌があんなにも心に響くのは、本当の恋をしているから。本気で愛しているからこそ、人の心に響くんですよ」


 目を丸くするカナリアに、クロウが顔を上げる。

 真っ直ぐに自分を貫く漆黒の瞳に、カナリアは拳を握った。


「……それでも、理解することは出来ますわ」

「もしも。もしもの話です」

「なんですの?」

「レイヴンとの恋が、本当になってしまったら、貴女はどうするんですか?」


 沈黙が下りる。

 まさか過ぎる疑問に固まったカナリアがハッとして、クロウの疑問に答えた。


「ありえませんわ。私と彼が恋愛関係になるなんて」

「……恋愛は邪魔だから?」

「ええ、そうですわ」


 きっぱりと言い切ったカナリアに、クロウは切なそうに目を細める。

 そして、クロウは数秒考えた後、静かに口を開いた。


「けれど、恋はそんな簡単に理性で止められるものではないですよ」

「いいえ、止められますわ。ただの感情のひとつですもの」


 当たり前のように放たれた言葉に、クロウはぎゅっと自身の両手の指をきつく組み合わせた。


「じゃあ、決してレイヴンに恋をしないと、言い切るんですね?」

「ええ、私は彼に恋なんてしませんわ」


 強い決意がこもった紅の眼差しに、クロウが視線を落とす。そして、また、すぐに視線を上げる。

 その目は、様々な感情を乗せて、カナリアを映した。


「分かりました。それなら、レイヴンをお貸ししますよ。仮の恋人同士も、レイヴンの主人として、……貴女の友人としても、止めはしません」


 友人という言葉に、カナリアが否定しようと口を開くも、クロウの顔を見てしまえば、何も言えずに口が閉じてしまう。

 気まずげに視線を逸らしたカナリアに、クロウは眉を下げて笑った。


「この後、図書館に行くんですよね? 私は授業ですから、準備したいので良いですか?」

「あっ、ええ。それでは、私はもう失礼しますわね」

「はい。また、ランチの時に皆で会いましょう」


 小さく頷いたカナリアを見送って、クロウは険しい顔でソファに座る。

 そんな彼女を後ろから抱き締めるように、音もなく太い腕が現れ、頭の上にズシリと重みが乗った。


「……レイヴン、やってくれたわね」

「すっげー大進歩だと思わねえ? まさか、あんな簡単に乗るとは思わなかったよ、俺も」


 クロウの頭の上に自分の顔を乗せ、ケラケラ笑うレイヴンの腕を、クロウが思い切り叩く。

 パシンッと、弾ける音がすれば、レイヴンはクロウの頭を顎でグリグリと押した。


「アンタは、カナリア様からしたら出会ったばっかりの男よ。私の護衛だから大目に見てもらえてるだけなの。分かってるの?!」

「えー、俺の親しみやすさとかそういうのもあるじゃん?」

「ないわよ。軟派男って言われてるくせに、どこからそんな自信出てくんのよ。友(・)人(・)の私の護衛だから! カナリア様は、アンタみたいな奴を邪険にしないのよっ!!」


 怒り狂いながら叫ぶクロウに、レイヴンが唇を尖らせる。

 ぐっと、抱き締める腕の力を強めれば、クロウが溜息混じりに言葉を続けた。


「……前途多難よ。覚悟あるの?」

「承知の上。そうじゃなきゃ、馬鹿な提案してないよ」

「自分でも馬鹿な提案って分かってるのね」

「うん。でも、ここまでしないと、スタート地点にも行けないだろ?」


 真剣味を帯びたレイヴンの声色に、クロウはそっと彼の腕に触れる。

 そして、優しい、けれど、不安げな声で呟いた。


「少しずつよ。急いじゃだめ。距離を誤れば、カナリア様はすぐに離れていくわ」

「分かってるよ。お前とあの人のこと、ずっと見守ってたんだから。……良かったな、友達になれて」


 大きな手がクロウの頭を撫でる。優しいその温もりに、クロウが目を瞑った。


「……うん。やっと私、あの人の友達になれた。頑なだったあの人の心を動かせた」


 クロウが、嬉しそうに呟く。

 そして、言葉を続けた。


「感情を止められるなんて、言ってたけどさ。私のこと否定しなかったら説得力ないよね」

「……そうだな」

「だから、レイヴンにもチャンスはあると思うんだ」

「つけ込むチャンスな」

「……言い方」


 ははは、と笑ったレイヴンを、クロウがジト目で睨む。

 こんなんで大丈夫だろうかと思いつつも、カナリアへの想いは本物だと知っているクロウは、手を伸ばしてレイヴンの両頬を包んだ。


「カナリア様を泣かせたら承知しないから」

「そんなこと絶対にしない。アイツのこと幸せにしてやるよ」

「アンタも泣いたら承知しないからね」

「……うん、ありがとう」


 レイヴンが優しく目を細め、クロウを見つめる。

 クロウもまた、同じように優しくレイヴンを見つめた。


「不本意だけど、応援してあげる。頑張れ、お(・)兄(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)」


 レイヴンは、嬉しそうに笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。