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ホームレス魔法少女~Magic girl lost one's Home~  作者: あかむ
第七章 見果てぬ世界を繋ぐもの
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第七十六話

 地上で最も強い動物とは。武器の有無もあるけれど、アフリカゾウと言われている。

 何故強いか。その答えは単純、身体が大きく重いからだ。質量が大きければ、体当たりや踏み付けといった攻撃力が上がり、多少の傷ではびくともしない防御力を得る。

 自然界で大きいという事は、それだけで強さに繋がる最重要な要素だ。


 で、あれば、これの強さを理解するのは、さほど難しい事ではない。


「……え、でかすぎない?」

「これ、は……噂以上ですね……」


 呆然と僕たちはソレを見上げる。愛緋ちゃんが人世界の巨像(ミズガルズ・コロサス)と呼んだその黒錆の鋼の巨像は、鎧をまとった人の形を象った像。

 異常なのは二つだけ。それが見上げても顔の造姿が分からない程の巨大さと、金属が擦れるような音を立てて動いている事。

 その時、巨像が片足を持ち上げる。あの質量の物体が片足で立てるのもすごいな……


「動いた。すご……」

「――って、踏み潰す気ですよ!ボーっとしないで悠!」

「わ、うわっ?!待って、エランティス拾って!」


 ボケっとしていた僕を叱りつけるアーニャの声。その声で脚を持ち上げた理由を理解する。何百、何千トンの重さなのか想像もつかないけれど、その下敷きになればどうなるかは子供でも分かる。

 足の裏だけでも数十メートルの踏み付けが襲ってくる。それの範囲から辛うじて気絶しているエランティスを拾い上げて走り抜けたと共に、空に飛びあがる。


「危な。あれ下敷きにされたら一巻の終わり?」

「……障壁や拒絶の魔法で耐えれても、力尽きるまで踏まれたまま為すすべ無いでしょうね」


 事実上の防御不能、即死攻撃である。ゲームだったら非難轟々の反則技だ。

 アーニャは天使の羽で、僕は重力とは反対方向に向けて斥力を発生させて浮かびながら、空へ上っていく。踏まれるのが致命的なら、踏まれない高さまで飛べばいい。街路樹を超えビルを超え、巨像の頭を超えた頃には地上にあるものはまるで豆粒になったような感覚を覚える。高さにして数百メートル、以前“蠅山の魔獣”に重力キックを喰らわせた事を思い出すけど、あの時と違い遠見の術式は無いから、下の方はよく見えない。

 代わりに、眼前に大きく見える鋼の巨人。視界いっぱいに映るその姿は、本当に何かの間違いじゃないかと思う程の巨体だ。


「そういえば、愛緋ちゃんはどこに?」

「アレの中ですね……操縦席でもあるのでしょうか」


 軋む音を立てながらこちらに顔を向ける巨像。その洞窟の入口にも思える“目”であろう穴倉は、しっかりとこちらに向けられている。バッチリと見えて居る様だ。巨大ロボット――戦隊ヒーローものでは定番のそれだけれど、生憎と僕たちにそんなものを用意する伝手は無い。不公平だ。


「“荒鋼の”ッ。何故“界渡りの”何かにこんなものを……」

『巨像運び、手伝ったら、貰った』


 まるでスピーカーの様に拡幅された愛緋ちゃんの声が巨像から発せられて、僕たちは二人そろってビクリと身構える。

 え、喋れるの?この距離で話し声聞こえるの?


「盗み聞きは感心しませんよ……ッ!『(ティファレト)より来たれミカエル』!!」


 アーニャが始動キーを唱え、魔法を起動させる。現れたのは、巨大な炎。まるで生きているように巨像に絡みつき、ジリジリという熱気を放っている。百メートル以上の巨像とそれを包む炎という光景は、現実味をどこかに置き忘れたような異様な光景。


「鋼……だというのならば、このまま焼けて……」

『無駄。断熱は、完璧』


 しかし巨像は包まれる炎など存在しないかのように腕を持ち上げ、こちらに手のひらを向けた。

 あ、嫌な予感。


『次は、こっちの、番』


 愛緋ちゃんの気だるげな喋りと共に、手のひらからショットガンのような魔力の散弾が放たれた。


「ってハァ?!アーニャ!後ろに!」


 能力としては単純な魔力の塊の群れ。問題なのはその範囲。その大きさ。

 一つ一つが僕達の身長よりも大きい弾。それが圧倒的な制圧面をもって襲ってくるんだ。反則といわなくてどうする。


 耐える事は容易だ。何の付与効果もないただの魔力の弾では、いくら打ち続けたとしても拒絶の魔法を破ることは出来ない。だけど……


「い、いつまで撃ち続けてるんだよ!」


 弾の雨がやまない。これじゃあ攻勢に移る事も出来ない!


