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ヨット高校新聞部!!  作者: 中田 春
ヨット高校新聞部!!
7/56

さわり.5




 歳は二十五くらい――

 悲しげな表情を浮かべる小さな女の子――

 西洋の女性――

 血のように赤い振袖姿――

 まるで光の集合体ような――



 これらは〈ヨット高七不思議〉のひとつ、

 〈歩き回る少女〉に関する目撃談だ。



 そこに共通しているのは“女性”ということ。

 〈職員室〉や〈生徒会室〉のある“一階には姿を見せない”ということ。



 そして、陽が昇っている時間帯には決して現れないということ――



 ある女性徒の証言である。

「そこの階段の手すりにヒジを掛けて、こっち見てた。夕方よ夕方。周りに誰も居なくて、すごく静かだった。でね、ああ“アレ”だと思って恐る恐る近付いて行ったの。そしたらサーッと――」


「部活の帰り。私の席の前になんか立ってた。すっごい気味が悪くて、見るな見るなって思ってたら、やっぱこっち見て、ニタァって。教室も真っ暗で誰も居なくて私だけで、なんか、すっごい気持ち悪い顔で私を睨んで、次の瞬間窓から――」



 やはり跡形もなく消えるらしい。

 気持ちの悪い顔、というのは新証言だ。





「でも私、呪文を知っていましたから」



 その女生徒に、その摩訶不思議な呪文を知らないとどうなるかを

 僕は一応尋ねてみた。


「腕を掴まれて、一緒に窓から飛び降りるそうです。怖いですよね」

「……それ誰から聞いたの? 君、新入生だよね」



 真新しい制服を着た少女は人影のない〈図書室〉で、

 外国人作家が書いた分厚い冒険小説を黙々と読んでいた。

 机の上には巻数の違う同じ厚さの本が山のように積み上がっている。



 そこでハッとした。

 沈みそうな夕日を受けて、眩いばかりに光輝く彼女を

 まじまじと見てしまったからだ。


「どうかしましたか?」


 注目を引く少女の銀色の長髪――暗闇でも映えるキメ細かい無垢な肌――

 そして近寄りがたい彼女のミステリアスな雰囲気でさえ、

 “その一点”から受ける強烈な印象にはかなわない。


 彼女の瞳だ。

 そこにポンと置かれただけで、調和が簡単に崩れ去ってしまうような、

 妖しく光る彼女の赤い瞳はどうしてかは分からないが、

 強い不安の念を喚起するのだ。



 整った――いや、整い過ぎている顔を少女は怪訝そうに歪めると

 僕の視線に気付いたのか、やがて表情を暗くさせる。



「そッ、その幽霊だけど! ……その話って有名なの?」


 すると彼女は僕の無知を軽蔑するように

 「誰でも知ってますよ」と言い切った。

 この場合の“誰でも”には、僕はきっと含まれていない。




「先輩は何を調べているんですか?」




 それを聞いて、何をしているのか自分でも不安になる。

 「ありがとう」と聡明な彼女に言い置いて、それきり〈図書室〉での

 聞き込みを切り上げた。

 貸し出しカウンターの上には図書委員が置いて帰った、部屋の鍵が

 ぞんざいに放置されている。


 もしかすると彼女はふと耳にした〈図書室〉に巣食う

 『本のムシ』というヤツかもしれない。





 これからどうしようか、迷う。

 さすがに三年生が居る上級階(敬意を込めて、勝手に僕は呼ぶ)

 には行けそうにない。

 あそこは僕らにとって未知の場所だ。


 三年生が居る四階に特別教室は存在せず、規模は他の階の半分ほどだ。

 屋上へと続く階段には『立ち入り禁止』を示す頑丈なシャッターが

 下ろされている。



 そのシャッターの向こう側には〈ヨット高七不思議〉のひとつ、

 〈開かずの理科準備室〉があるらしいが……。





 突き当たりの〈図書室〉から離れ、いざ階段へと向かう。

 そして一歩二歩、

 そこから進むか進まないかのところで僕は足を止めた。



   音はない。

   誰も居ない。


   ひっそりと静まり返る放課後の校舎。

   

   自分の息遣いだけが廊下に響いていた。




 どうして、“その存在”を感じてしまったのだろう……。


 鳥肌が、立つ。

 腕。

 首筋。額。


 “視線”を感じる。

 僕を見つめる、まるでネバりつくように不快な、


 し

 せ

 ん

 。



   何カ。

 来ル――



  アソ

  に

 誰

   カ。




 何故か確信めいた直感が瞬時によぎる。




 ソレヲ見テハイケナイ。




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