第17話 現実:(1/2) 夕食時のカタルシス
「……ぃ」
「……お兄」
「……お兄!」
徐々に、聞き覚えのある声の波が迫ってくる。
「起きろおおおおお! お兄いいいいい!」
「……ッ!?」
ガバッと起き上がったショウは、自分が寝ていた事を認識し始める。それと同時に、彼の腹の上に乗っかっていたタブレットも落ちた。
「お兄、そろそろご飯だって!」
ショウの横には紺色の胴着と袴を着た、目には黒い包帯を付けていないエリがいた。
「……夢?」
「え? 何、お兄? 寝ぼけてるの?」
ショウは、駆けめぐる思考の渦から必死に整合性を合わせていく。
「エリちゃん!」
「な、何、お兄?」
「さっきまでの夢の出来事覚えてる?」
「……」
「ほら! 今度は恐竜達が出てきたじゃないか! その後、恐竜の頭が沢山ついた巨人が出てきて……」
「……見てないよ」
眠そうにも見えるジト目に小さく"へ"の字口の表情でエリは言った。そしてここは自分の家であり、今まで自分は夢を見ていたのだと理解する。
「お兄がタブレットで、いろいろ調べてる最中に寝ちゃったんじゃん」
「え? で、でも! 夢の中にエリちゃんだって出てきたし!」
「だって私は寝てなかったし、お兄が寝てる間はゲームやって、テレビ見て、その後道場に行く為の支度してたよ」
「そ、そんな……でも……」
「でもじゃない! 本当に知らないってば!」
そんなことを言い合っていると、母が台所から彼らの様子を伺う。
「ショウ、起きたの? ショウの分の夕飯が、もう少しで出来るからちょっと待ってなさい! エリ、本当にお見送りは良いの? 剣道のお姉ちゃんが来るって言ってたけど?」
「うん、もうそろそろ来るはず……」
「お姉ちゃん?」
剣道にお姉ちゃん……言葉一つ一つに強烈な既視感を彼に与えていく。
ショウの鼓動が速まっていく。
すると、家のインターフォンが鳴り出す。
「あら? 来たんじゃない?」
「それじゃあ、言ってくる」
エリは大き目の鞄と竹刀袋を抱え、ツインテールを揺らしながら玄関へと元気に駆けていく。母もエプロンで手を拭きながら、お菓子の袋を持って玄関の方に歩いて行った。
ショウも気になり様子を見る為、リビングから顔を覗かせる。
「ありがとうね清白さん、今日はワザワザ家までエリを迎えに来てくれて。良かったらお菓子と持って行く?」
「いえいえ! そんな構いません! 今日は夏期講習が無いので迎えに来ただけですよ!」
「良いのよ、持って行きなさい! 皆で食べてちょうだい」
母の声と対話する声。
とても聞き覚えのある声色に、ショウは目を見開いた。
「あ、ありがとうございます! それでは、頂きます!」
良く通ったハキハキと話す声。
長く黒い髪を一本に結び、綺麗に整った顔立ち、胴着を着ていても分かる豊満な胸。
「……モエカ……さん?」
「……え?」
そこには、傷一つ付いていない清白モエカの姿があった。ショウは覗くのを止め、玄関口へ歩み寄る。
「お、お兄!? ちょっと、何出てきてるの!?」
エリは自分の兄の言動に驚くが、ショウはお構いなし近づいていく。
「モエカさん! 生きてる! 無事だったですね! 良かった……夢の中だけの出来事で本当に良かった……」
「ちょ、ちょっとショウ! なに失礼なこと言ってるの!」
「お、お兄! バカ! 何でまだ寝ぼけてるの! 恥ずかしいから止めてよ!」
「ち、違うんだ! 夢だけどそうじゃなくて! 恐竜の巨人の攻撃からモエカさんは僕を庇って……」
母とエリから体を押さえられるショウ。彼自身は進行する意志はないものの、彼女等に押し戻される力からは抵抗する。
そんなやり取りを見ていたモエカは、初めはキョトンとしていたが次第に笑みを浮かべる。
「君は、エリのお兄さんか?」
「……え?」
モエカの言葉に、今度はショウが硬直する。
「初めまして、私は清白モエカだ。エリちゃんと同じ道場に通ってる者だ。よろしくな!」
モエカは爽やかな笑みを浮かべ、ショウを見つめた。
「モ、モエカさん!」
「な、なんだ? というか、君は私の名前は知っているのだな?」
「え、ええ! だって、さっき夢の中で会ったじゃないですか!」
「ゆ、夢の中で?」
「ハッ!!」
興奮気味のショウに対して、突然エリは彼の腹に重い正拳突お見舞いする。
「うぐっ!?」
顔を青ざめさせ、何かが口の方へと押し戻されそうな感覚を必死に堪えながら、ショウはその場に倒れ伏す。
「お兄……いい加減にして、寝ぼけるならもう一度殴るよ」
「ご……ごめん……」
「エ、エリ! そんなお兄さんを殴らなくても、私は困って……」
目元に陰を落として睨みつけるエリは、蒸気が出るのではないかと思える程の力を込めて、握り拳を掲げている。それに対してモエカは、必死に宥めていた。
「お兄のバカ! 行こ、モエカさん」
「あ、ああ、それでは失礼しました!」
エリに手を引かれ、モエカは外へと出て行った。




