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「セシル姫さまの資産はそれだけではありません」
「はあ!!?? ラング王の私財だけじゃない? それだけでどれだけの資産かわかっているのか? まだあるのか?」
つい宰相の言葉に驚き問いただす。公式な場ではないが、ルーク自身の言葉の崩れや対談の駆け引きなど考える余地すらなかった。
「ラング王の私財は土地や建築や金などです。これはラング国の金輸機関を通してセイズ国金輸機関へ移す予定です。セイズ国内の金輸機関にある預金はセイズ国王陛下が管理するように、ラング王がお願いしております。
それ以外に先祖の資産、つまり国宝とセシル姫さまご自身の持つ資産があります。
タイラ殿下たちにはラング国宝をセイズ国王陛下の元へ持って行ってもらいたいのです。もちろん王妃や王太子の資産は、全部アリス姫に渡されました。アリス姫さまはご自分で管理するとおっしゃられました。
アリス姫さまがラング国宝について問いました。
元来のラング国宝は、すべてセシル姫の物です。しかし、アリス姫さまにそのことをお伝えしませんでした。セイズ国までの道のりでセシル姫さまになにかあるといけませんので、遺言のことはセイズ国王陛下が話されるとお伝えしました。
ラング国宝の配分はセイズ王陛下がお決めになるものとします。
もしセイズ王陛下がご自分の物にしたとしても、我々はなにもいえません」
「貴様! われわれセイズ王族が平和で合併した国宝を横領すると思っておるのか!!」
「ルーク落ち着け。タルード卿は頭の切れる者だ。話は最後まで聞いて物を申せ」
叔父上がルークの苛立ちが収まるように話をつづける。
「この国の重臣たちは国宝の扱いに困っているのだろう。このまま城に残しても争いの種になる。かといって、現金に課金するにも、その価値を払える機関などない。国宝はセシル姫の物だ。ひいて本心をいえば、ラング国民としてこのまま国宝までもセイズ国またはセイズ王族の物になるのが嫌なんだろう。
タルード卿自身、なぜラング王が命を絶ったのかいまだに納得していないようだな……。
どちらにせよ。ラング王の遺言では、国宝はセシル姫の物だ。
国宝をセシル姫が持っている自体、彼女の身が危なくなる。
だから、何も略奪行為をしないと宣言した我々を、宰相は信頼してこのような申し出をしておるのだ。そうだろう?」
「はい。そのとおりです。タイラ殿下。試した行為をお許しください。ラング国宝で金銀でできた物は、国のために使うようにラング王が遺言を残しました。
しかし装飾物、貴重な細工された歴代の王族が身につけた宝物は、ラング王の先祖の歴史と。ラング王はセシルさまに受け継いでもらいたいと。本来なら次期王が受け継ぐ宝ですが、ラング国はなくなります。ラング国最後の王族セシル姫さまに受け継がれることに、ラング国の重臣たちの思いです。
ラング国宝は、ラング王個人資産よりはるかに価値があります。それだけ長い年月一つの王族が国を統治してきた結果です。
ラング王が自害された理由は確かに私もわかりません。しかしラング王は賢王です。きっとなにか重大な理由があり、ラング王の出した結論はセシル姫さまの安全を守ることと、ラング国を守ることだったと信じています
」
「「……」」
ルークたちは宰相が落とした爆弾に頭が痛くなった。ラング国はセイズ国よりはるかに長く古い国だ。セイズ国もミチル国ほどではないが、近郊を吸収していまの国がある。その中でセイズ国がラング国を占領できなかった理由は、ラング国が長い冬で国が閉ざされる他に、神がかりの不思議な国と知られているからだ。
偶然かもしれないが、昔ルークの先祖がラング国へ侵略しようとした時に激しい嵐で軍に損害があったり、ラング国に入ったら途端兵士たちが病気になったりした。
ラング国のアシール神殿は最古神殿だ。現在セイズ国のアシール神殿が本神殿だが、一番古い神殿はラング国神殿だといわれている。だからラング国神殿長の力はアシール教徒の中で上だ。
だから当時のラング国神殿長が、『ラング国侵入は神を罵言する行為』と宣言した後、セイズ国はラング国を侵入しない代わりに同盟国とした。
「ラング国宝はすべてセシル姫の所持品として、ラング王の遺言どおり神殿にも記されました。その品々の総目録です」
叔父上が宰相に差し出された書類を見て、うなりながら目を通している。数枚の紙を読み終えた後に、ルークに渡した。
ルークもその総目録を読むなり頭痛を覚える。
「セシル姫はこのまま王になったらどうだ……。もちろん冗談だが、古き国家のラングがこれほどの資金を持っていたと、一体誰が想像したのだろうか……。その辺の小国でさえこれほどの資金を持っていないぞ」
総目録にはそれぞれの宝の特徴と、宝の入手経歴が記されていた。数百年前の小さな首飾り一つで、セイズ国騎士団一年分支出金に相応する。そんな宝がいくつもあった。
「ルーク。セシル姫の宝を運ぶ荷台の護衛を増やさないといけないな」
「ラング国神殿長から、神殿騎士を50人護衛にという申し出をお受けしてください」
宰相がいった。
「……我が軍だけでは足りないか……。仕方ないか……」
叔父上が今回の任務はすべてセイズ軍で行うと、ラング国騎士に伝えたが、いまは護衛がさらに必要になり神殿騎士の護衛を受け入れざるおえない。
「ありがとうございます」
宰相が頭を下げた。
「タルード卿は最初からセシル姫の護衛の増加を申し出ておったから、これもあぬしの考えどおりだろう?」
叔父上がため息をついた。
「……はい。決してセイズ国軍を信頼していないわけではありません。私がセシル姫さまを自分の孫のようにかわいいから一人でも多く護衛をつけたかったのです。もう一つのセシル姫さまの財産について話をしてもいいですか?」
「もうこれだけの財産を持っているのに、まだあるのか?」
叔父上じゃないが、ルークも顔から血が下がるのがわかる。
「はい。ラング国技術機関で発明された物はすべてセシル姫さまの案です。そしてラング国にあるほとんどの工場は確かに国が経営をしておりますが、その収入の一部はセシル姫さまに渡されるようになっております。
この権利はアシール神殿にも認められており、セイズ国もその権利を奪うことはできません」
「「!!」」
「つまり、それは、どういうことだ?」
宰相の言葉があまりにも簡素で理解できない。




