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「密書にリリーの父親が誰かも記していた」
「えっ!?」
「それは誰ですか?」
タイラさまがセシルが尋ねるより先に言葉を発する。
リリーとリンダと繋がっている手に一瞬力が入る。じわじわと手の平に汗を握る。汗はセシル自身のかリンダかリリーの誰のか分からない。
「リンダ、父親は誰か知っているか?」
「も、申し訳ありません。顔は覚えていますが名前を知りません。ミチル国の偉い方だとお母さまがおっしゃった以外何も知りません。で、でも、先月、ここに来た日にあの人を見かけました……。
お願いします。セシル姫とリリーを守ってください。浅ましい女と思われるかもしれませんが、もしタイラさまとの結婚が二人の身の安全を保証してくれると言うのでしたらお受けします。タイラさま、お願いします。
私と結婚してください。もう年で無知で役立たずですが、お願いします」
リンダの手がふるえている。「リンダ……」リンダが無理だったら何も話さなくていいと言う意味で、声をかけようとしたが、リンダが先に返事をした。
過去のことを今まで表立って話すことをしなかったのに。リリーの身の危険を聞いて、セイズ王へ助けを求めるように言葉をつづった。
「「お母さん」」「「「リンダ」」」
リンダの台詞が嬉しいはずのタイラさまでさえ狼狽した声を出し、リンダを気遣ってそわそわしている。
「ラング王にセシル姫の安全は元より、リンダやリリー、そこのディランのことも頼まれている」
(とーさま! とーさま、どうしてみんなのことをそんなに心配していたのに。どうして自殺なんてしたの。とーさんだったら、自分で解決しようとする人だったのに。どうして? とーさん、なにがあったの……)
セイズ王の台詞で、いままでのとーさまへの気持ちがあふれた。
「タイラはいい男だ。リンダのよい夫になるだろう。もしそうでなければ、セイズ王の権限でタイラからそちを奪おうと誓おう」
「兄上!! そんなことにはなりません!!」
「はっはっは。そうならないでくれ。わしは嫁を愛しておるからな。婚姻はすぐに結ぶ。結婚式は早めにできるよう優先させる。他者への発表は、タイラとリンダが婚姻を結び、セシル姫とリリーがタイラの娘になった後にする。
セシル姫とリリーは王族の籍に入る」
話の展開が早すぎる。すでにセイズ王はセシルたちの将来を決めていた。
「わたくしたちを王族の籍に入れると言うことは、この国に姫がいないから、外国へ政治の駒にするためですか?」
「ブッファ」
真面目な顔の王が吹き出した。本人はお茶を用意していなくてよかったとボソボソ呟いた。
「が、外国へ政治の駒と言う意味はどう言う意味じゃ?」
「その意味通りです。もう知っているのに、わたくしにわざわざ説明を求めるのですか?」
大国の王は狸のようだ。狸の横にいる未来の義父親も狸二世のくせに、セシルを目が点になって見ている。
「いや、セシル姫の口からぜひ説明を聞きたい」
「分かりました。この国には姫がいないから、政略結婚で他国へ送る姫が必要だから、わたくしやリリーをわざわざ王族に迎え入れると思ったからです。別にわたくしやリリーは公爵令嬢でもいいのにと思ったのです」
もし王がそのつもりだったら、どうしよう。なによりリリーの父親のことを聞かない限りには、将来のことを決められない。リリーの父親がミチルの上流貴族。嫌な気配がする。
「はっはっはっはっ。本当にセシル姫は突拍子のないことを考えるのだな。いや、悪い意味ではない。頭の回る姫で、これは愉快だ。
はっはっは。
安心しなさい。セシル姫とリリーの結婚については、強制するつもりはない。だが、将来的に二人の身の安全に関わると判断した場合は口を出すつもりだ」
「そうですか……。分かりました」
いまはその約束だけで十分だった。
「タイラ、机の引き出しにある婚姻手続きと養子縁組の書類を取ってきてくれ。
アシール神殿長のノブ殿がここにいるのじゃ。いま署名をした方がいいだろう」
「「「えっ!!!」」」
突拍子のないのは、目の前の王たちだと思う。
「ダメです! なんでそんなに順番と吹っ飛ばして話が進むのですか? 心の準備と言う言葉があります!」
「ああ。でもわしも忙しい身ゆえ。それに今後セシル姫たちを王族居館に滞在してもらうには、早めに籍を入れていた方がいい。なにより安全のためだ」
安全のためと言われるとなにも反対できなくなる。それよりなにか重大なことを忘れている気がする。これはルークに似た陛下のせいだ。ルーク共々、セシルの正常な思考を惑わす。




