↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインガチ推し悪役令嬢は今日も悪役を楽しむ  作者: 月見里 雪
第三章『乱立恋愛フラグを叩き折りましょう』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/57

32

 夜の追いかけっこをしながら、やっと辿り着いた秘密の屋敷の前に、二人は立つ。

 ひとりは満身創痍で肩で息をしているが、もうひとりは飄々とした態度で屋敷を物珍しげに見上げていた。


「ここが秘密の屋敷ねぇ〜。確かに、なんかここだけ監視魔法がそこかしこで発動されてるや。ここに大事なもんがあるって言ってるようなもんだよなぁ。ある意味不用心」

「はあっ、……不用心なものですかっ。ぐっ、はあ」

「カナリア大丈夫? ちょっと深呼吸しなよ」


 ――誰のせいでこうなってると思ってますのよっ!!

 私だって、歌の為に鍛えているはずなのにっ! こんの体力バカが!!


 深呼吸をしながら、息を整え、カナリアは隣に立つレイヴンを恨めしげに見る。

 汗ひとつかいていない彼に苛立ちながら、彼女は深く息を吸った。


「監視魔法の多さを見せるのは、防犯と威圧の面で効果的ですわ。これなら侵入しようとする輩は、出てこないでしょう」

「ここにいるけどな」


 二人が顔を見合わせる。数秒の間。

 そして、カナリアは大きな溜息を、レイヴンはケラケラと笑った。


「そんで、どうやって入る? なかなかに骨が折れそうだけど?」

「監視魔法が作動していない場所があると聞きましたの。まず、そこを見付け出しますわ」

「了解、ボス」


 屋敷の周りを確認しようと歩き出したカナリアに、レイヴンが目を丸くする。

 そして、彼は腕を組んで苦笑した。


「おいおい、どこ行く気ですか、お嬢様。ここで待っててよ」

「何故ですの? 私も動いた方が効率的ですわ」

「あのさ、俺が頼まれたのは護衛なの。勝手にどっか行かれると困るの。俺が確認しに行くから、カナリアはここに居て」


 呆れたように肩を竦められ、カナリアは納得出来ずに眉間に皺を寄せた。

 反論しようと口を開けば、レイヴンが掌をカナリアの目の前にかざす。


「ストップ。一瞬で終わるから。逆にカナリアに動かれた方が非効率的」

「……そこまで言うのなら、見付けて来なさい」

「おっけ」


 そう言うや否や、レイヴンが屋敷の塀に飛び乗り、そのまま屋敷を囲う木々の枝に移り飛んでいく。

 まるで、幼い頃に本で読んだ東の島国の"ニンジャ"のようだと、カナリアは目を見開いて、その様子を見た。

 彼はすぐに屋敷の周りを一回りして、大木の枝からカナリアの前へと着地する。


 なんてことはないような顔をして、彼は自分の肩に付いた葉を払いながら、口を開いた。


「動いてなかったのは、二箇所。裏門と正面玄関のとこだった」

「本当にあの一瞬で確認しましたの?」

「うん。だから、言ったろ? カナリアに動かれた方が非効率的って」


 ニヤリと、自慢げな顔で笑うレイヴンに、カナリアの口はへの字に曲がる。

 反論したくとも、結果を見せられてしまえば何も言えない。

 不服そうなカナリアを見て、レイヴンは可笑しそうに声を出して笑った。


「ははは! 俺の実力を分かってもらえて良かったです、お嬢様」

「そのお嬢様って言うのお止めなさい! 貴方に言われると、馬鹿にされてるようで腹が立ちますわっ!!」

「あっはは! ごめんごめん、じゃあ裏門行こうぜ、カナリア」


 楽しそうなレイヴンの後ろを、カナリアは唇を尖らせながら歩く。


 今更ながら、路地裏の自警団のリーダーもゴッドスピード家の護衛も、彼の人間離れした身体能力を考慮すれば、妥当な肩書と仕事だ。

 クロウが彼を連れて行かせたがったのも、納得はいく。

 護衛としても優秀だが、あらゆる物事で彼は役に立ちそうだ。


「ここなんだけど、カナリアって今から全速力で走れたりする?」

「へ? 今から?」

「裏門通り抜けたら、正面玄関までは監視魔法がめっちゃ動いてんだよね。そこを全速力で避けながら走んなきゃな訳。いけそう?」


 無理である。

 先程の馬鹿みたいな追いかけっこのせいで、カナリアの足は走ることを拒否している。寧ろ、立っていることも嫌がり、さっさと座って休みたがっている。


「……先程、貴方のせいで無駄に体力を消耗させられたのだけど?」

「だよね。んじゃ、まあ、俺が運ぶわ」

「…………は?」


 衝撃的な発言に、カナリアはたっぷりの間を置いて、たった一言を放つ。

 レイヴンは困ったように腕を組みながら、頬を掻いた。


「俵担ぎ、背負う、お姫様抱っこ……さあ、どれにする!?」

「却下ですわ」

「いやいや、そうしなきゃ入れないじゃんって」

「な、何故、私が貴方に運ばれなければなりませんのよっ」


 地団駄を踏んで拒絶するカナリアに、レイヴンが、んーっと首を傾げながら悩み、そして、面倒臭くなって、カナリアの背中に手を回した。


「ぶっちゃけ、カナリアを走らせるより、こっちのが効率的なんだよね。だから、黙って俺に運ばれてくれ」

「あっ、ちょっと!!」

「手、首に回して。ちゃんと掴んでろよ」


 カナリアの返事も聞かずに、レイヴンが彼女を抱きかかえ、走り出す。

 ホウゴロウ以外の人間にお姫様抱っこなんてものをされ、カナリアはパニックになりながらも、彼の首に慌てて手を回した。

 上に横に、縦横無尽に飛びながら走るレイヴンに、馬車の方がマシだと、カナリアは心の中で毒づく。

 一分にも満たない滑走を終え、正面玄関の前にカナリアは降ろされた。


「……入る前から、疲れましたわ」

「それな」

「貴方のせいですわよ!!」


 拳で彼の胸板を叩いてみたものの、壁のように固く、カナリアはげんなりとした顔で、拳を下ろした。

 そして、さっさと屋敷に入ろうと思い直して、屋敷の扉の鍵穴に、カカポさんから借りた鍵を差し込む。


「うわぁー、なんかワクワクしてきた。何があるんだろうな?」

「はしゃがないで。危険なものがあるかもしれませんから、警戒は怠らないでくださる?」

「分かってるって。カナリアは、俺が守るから」


 当たり前のように言われた言葉に、ほんの少し心臓が跳ねながら、カナリアは扉をゆっくりと開けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。