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ラング国の宰相は、若い時はさぞ優男だったと思わせるような容姿で、シルバーグレイの髪の毛さえいかに彼が綺麗に年を取ったかわかる。
ラング国筆頭タルード公爵家は古き時代から王族を支えてきた家だ。いま宰相は公爵家を長男にまかせており、自分は国と王族を守る者たちを育てることに力を注いでいる、とセイズ国を出る時に彼の資料を読んだ。
宰相が筆頭に立ち王妃派、つまりミチル国出身派閥を潰した。ラング王は彼を信頼しており、ラング王の死後、宰相にすべてを任せておるから国は大丈夫といっていた。と、父王からその話を聞いた時は、宰相がどれほど狡猾な人と思っていたが、彼の容姿を見て驚いた。
ラング国は北国特有の色素の薄い民族で綺麗な容姿の者たちが多い。セシルはこの綺麗な民族の筆頭的な美しさを持つ。雪のように清らかな儚い容姿。同じ北国のミチルは確かに色素が薄い者が多いが、多くの移民者たちと交わり、国が安定しなかった歴史の結果なのかラング国民のように秀でて美しくない。
「こんにちは、このような場をもうけてくださりまして、感謝しております」
叔父上の執務室に、叔父上とルーク、それと二人の側近たちと護衛たちがいる。タルード公爵、宰相が最初にルークたちに礼をした。
「いや、大切な話ということなんだ?」
宰相は国の会議ではなく、叔父上とルーク二人だけと対話したいと申し出た。その意図を汲んで叔父上も宰相に返事をする。
「タイラ殿下とルーク殿下三人で話をすることをお許しお願いします」
「わかった。みなの者さがれ」
「しかし!!」
叔父上の側近が口を濁す。
「ルークと私は軍人だ。自分の身を守ることができる。外で待機するように」
叔父上の力のこもった声は、長い間訓練してきた部下たちをしたがえる。部屋にはルークと叔父上と宰相だけになり、幾分部屋が広く感じる。三人は部屋にあるソファーに座る。
「さて秘密裏の話とはなんだ?」
叔父上が宰相に話をはじめるように促した。
「セシル姫さまとリンダとリリーのことです」
リンダという言葉で、いままであまり宰相の話に興味を持たなかった叔父上が体を前かがみにして宰相の話を待つ。
「セイズ国王陛下が今後セシル姫さまの身分をどのような扱いをされるのかわかりません。しかし、もしセシル姫さまが身分を失うのであれば、私の孫としての身分をあげたいと考えております。これはセイズ国王陛下への文にも申し出ております」
「そうか……。セシル姫のことはどうなるか私も知らぬ。彼女はラング国王の血が入っている。タルード卿がどんなに善良であって彼女の身を案じ孫にしたいと思っていても、他の者は違う。セシル姫の王族としての血をかさに、ラング国復興を考える輩がいるかもしれない。タルード卿も知っておるこどだろう?」
「はい。もちろん」
頭の切れる宰相はセシルの置かれている立場を知っていながら、あえて自分の孫にして身分で守ってあげたい、という。それほどに彼はセシルのことを可愛がっている気持ちが伝わる。
「ただ私の気持ちを知ってもらいたかっただけです。セシル姫さまに身分という盾を与えることができればよかったのですが、私にはもうその力がないようですね……」
宰相はふと落胆の笑みを浮かべた。
「……秘密の話はセシル姫の資産についてです。
セシル姫さまがこれまで稼ぎになったお金は、商業ギルドと薬師ギルドに預けています。それとは別にラング王個人の資産すべてをセシル姫さまに残されました」
「はっ!? アリス姫には? セシル姫の稼ぎとはどういうことだ?」
ラング王個人の資産がどれだけあるかわからないが、一国の、それも裕福な国の王だ。ルークはあせりながら宰相に尋ねる。
「アリス姫の資産は国が王女として支払った金額と王妃と王太子の私財すべて渡されます。しかし、王妃はミチル国から嫁いできた時の持参金は無だった上に、王妃と王太子、それにアリス姫さまは浪費家でしたからほとんど残っているお金はないでしょう」
「「……」」
ルークたちは、同じ娘なのに、正妃出の王女に自分の遺産を残さないラング国王に、なにも言葉がでない。
「ご安心ください。アリス姫にはラング王女として恥ずかしくないように結婚する際の結納金はきちんとあります。今後の身のふりがどうなろうとも、結婚するまでは、ラング国王女としての資金は払われます。もちろんセシル姫にもです」
「ああ、わかっておる。そのことは会議で取り決めたことだ。セシル姫はどれくらいの財産を持っているのだ?」
叔父上が興味深そうに尋ねた。
「はい。私はラング国王陛下が、セイズ王族を全面的に信頼しているとおっしゃったお言葉を信じています。だからこうしてお二人を信用して、話をしております。
亡きラング国王陛下が統治して、ラングはまわりの国より頭角を出し豊になりました。国王の資産はラング王国の五分の一に値します」
「!!」
細かい数値はわからないが、ラング国はセイズ国の四州分の国力があると出発前に聞いた。まさかセイズ国より二十分の一しかない国がそれほど豊かと驚いた。つまり、セイズ国の一州ほどの資産をセシルが持っているということになる。
叔父上が収めている州には二つの伯爵家があり四つの男爵家といくつかの騎士家がある。セイズ国にある二十州の一州の資産をセシルが一人で持っているとなる。叔父上やルーク個人の所持金よりはるかに多い。
「……そうか。もしセシル姫になにかあった時はその資金はどうなる?」
叔父上がため息を吐いた後に尋ねた。
「もしセシル姫さまにお子がいればその者に譲渡されます。しかしもしセシル姫さまにお子がいない場合は、ラング国神殿とこの国の重臣たちが資金の管理をして孤児院などの機関に分割されます」
「そうか。セシル姫を暗殺して資金を奪わないように。ラング王はそこまでセシル姫のことを思っていたのに、なぜ自害したのか……。わからないことばかりだ」
叔父上の言葉に同意してうなずく。これだけの資産や権力を持ちながら、なぜラング王は妻と息子を殺害してたのだろう……。




