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使用人たちがそれぞれに飲み物を注いだ跡にメインディッシュが置かれた。
テーブルの上に置かれた皿に乗っている料理を見て驚いた。
「どうしてサンドイッチがあるのですか!?」
てっきりサンドイッチはこの世界にないと思っていた。だって一ヵ月前に、サンドイッチについてをヤーリに教えたばかりだ。手掴みで食べれて、携帯にも便利な料理として教えた。
ふっくらパンも驚いたけれど、パンの間に燻製の牛肉のスライスにトマトやレタス、ピーマンに玉ねぎが挟まってチーズまである。
セシルが創造した野菜が、こうしてセイズ王族の食卓に並んでいるなど。セイズに来て、市場で野菜を見ることがあってもまだ普及率は少なかった。
ましてはサンドイッチにするなど。
「ラング王宮の料理長を一時、招き入れたのだ。ヤーリ殿はセシル姫がセイズ王宮に滞在していると思い、二週間前にセイズへ来たんだ。
ラング王宮ヤーリ殿は『料理の父』として有名な方だから、ワシは王宮の料理人として斡旋したが断れてしまったのだが、セシル姫が落ち着くまでセイズ国王宮料理人たちに料理を教えてくれると言う契約をすることになったんだ」
ヤーリが「料理の神」?
「まあ、ヤーリ殿がここにいらっしゃるのですか? 王都でレストランを開くと言う噂をお聞きし、出資を申し出ましたが断られましたの」
サイール公爵夫人が言った。
「私もヤーリ殿を何年もテイーズへ破格な値段で勧誘しているがいい返事をもらえないままでいる。せめてヤーリ殿の弟子の一人をと話をしたが、すべて断れた。いまのところラング国でしか、ヤーリ殿の弟子は店を構えていないと言われた。
ヤーリ殿の弟子の店はラングの花の標章だが、ラング国が経営しているのだろうか? セシル姫はなにか知りませんか? ヤーリ殿に口添えをして弟子を一人、テイーズへ送ってもらえないだろうか?
私はラング国で食べたピザと言う食べ物をいまだに忘れないのだ。テイーズのお抱え料理人たちに再現してもらってがラング国で食べたピザと違った」
テイーズ辺境伯がセシルに尋ねたが、ヤーリが有名とさえ知らないのに返事などできない。
「ヤーリ殿をここに呼ぶから直接聞くといい。それより食事をはじめよう。アシール神に感謝」
セイズ王の言葉で食事をはじめる。緊張していたけれど、懐かしい料理を一口食べるとホッとした。
「マヨネーズとマスタード、鶏肉を焼いた物おいしいね。セイズ国の野菜もおいしいけれど今度はキュウリも挟んだサンドイッチを作ってピクニックに行こう? お母さん」
「ええ。ジョニーが川に魚釣りに行こうと何度も誘っていたから、今度姫さまとリリーとディランで行きましょう」
ここに来てはじめてリンダが喋った。リンダも懐かしい食べ物を食べて、緊張がほどけたようだ。
「ジョニーとは誰だ?」
「ヒッ」
リンダが手にしていたサンドイッチを皿に落とした。サンドイッチの食べ方は手で食べると食事前に説明があった。王妃以外みんな手で食べている。
「や、宿の男の子で、です……」
「お、男の子か……脅かしてす、すまん……。今度休みの日を調べて見るよ」
リンダの体が振るえているのに気づいたようで、タイラさまがすぐに謝った。てっきり俺さまで周りを見てない我が道を行く野獣と思っていたが、きちんと間違いを謝罪できる人と意外な面を知りてほっとする。
それよりリンダはタイラさまを誘っていなかったと思うんだけれど。
他の王族はタイラさまたちを微笑ましく見ては、サンドイッチについて感歎している。もちろんマヨネーズとマスタードについて話していた。
食事を食べ終わった頃にヤーリが部屋に入って来た。最初に陛下や他の王族と言葉を交わした後にセシルの座る席に寄る。
「セシル姫さま! お会いできて心嬉しい限りです。どうぞ今後も私をセシル姫さまの料理長にしてください」
跪こうとしたヤーリを止めてセシルもヤーリにまた出会えた喜びを伝えた。
「ヤーリ。わたくしはヤーリほどの腕前の料理人を雇うことはできませんよ。それよりヤーリが多くの弟子たちを育て『料理の父』と聞いて驚きました」
「姫さまのおかげです。姫さま、覚えていますか? 昔、手紙の交換をしていた頃、姫さまが多くの人においしい料理を食べて欲しいとおっしゃっていたことを。
そして、レストランや喫茶店やケーキ屋さんなどを開きたいと書いていました」
幼い頃にラング国にはそんな店があるか聞いたことがある。日本のように食べ物の繁華街があればいいなと思いリリーと一緒に紙に絵を書いて繁華街の設計図をヤーリに送ったことがあった。
「リリーさまはケーキ屋で、リンダさまがお店の内装をすると、この私と計画立てたではありませんか? ラングでは試験的に何件かレストランを立ち上げました。
セシルさまやリリーさま、リンダさまのお店の資金は十分に揃えました。料理人もそれぞれの分野に秀でた弟子たちを育てました。
ワインはタルード公爵さまの指示の元、世界各地の一流品のお酒を抑えています。もちろんレストランで働く従業員も元ラング王宮で働いた者たちが、ぜひセシル姫さまの元で働きたいとおっしゃっています。
商業ギルドではセシル姫さまの商会で食部門の方々が食材の流通を抑えています。
いつでもお店を開く準備ができています」
思いがけのない話で、頭が混乱する。リンダとリリーもはじめて聞く話で驚いた顔でヤーリを見ている。
「ヤーリ殿。失礼。やはりヤーリ殿はラング国の経営でレストランを開かれていたのなら、今後はセイズ国営になると言うことだな。では、陛下、テイーズでヤーリ殿の弟子がレストランを開く許可をいただきたい」
「いや、おっほん。テイーズ卿。ヤーリはセシル姫の商会と言っていた。ラング国営のレストランではない。
そしてラング国の技術は、確かに国が管理をしていたが、元々はセシル姫の案だ。ラング国合併の時に、ラング国の技術はセイズ国の物にならない。技術者たちはセシル姫の商会の職員となり、技術が外に漏れないようになっている」
「そ、それは一体どういう意味ですか? ラング国の特産の技術と言うと……確か宝石加工技術や水蒸気蒸留器や農業工具などだったと思います。まさか、そのすべてセシル姫が特許を持っているとおっしゃられるのですか?」
セイズ国には特許があるんだ、と驚いた。
そしてセシルが前世の記憶の元に無理難題を押し付けた物をセシルが技術管理していると知らなかった。
「ああ。合併まではラング国で技術を管理をして利益は一部はセシル姫の物だが、後は国の物だった。だが、今回の合併でセシル姫が開発すべての物の権利はセイズ国が所有できない」
「ちょっと、待ってください。父上! いまセシル姫がラングを豊かにした技術を開発したとおっしゃられましたか?」
ノエール殿下が尋ねた。他の人たちは目を丸くして陛下の言葉を聞いていた。