「まずいですね、悠。勝てそうにありません。あの巨体に溜めこまれた魔力、恐らく数週間撃ち続けてもおつりが来ます」


 悔しそうなアーニャの言葉が背中から聞こえる。数週間!それだけの間アレ動き続けるの!?


「……っく、愛緋ちゃんの魔法が切れるのを待つのは?」

「あれは魔法で造られたものですが、駆動自体には魔法は不必要ですから…… 今頃“界渡りの”は巨像の中で魔法を納めてるかと」

「つまり、確実に僕たちが先に息切れすると……」


 僕たちは必死に維持している余所に、愛緋ちゃんは悠々と休みを取っている。どちらが先に力尽きるかは、瞭然だろう。


「突撃して接触して装甲を破るのは?」

「……あの鎧の黒い部分。あれ全て退魔の防御術式です」

「…………は?」


 アーニャの理解しがたい言葉に、思わず呆けたように聞き返す。


「ラジエルで解析したところ、全身にびっしりと防御術式が刻まれて黒くなっています…… 魔法と魔術には無敵ですね……」

「耳なし芳一かよ?!魔法や魔術に完全に依存しない強力な物理攻撃なんて、そんな方法……」


 耳なし芳一なら耳は残しておいてほしい!そんな事を心の中で愚痴っていると、巨像はもう片方の手をおもむろに持ち上げた。

 ……あー、これってもしかしなくても。

 何の意外性も無くもう片方の手からも放たれた散弾。2倍になった弾幕は流石に込める力がかなり必要ッ……


「――っく、悠、撤退しましょう!」

「でも!これを放って!」

「悠の魔法、そろそろ限界でしょう」

「……っ」


 悔しいけど、アーニャよりも先に愛緋ちゃんと交戦したせいで、魔法の残り時間は少しだけ心許ない。本人の感覚でしか推し量れない残り時間を何となくでも把握できるアーニャの経験則にも驚くけれど、事実だ。逃げ切れなくなる前に撤退しなければいけない。けど、こんな状況を放置して逃げるのは――



 そう思った瞬間、巨像の延髄が、突然、弾けた。



 弾けた。いや、爆発した。そしてそれは、魔法や魔術に対して無敵であるはずの装甲を、幾ばくか剥ぎ取っていた。予想外の衝撃に、巨像の弾幕が思わず止む。

 

「爆裂魔術?それにしては魔力を全く感じない……いったい誰が……」


 アーニャの呟きを呆然としながら聞く。そりゃそうだ、魔力を感じるわけが無い。だって、あれこそまさに魔術に完全に依存しない物理攻撃。実物を見た事は無いけれど、あれは……


「み、ミサイル……?」


 続けて放たれた3筋の軌跡を描くソレは、僕の知識にそう記憶されていたものだった。




◆◇◆◇◆◇




「戦っているのは、竜胆さんでしょうね」

「他にいるか。あんな化け物と闘えるのは化け物だけだよ」


 巨人にミサイルが突き刺さるほんの少し前。ビルの屋上で二人の男が、朝日と剣持が呟く。

 眼前に広がるのは、ビルよりも巨大な鋼の巨人。いささか現実味に欠ける光景も、この数か月でかなり慣れた。 


「彼女には、酷い事をしてしまいました」

「あれが人を殺したのは事実だし、警察署を襲ったのも事実だ」

「それでも、ですよ」


 魔獣が現れ、機動隊や自衛隊が到着する前にそれらが駆逐されていた事は何度もあった。

 それが可能な存在を、彼らは知っていた。

 竜胆 悠、並びにアーニャ・ガランサス。戸籍も経歴も不明な二人の少女。それらが化け物を超える力を持っている事は彼らには周知の事実だった。実際の所は、恐怖心による呪いで縛られた悠と魔法の壊れたアーニャは戦えず、現実にはそぐわないものではあったけれど。


