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ホームレス魔法少女~Magic girl lost one's Home~  作者: あかむ
最終章 永劫の安らぎを求めるもの
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第八十七話

――気付けば別の場所に飛ばされていた。状況を説明するにはそれが一番しっくりと来ると、九尾の魔女は考える。

 しかし、それは本来在り得ない事だ。あらゆる干渉を触れた先から殺すようにしていた。更に“界渡りの魔女”が相手側にいる以上、転移の類は殊更、念入りに対処していた。


「――ここ、は」


 だが、辺りを見渡せばそこは見知らぬ色褪せた教会。人の気配は無く、何かが居た事すら遙か昔と思わせる、しかしホコリの一つすら無い異様な教会。そして、獣神化した身体は元の少女の姿に戻り、斬りつけられた傷は何もなかったように。

 まるで先ほどまでの戦いが夢だったかのような錯覚を覚えかけた瞬間、礼拝堂の祭壇に腰掛ける少女の姿に気付く。


「“拒絶、の”、貴様何をした」

「……安心したよ。世界の修正までは流石に殺せないみたいで」


 神を祭る場所に腰掛けると言う冒涜的な行為を、それを当然のように行う悠の姿に、九尾の魔女は一抹の不安を覚える。



 この訳の分からない状況を発生させた事ではない。



 ただ、眼前の少女が、格下であるはずの魔女を、本能的に、ただ、恐ろしいと感じる故に。




◆◇◆◇◆◇




 僕が行ったのは、単純な魔法の行使。

 意図的な、魔法の暴走。


 ……ティアナちゃんが語った仕組みだ。「魔女が死ねば魔法はその制御を失って暴走して広がり続け、世界は魔法ごと歪みを小さな異世界にして封じ込める」と。

 ならば際限なく魔法を広げ続けた場合、どうなる?世界は同じように魔法を小さな異世界にして封じ込めようとするだろう。


 僕はソレを意図的に引き起こし、そしてその封じ込めに九尾の魔女を巻き込んだ。


 そして、ティアナちゃんが言った言葉はもう一つ。「ここではわたしは神様」だとも。


 そう、そこに在るのはその魔女を“神”とする、異世界。

 ここでは彼女たちの“法”が絶対となる。

 魔女によって産みだされ、その法則を内包する世界。ならばそれを呼ぶに相応しい名は。



――魔界。



「“魔界・拒絶の教会”」

「……それが、ここの名かの」


 ここは、小さな教会。アーニャとティアナちゃんの望郷。


 ここは、“誰我接触不叶(だれもわれにふれることかなわず)”そのもの。


 幾度となくティアナちゃんと出会った色褪せた礼拝堂。

 誰一人祈る者のいない、伽藍堂の孤独な神への祭壇。


 この魔界に居座る神はただ一人。その魔法の担い手。


「―――故に、此処では僕が“神様”だ。“アレルヤ(主を崇め称えよ)” ってね」

「ハッ、転移しただけで何を偉そうに!我は永劫の安らぎを求めるもの……!」


 再び魔法を発動させ、僕を殺そうとする九尾の魔女。


「……僕は、その魔法を拒絶する」


 それを僕は、拒絶する。


「――――な」


 発動させようとした魔法がかき消され、困惑する九尾の魔女。


「莫迦なッ!くっ、ならばッ!!」

「……それも、拒絶する」

「っく、何故じゃ!」


 詠唱破棄で行おうとした魔法の発動を拒まれ、流石の九尾の魔女の表情も曇る。


「……なにを、したのじゃ」

「言った通りだよ。魔法の発動を拒絶したんだ」

「莫迦な、触れもせずにそんな事……」

「この世界自体が僕たちの魔法だよ。だから、僕はこの世界にあるもの全て、拒絶することが出来る」


 この世界において、僕の拒絶は一つの権能だ。やろうと思えば今までティアナちゃんが行っていたように、時間の流れすら拒絶する事が可能となる。


「な、なんじゃそれは!そんな事、神の所業では……」


 言いかけて九尾の魔女が気付く。先の僕の言葉が、伊達やはったりでは無いという事に。


「莫迦な、こんな事が…… そうか、ではあの場所も……」


 魔女は、夢を見る。だからこそ彼女も、僕たちと同じように何処かを常に夢に見ていたはずだ。それは彼女が忘れる事の出来ない何よりも大切な思い出の場所。


