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 叔父上付きの護衛からあれからなにも報告がないから、落ち着いたのだろう。

 叔父上もいままでセイズ国軍将軍として、多くの者に尊敬され恐れられていたのに。まさか女一人のことになると常識も理性もなくなるとは……。

 やはりセシルたちはなにか特殊な男を惑わす薬草を持っているのだろう。それしか昨日の自分の行動の理由がわからない。


 店を転々と渡り、楽しげな顔で商品を見ているセシルを見ていてつい自分もうれしくなり頬の筋肉が緩くなっていた。ときどきセシルがじっくり見ている商品を買ってあげたいと思い、現金を持っていないことに苛立つ。

 セシルといて生まれてはじめて現金を持つ意味を知った。ルークはいままで現金を使用することがなかった。金がないということがこんなに惨めだと知り、これからはつねに持参するつもりだ。そして、今度はセシルをセイズの城下街に連れて行って、彼女の欲しい物を全部買ってあげたい。


 彼女の側にいるとはじめてを体験することが多い。

 そしてセシルの体験するはじめてに自分が一緒にいれることを幸せに感じ、この得体のしれない気持ちを持て余している。


(きっと妹への気持ちに違いない……。)


 セシルに「守ってやる」と言った言葉も、彼女と一緒に馬に乗り、甘い香りのする柔らかい体をずっと自分の両手で包んでいたいと思った気持ちも……きっと、絶対、確実に保護対象への、妹への、家族への気持ちに違いない。いや、絶対そうだ! と、整理のつかない気持ちを無理やり納得させる。 


 それにこれは彼女が両親も家も国も身分もなくしてかわいそうだから、年下の少女を守るのは騎士として当然なことだ、と納得する。



 昼食は食堂から運ばれたポテトサラダという物とサンドイッチという物だった。手軽に食せるサンドイッチ。この斬新な料理を作った者は天才だ。

 とくにそれぞれに使われているマヨネーズという調味料が絶品だ。


「本当にラング国の食べ物はおいしいな……」


「はい。噂によるとパンをはじめ、ピザやスパゲッティー。リンゴパイにかぼちゃパイ。セイズにない料理のすべては、セシル姫さまが考えて広めた料理だと料理長や宰相がいっていました」


「はあ? そ、それはどういうことだ?」


 そんなことがありえるのか? 後宮でずっと育った少女が、斬新な素晴らしい料理をこんなにたくさん作れるのか?


「はい。私も彼らの言葉を信じられずにいますが、ラング国重臣たちがセシル姫さまは天才だといっています」


「天才?」


 ますます自分の耳を疑う。あの頓珍漢なことをよくいうセシルが天才という言葉が一番似合わない。


「そのことについて宰相がタイラ閣下ともにお話があるそうです。後2時間したらタイラ閣下の執務室で話し合いをしたいそうです」


「そうか。わかった」


 セシルが天才という言葉が気になったが、明日ラング国を離れる前に済ませない書類を片付ける。今回の遠征はルークにとって騎士科卒業研修だが、今後騎士として生きるのに大切な一歩だ。

 ルークはセイズ国第2王子で、いまは王位継承権2位だから政治に関われば自分の意志と反して派閥ができる。兄上は優秀だが、兄上の取り巻きになれなかった輩などルークにならと邪な考えを持つ者たちが勝手に派閥を作っている。

 兄上が結婚して子どもを生めばルークなんてさらに王位など遠のくのに……欲深い貴族たちは目の前の利益ばかりで先をみていない。軍力で国を支配しようという輩もいる。つい最近前まで叔父上にまとわり付いていたが、彼が結婚もせずに、王位継承権がルークの下になった途端にルークに付いた。

 

 それでも少しでも兄上の王位継承が順調に行われるために、ルークは小さい時から叔父上のように政治から離れて軍隊で国を支えようと思っている。

 結婚も兄上の王太子妃を見た上で、二人に利益のある女性を見つけようとよ、と思っていた。

 でもいまは「セシルでもいいかもしれない」という考えが頭をよぎる。彼女は亡国の姫だから力や後押しをする実家がない。妻の実家は王位継承でも重要な役割を持つ。セシルを妃に迎えれば、ルークの力はさらに弱くなるだろう。


 ラング国民がセイズ国に円滑に受け入れられるようにするためにも、今後セシルと結婚してラング国復興をしようと思う者たちを出さないためにも。自分が彼女と結婚をするのはいい考えだ。一度セシルとの結婚を考えれば考えるほど、それが一番いい考えに思えてくる。


 セシルを守ると誓ったから、彼女と結婚するのが一番いい。

 セシルも絶対にルークの求婚を受け入れるだろう。少なくともルークと結婚したら、いままでのように王族として生活できる。いくらラング国からセシルへの王族としての支給金が払われても、それは結婚の支度金として十分にあるが、亡国の姫をもらう貴族などいない。結局貴族は権力に執着している。ルークと結婚すれば彼女の王女としての誇りを守ってあげれる。

 セシルとの結婚を考えて胸が踊る。自分でもわかるくらいに顔が熱くなり、頬が緩む。セイズ国に戻り次第父上に話をしてみよう。


 セシルとの結婚を決めてからルークは気持ちが軽くなり、目の前に積み重なる書類を苦なく次々と片付けていった。

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