「……自衛隊動かす為の嘘八百並べた上への報告。ありゃ始末書じゃすまねえぞ、朝日」

「分かっています。落ち着いたら辞表でも書きますよ」

「そーかい」


 この数か月で自衛隊の出動へのハードルは比べ物にならない程下がった。そして、“ソレ”を使うことに対しても。

 突き放した様な返事をするが、彼もみすみすこの有能な若者を手放すつもりはない。せいぜい手を尽くさせてもらうさと思いながら煙草に火をつける。


「好き勝手しやがって、化け物共」


 丁度頭上を通り過ぎたジェット音に紛れながら、剣持は小さく呟いた。




◆◇◆◇◆◇




 ――空対艦誘導式噴進弾(ミサイル)。海に囲まれた日本において、防衛の要。海に浮かぶ鉄の塊、軍艦を貫く人智の矛。

 それが、魔法の最高峰に位置する鋼の巨人に、あらゆる魔法魔術に対策を施された鎧に一点の突破口を開ける。

 続けて3発直撃し、爆発を受けた部分の鎧が抉られ、露出している。


 ……好機は、ここだ。


「アーニャ!!飛び込むよ(、、、、、)!!」

「本気ですか悠?!」


 自動修復により少しずつ鎧が復旧されるのを見ながら、僕はそこに全力の斥力で弾かれながら飛び込む。アーニャも口ではああ言っていたけど、しっかりと付いて来てくれていて、すこしだけ安心した。

 間一髪飛び込んだと同時に鎧が完全に修復され、辺りは真っ暗になる。抉られた肉体(?)部分もどんどん修復が始まっていて、すぐにも押しつぶされてしまいそうだ。急いでアーニャを抱き包み、魔法でその迫りくる復旧を拒む。


「……このまま“中身”を破壊しつくせなかったら、逃げ場のない私達は自動修復に飲まれて一巻の終わり」

「完膚ないまでに破壊しつくせば、僕たちの勝ち、だ。分かり易い」


 暗闇に包まれる前に見えた周囲は、黒い金属の歯車、配管、鉄板。それが肉塊の様に駆動し、修復して僕たちの居る場所を埋め潰そうとする嫌な音が鳴り響く。拒絶の魔法に阻まれているその様子は、まるで怒りと焦りの意思が籠った様に錯覚する動きだ。


「……怖くは無いですか、悠?」

「うーん、恐怖心は拒絶しちゃったから何か変な気分だよ」

「そうですか。私は、怖い。貴方を喪うかもしれない現状が、何より」


 光の差し込まない巨像の内部は、アーニャの表情を映さない。少しだけ緊張に震える手が僕の手を、強く、強く握り返す。

 不安に揺れる声に、力強い意思が灯る。


「――だからこそ、何としてでも、斬り拓く」

「……あぁ、そうだね、何としてでも!」


 恐怖心を切り捨てた、その事に後悔はない。だけど、魔法は思いの力。恐怖もまた、力となる。

 喪うかもしれない恐怖。それをアーニャは誰よりも知っているから……



 彼女は今この場で、誰よりも、強い。



「いくよ、アーニャっ!!絶ち……斬れぇ!『絶空・蒼穹(そうきゅう)』!!」

「いきますよ、悠ッッ!!燃える剣の道、王冠より至れ!『王国(マルクト)より来たれサンダルフォン』!!」


 同時に発動した魔法は、奇しくも共に、“剣”を象ったもの。

 拒絶の漆黒の剣が振り払われる。

 四色の水晶の剣が振り払われる。


 鎧の表面に敷き詰められた魔術障壁、例えそれがどれほど強力なものであっても、内側からならば関係が無い。むしろ、威力が外に逃げる事が出来ず、表層の障壁に弾かれ、巨像の内部を致命的に破壊していく。


 拒絶の剣が絶ち斬った所が斥力により弾かれ――表皮に阻まれ、押しつぶされる。

 水晶の剣が切り裂いた所が爆炎を伴って巨躯の機械の肉体を壊し融解する。


 壊し、弾き、融かし、砕いて鉄屑となれ。


 我武者羅に振るわれる剣戟。滅茶苦茶に解放される魔法。


 人世界(ミズガルズ)の名を冠した巨像は、致命的にその内部を破壊され、そのまま崩れて果てた。

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