116(完結)
その日の夜は王宮居館で親しい者たちだけで祝いをした。
「セシル姫さま。おめでとうございます」
「セス!!」
セシルはセスに抱きつく。
「セシル姫さまが幸せそうで安心しました。もちろんリンダさまもリリーさまもです。ルネンさまと陛下にもいまの三人を見せてあげたかったです」
セシルがポケットからハンカチを出して涙を拭いた。セスの言う陛下はとーさまのことだ。
「どうぞお幸せになってください」
セスはミレンに付き添って緑の民の里へ行くことになっている。かーさまはミレンのことを憎んでいなかった。それより、とーさまに会わせてくれた、と感謝していたと言った。かーさまの最後の頼みで、セスは残りの人生をミレンの側にいてあげると言った。
ミレンの創造した毒キノコは、普通のキノコのように栽培ができる。キノコの吹き出す粉以外は触っても大丈夫だった。もちろんセシルがキノコの生態を調べようとした時は、猛烈に反対された。でも毒キノコをルークの執務室の廊下にそのまま放置にしていてもいけない。
セシルの創った桜で毒は洗浄されている。もし毒キノコを触った時に炎症が出たらすぐに治す薬草も用意された中、ルークに付き添われながら毒キノコの生態を調べた。
毒キノコは兵器になる。科学兵器と一緒だ。セイズ王とタイラさま、ノブたちと毒キノコの扱いについて何度も慎重に話し合った。セシルはその会合に参加しなかった。
セシルの創った桜は、市場にたくさん流すことになった。これ以上セイズ国だけが緑の民の恩恵を独占すれば他国が不満を募らせて戦争になるかもしれないからだと言われた。
戦争っておおげさね、って言ったら、セシルを攫う者たちがますます増えているとセイズ王が教えてくれた。だからルークとの結婚はセシルを守るためにも大事なことだと言われた。
セシルはルークと庭のベンチに座って、あっちこっちにあるランタンの景色を楽しんでいる。
この庭に桜の花を植えた。セシルの創造した桜の花を地面に植えたらいつか木の芽が生える。
最初はセイズ国王宮と旧ラング国王宮で栽培される予定だ。前世の中で薄れた記憶の桜並木がまた見ることができる日がくる。
「セシル。セシルは覚えていないが最初に俺がセシルを見た時に、確かに君の美しさに一目惚れをした。でも容姿の美しさよりも、リリー姫やリンダ妃を守ろうとして、まっすぐと騎士たちの前に立ちふさがる姿に心を奪われたのだ。
セシルの素晴らしさをここで一言で伝えられない。これからずっと俺の、私の側にいてくれ。ラング王がルネン妃を最後の日まで守ったように、ルネン妃が命をかけてラング王を助けようとしたように、私はこの世にいる最後に時までセシルを守り愛する。あなたのために私の命を尽くさせてくれ」
「ルーク」
涙が目からこぼれる。ルークのように素敵な台詞が思い出せない。ルークの固い胸に抱きつく。
「もし前世があるとしたら私はきっと独身だったと思う」
もしじゃなく本当に独身だった。
「えっ?」
「ルークに出会わなかったから。でも今世はルークに出会えた。だからこれからも来世もルークの側にいるね」
「いや、もし前世があるとしたらきっと俺とセシルは結婚していたよ」
ルークがにっこりと笑って、セシルの唇にキスを落とした。
『緑の民』は伝説の人物だ、おとぎ話の創造人物だ、と言う人もいる。
遠い昔、消え去った幻の国ラング国に、美しい緑の民の母娘がいた、とかつてラング国があった土地では語り継がれている。
『緑の民』は悪人をこの世から滅ぼす薬草も与える。いや、緑の民は私利私欲で神の力を使う悪魔だ。アシール神殿の発祥地のラング国も、美貌の緑の民のせいで国が滅んだ、とアンチ『緑の民』集団もいた。
『緑の民』は王族に取り入るのが上手い、絶世の美女だ、そんな女に一度でも相手にして欲しい、と酒場では男たちのよい酒のつまみになりやすい話題だ。
架空人物の『緑の民』について人々は、激しく何度も討論した。歴史学者たちや薬師たちは『緑の民』は存在すると言う者が多い。特にラング王について研究している者や大国セイズ王国の歴史学者たちは、『セシル姫』について調べる度に彼女はまさしく『緑の民』だったと結論を出す。
神殿の中には『緑の民』についての記録があるが奥深くに保管されていて、神殿長にしか観覧できない。
『緑の民のセシル姫』についての伝記が意図的に改削されているのは、彼女を守るためだったとも言われている。
あらゆる病気を治す薬草が存在する現在で、もし『緑の民』がいたとしても『緑の民』が新たに植物を創り出すのは不可能と言う学者もいる。
(完)
長い間作品を読んでくださり、ありがとうございます。またお気に入りや評価や励ましのメールなどありがとうございました。
番外編や続編など、プロットがありますが、他の作品を書きたいのでこのまま続けるか少し休んで決めます。
いままで本当にありがとうございました。