「そんな大それた事を行えるとは、お主正気とはおもえぬの。だが、しかし、直ぐに殺さなかったのは悪手じゃったのぅ、“拒絶の”」


 ……九尾の魔女の魔法が、広がる。


「魔法を広げ、世界の収束に相手ごと巻き込み、自らが法の異界に封じ込める」


 風船のように、今にも破裂しそうな緊張感を孕みながら膨らむ。


「なるほど、魔女であれば誰でも気付かず、誰でもやろうとは思わぬ」


 そして最後の一歩を、いとも簡単に九尾の魔女は踏み越える。


「恐怖心がリミッターか。その方法を試そうにも、恐怖が邪魔をするようになっておる」


 そう、その方法を魔女は試すことが出来ない。魔法の限界が来た時に襲い掛かる恐怖は、命の危険があると分かっていても、半ば無意識に魔法を解除してしまう程のものだから。


「じゃが、もう殺した」

「――――」


 九尾の魔女は、今までも様々なものを殺してきた。

 気配、殺気、油断、他にも。今更恐怖心一つを殺すのに躊躇いも無いだろう。


「……そうか、それがお主の名か……」


 愛おしげに、懐かしそうに、九尾の魔女はその名を呼ぶ。



「――“魔界・常世の彼岸”」



 広がるのは、一面の彼岸花。

 寂れた教会の床一面を赤く、血で染め上げる様に咲き誇る曼珠沙華。

 これが、この風景が九尾の魔女の――


「あぁ、あぁ、そうだ。ここが、妾の世界。我が愛しき望郷。

 さて、世界の潰しあいといこうかの」


 ……再び、戦いの火ぶたが落とされた。




 神の戦い、というのはゲームや漫画のファンタジーの世界にはありがちだけど、これはまさしくそれだった。


「でりゃああっ!!」


 気合を込めて魔法を放つ。単純な力の行使。だけど込められた概念が違う。

 万象の拒絶。弾かれれば存在ごと消滅する存在の拒絶。


 それを当然の様に“殺す”九尾の魔女の魔法。


「く、はははは!何という万能感!成程、これは確かに切り札じゃのう!!」


 笑いながらカウンターの様に力の行使を行う。見たものを殺す直死の視線。

 当然の様に僕はそれを“拒絶”する。


 共に時間や空間すら支配する状態での戦い。それは思ったよりも埒が明かない。天秤の強さがどちらかに傾けば刹那の内に終わると確信出来るけれど、その天秤が一向に揺れる気配が無い。


 力の行使とそれの相殺。暫く繰り返しどれ程の時間がたったのか。


「しかし、解せぬのは汝の行動じゃ。何故、すぐに妾を殺さなかった?」

「…………」


 僕も九尾の魔女も辟易としだしたころ、おもむろに攻撃の手を止めた九尾の魔女が問いかける。


「これほどの権能ならば、妾が汝の行動を意識する間もなく殺しつくせたであろうに」


 九尾の魔女から投げかけられる当然の問い。九尾の魔女が魔界を広げるまでのその数分。それだけで勝敗を決めるには十分過ぎる力の差が、あの瞬間の僕達にはあった。


「別に、どっちでもいいからだよ」

「なに?」

「僕が勝とうが、あんたが勝とうが、どっちでもいいんだ。

 言っただろう、ここは世界から弾きだされた牢獄だ」


 魔法すら及ばぬ世界の修正。死んだ魔女を楔として固定する世界。それが意味する事を九尾の魔女は理解し、歯噛みをする。


「……貴様」

「そうさ、ここに呼び寄せた時点で僕の勝ちなんだよ」

「っく、よくも」


 怒りを込めて再び襲いかかろうとする九尾の魔女。それを迎え撃とうとする僕。その両者の動きが、まるで時が止まったかのように固まる。

 一つの声によって。



「そうでもないよ」



 ――いま、だれがしゃべった?


 あり得ない事だ。ここには、僕と九尾の魔女しかいない。

 人も、小さな虫も、微生物さえも存在しない。普通の世界とは別の理を持った孤独の世界。

 それなのに、誰が……


「あ、あぁ、あ」


 動揺しながらも振り返った僕の視界に映ったのは見知らぬ一人の少女。


「夢?何故、ここに」


 そして僕以上に動揺し、うわ言の様なうめき声をあげる九尾の魔女。

 彼女は喉の奥から、絞り出すようにあり得ざるものの名を呼ぶ。



「――アリ、ア」

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