81
「ミチル王が殺害された晩餐会のことは詳しくは知らないが、セシル姫との婚姻がされなくても、近い内ラング国はミチル国になる予定だった」
「そ、そ、それは、一体どう言うことですか? いくらセイズ国が大国と言っても北にミチルとラングが合併した国ができれば、いままでのようにセイズ国の平和を維持することが困難になります。ミチル国の侵略をセイズ国は止めるべきです」
テイーズ辺境伯の言葉に男性たちは同意した。長い歴史から見てもミチル国は玉座は血で汚れており、そんな王の元、内乱が頻度にある国が平和な時はルークの知る限りなかった。ミチルの荒れた国の流民がセイズ国に流れて犯罪が増えている。
もしミチル国が豊かなラング国に侵略したら、長年平和を保っているセイズ国やセイズ国の東にあるリテール国を近諸国の力の均衡が崩れる。
「ああ。もちろんだ。だが、前ミチル王はかなり知恵のある者だった。その知恵を国の繁栄に使えばよかったものを。
20年前のラング王とミチル王女の婚姻は平和のためではなかったのだ。二人の結婚はミチル国がラング国を取り込むための一手だったのだ。みなも知っての通り、ワシの親友が王座に着いたばかりで、ラング国はいまのように豊ではなかった。友人にはミチル王女との婚姻を受け入れるしか国を守ることができなかった」
セシルの顔色がさらに白くなっていて心配になる。
「ラング王に嫁いだミチルの王女。故ラング王妃の生んだ子ども、ラング王太子とアリス王女はラング王の血が入っていない。不義の子どもたちだ。セシル姫が唯一のラング王女だ」
そんな前から計画をしていたなど。前ミチル王の執念を知り驚き部屋の中の者は誰一人と声を出せないでいる。
「ラング王は病だった。自分の先が短いことを知っており、ちょうどミチル国がラング国を乗っ取ろうとした時に行動した。
ラング国宰相や他の重臣たちの話によると、晩餐会の時に人払いをしたのはミチル王だった。ラング王が護衛や側近たちを部屋から追い出したのではない。
見方を変えればラング王は四人の敵と密室にいたことになる。その結果、ラング王以外殺されていた」
ミチル王が護衛たちに席を外すと命令したのなら、ミチル王がラング王を殺害した可能性が高い。
「結果、ラング王ただ一人生き延びた。巷ではラング王が毒殺でミチル王たちを殺したとなっているが、本来のことは分からない。ラング国重臣たちはなにも言わなかった。ただラング王は国を守ったと言っておった。
だからわしはこの問題について関与するつもりはない。ミチル前王弟がラング国の制裁に協力を訴えているが関与するつもりはない」
「陛下。ミチル前王弟の制裁の内容はどのような内容なのですか?」
ステファンが尋ねた。母上は先ほどから顔色が悪い。
「ああ。一番の賠償はセシル姫をミチル前王弟の側室にすることだった」
『バーン』
「それは国の賠償でなく、色に狂った豚のためのものじゃないか!」
ルークは怒りに身を震わせながらテーブルを叩いて立ち上がった。誰があの豚野郎にセシルを渡さないといけない。いや豚野郎じゃなくても、どんな男にセシルをやるつもりなどない。
「ああ。そうだ。普通に考えればそうなる。ルーク、怒る気持ちも分かるが、セシル姫たちが怖がっておる。座りなさい。
セシル姫は唯一のラング王族だ。その意味は分かるか? いまラング国はセイズ国の一部になったが、民の心構えはそう簡単に消えない。ラング国民にとって仕えるのはセシル姫だ。
アリス姫も一応ラング王女となっているが、国民の認める王族はセシル姫だ。
ミチル前王弟も、セシル姫を手に入れれば、あわよくばワシに楯突いてラング国が手に入ると思ったのだろう」
叔父上たちはセシルを見て父上を見て沈思黙考していた。
「セシル姫が王族の誰かと婚姻を結べばことが国の合併が円満に解決するが、ワシはセシル姫には幸せになって欲しいと思っている。
だからセシル姫の結婚相手は彼女に決めてもらう。それでは彼女の身の安全が危うくなる故、リリー同様タイラの養女にする。養女にする折に、王族として二人を迎え入れる」
「そ、それは」
父上の言葉一句一字に歓喜の気持ちになったが、セシルの婚姻は彼女の意志と言われ落ち込んだ。だが、セシルの気持ちをルークが掴めばいいだけのこと、と思い直したが、兄上たちもセシルを見ていたから気持ちが焦る。
「もちろんセシル姫もリリー、ああ、リリー姫だな。二人はワシの可愛い姪になるが、二人の子どもたちは王族にならない。だがリンダ妃とタイラの子どもは王族になる。
タイラとリンダ妃の婚姻儀はここにいる神官長によって結んだ。
みんなの前での結婚式は一ヶ月後になる。近諸国と国民への発表は一週間後の舞踏会でする。それまで他言無用だ」
急な話だが、みんな父上の話を受け入れた。なにより叔父や叔母たちは、こうして新たに家族が増えることを喜んでいる。兄上たちも綺麗なセシルとリリーが親戚になったことを喜んでいる。
「来週ある諸国会議のために、他国の者たちに出入りが激しくなる故、三人にはここで暮らしてもらう。三人のことは来週までワシの大切な客人としてもてなすことにする」
セシルが近くで生活すると知って、心が弾んだ。
父上の話が終わり食事が持ち運ばれた。隣にいる兄上がにこやかな顔でセシルとリリーに話しかけていて、ルークはムッとした顔をしながらセシルを見ながら食事をした。