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さわり.3
放課後の校舎には、不思議な話が付きものだ。
一見して、なんら後ろ暗いところのない、この【ヨット高】でも、
そういった話は尽きることはない。
長い年月を隔て、生徒らの間で連綿と話し継がれてきた噂話は
どこからが原型で、どこまでが複製か。
その境目は酷く曖昧だ。
夕刻――
そこは陰と陽が混在する異界の入り口だ。
そして高校生である僕たちもまた、大人でも、
しかし決して子供でもない。
場所と、観念との境界を漂う放課後の学校はそういった理由で
やはり不思議な現象が起こるのだと思う。
「あんなこと言われて、実際どうするって話じゃん。私、全ッ然思いつかない。だから私に聞かないで。逆立ちしたって出てこないんだから!」
ねえ、とナツキは人懐っこい顔を寄せる。
こういう時の僕は彼女のメガネに触れてしまわないようにと、
余計な気を揉んだりする。
「柴崎君に完全に一任! 君の指示に従います、私は!」
そう言って、静まり返った寂しい廊下を二人で歩きながら
彼女は柔らかく微笑んだ。
「なんか、いいアイディアとか浮かんでる?」
「うん、実はひとつだけ」
僕は足を止め、少し間を空けた。
いや、躊躇した。
窓から差し込んだ太陽の残り火が、僕らを優しく照らしていた。
「……七不思議を検証しようかな、と」




