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クラスの王子様は僕の前でだけ我儘なメイド姿の女王様  作者: 隼


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一話 始めまして、メイドさん

「きゃ~、里奈様おはようございます!!」


「おはよう」


 朝から教室が騒がしい。理由は分かりきっている。このクラスの『王子様』、宮原里奈《みやはら りな》だろう。王子様といっても男子ではなくれっきとした女子だ。何故そのようあなあだ名がついているのかというとまず一つ、卓越したルックスだ。

 黒髪ウルフカットに中性的でまるで芸術品かのような美しいルックスは男女共を魅了するに十分だった。身長も女子としては高く足も長くスタイルも抜群だ。まあ、僕のような学力ルックス共に二軍以下の連中には関わることもないだろう。


「本当アイドルみた~い。その辺りの男子なんかよりよっぽど格好良いです!!」


「はは……、ありがとう。でも他の男子を貶めるようなことは言わないで欲しいな」


「人間性も完璧……」


 宮原さんのあまりのイケメンぷりに周囲の女子達の数人が倒れていく。そんな様子を眺めているクラスの男子達はすっかり呆れた様子である。そして宮原さんは自分の席へ向かうためにこちらに歩いてくる。宮原さんは僕の後ろの席なのである。


「芦田《あしだ》君、おはよう」


「お、おはよう」


 宮原さんは人間が出来ているので僕に対しても挨拶をしてくれる。まあ宮原さんが男子に挨拶するたびに周囲の女子達がこちらを睨むのであまり良い気はしないが。


 それに対して僕はというと高校二年になって早二週間、まだ友達が出来ない状態だ。一年の頃はクラスにオタク友達がいたのだが進級して皆バラバラのクラスになってしまったのだ。


「世知辛い……」


 僕はクラスの中心でクラスメイトに囲まれている宮原さんと自分を対比してため息をつく。まあ明日は土曜で学校が休みなのだ。明日、オタク友達と秋葉原に行くのだからそのために今日は何とか耐えるぞ。その後といえば特に誰かと関わるわけでもなく授業を受けて一人で休み時間を過ごして何事もなく一日が終わる。


 


 そして次の日、土曜ということもあり秋葉原は観光客やオタク達で溢れかえっていた。


「フン、来たな。相棒」


「誰が相棒だ。ただの友達だろ」


 僕の友達、藤原道雄《ふじわら みちお》は眼鏡を光らせて変な挨拶をしていた。こいつこそ一年の時に仲良くしていたクラスメイトの一人である。僕がこんな風に気兼ねなく話せる数少ない友人だ。藤原は何故かアキバに来るだけなのに毎回デカいリュックを背負ってくる。


「今日は僕の好きなギャルゲーの発売日ということは知っているな?」


「知ってる。予約してたんだろ?」


 藤原はポッケからレシートを取り出す。するとニョロニョロ、レシートが出てくる出てくる。いや、何枚あるんだよと脳内でツッコミを入れながら怪訝な顔をする。その表情を見て藤原はエフッエフッと笑う。その笑い方、気持ち悪いな。


「購入特典でくじが引けるのだ。俺は運が悪いから拓真も引いてくれ」


 僕は「うえ~」とうめき声を出す。まあ僕は特に用はないから藤原の手伝いくらい別に構わないのだが面倒は面倒だ。ていうかゲーム何本も買える財力は流石だな。よくは知らないがネットでアフィリエイトかなんやらで儲けているらしくお金を持っているようだ。


「ふふっ、そう言うな。手伝ってくれたあかつきには貴様を天国に連れてってやる」


「は?怪しい店なら勘弁してほしいんだが」


「あ、怪しい店って何だ!!高校生がそんな所行けると思ってんのか!?」


 藤原はどんな店を想定しているのか知らないがあまり変な所へ連れて行くつもりではないらしい。まあそりゃそうか。


 その後、僕達はゲームショップの前で列に並び、僕が藤原の目当てのキャラのグッズを当てる事ができたので大喜びではしゃいでいた。


「はあ……、並んでたからどこかで座りたいな」


 僕は少し疲れたのでどこか喫茶店かファミレスか何処かで休みたくなったのだ。僕がそう言うと藤原はエフッエフッと例の気持ち悪い笑い方をする。こいつがその笑い方をする時はどうせ碌でもない事だろう。


「天国に連れて行ってやると言ったろう。大丈夫。俺のおごりだ」


「本当に嫌な予感しかしないんだが平気なんだろうな?」


 藤原は黙ってついてこいと言って歩き出す。僕はため息をつきながら黙って藤原についていく。歩いて五分程だろうか急に雑居ビルに入っていく。おいおい、本当に変な所じゃないだろうなと訝しむがまあ藤原を信じるか。雑居ビルの廊下の奥に小さなエレベーターがあった。僕達は乗り込み、四人程しか入れないようなエレベーターはガタガタと揺れながら上へ上がっていく。


 エレベーター内の表示が五階になった所でぽーんと音が鳴った。その瞬間、扉が開き藤原は迷いなく降りたので僕も慌てて降りる。すると目の前にはメイドカフェ『メイドプリン』と書かれたドアがあった。なるほど、藤原が来たかったのはメイドカフェだったのかとホッとする。


「よし、じゃあ行くぞ」


「おう」


 藤原が店のドアを開けた瞬間だった。


「おかえりなさいませ。ご主人様~」


 店内で働いていたメイド姿の女の子達が一斉にこちらに向いて大声で挨拶をした。僕は急に大声を聞いてビクッと体が揺れてしまった。


「あっ、マユちゃ~ん。来たよ」


 藤原がツインテールの女の子に向かって甘ったれた声で話しかけていた。え、何こいつ、こんな感じなのか。


「あっ、道雄君だ~。やっほ~」


 その子は他の人とは違って気さくな感じで藤原と話している。藤原もしかしなくてもここ通い詰めてるだろ。財力に物を言わせてやるな。マユちゃんと呼ばれた女の子の案内で店内のテーブル席に案内された。


「藤原、何か恥ずかしいんだが」


「大丈夫だ。ここは比較的大人しめのメイドカフェでな。俗に言う萌え萌えキュンみたいなやつはやらなくても平気だ」


「なるほど?」


 藤原から聞いたがメイドカフェも多種多様で一般的にイメージする萌え萌えキュンだの、オムライスにハートマークを書いてもらうだのはしないらしい。


「まあ、メイドさんとは気軽に話は出来るから俺は好きなのさ」


「それは良いがこういう所って高いんじゃないのか?」


「ん?俺がここの株主だから割り引いてもらってる。お前も一人で来ても割り引いてもらうようにすることも出来るぞ」


 こいつ、本当に高校生か。稼ぎすぎて頭おかしくなってしまったんじゃないのか。そんな事を話していると先ほどのマユさんが来た。


「道雄く~ん。新人さん入ったから紹介しても良い?」


「あっ、そうなの?是非是非」


 何か、このやり取りも株主とその従業員って考えたら何か怖くなってきたな。マユちゃんは奥に一回下がって別の女の子といっしょに出てきた。そしてその女の子は見覚えのある女子であった。その子は僕達のテーブルの前に立って頭を下げた。


「始めまして。新人のメグで……」


 挨拶といっしょに顔を上げた瞬間、僕の目と目があう。その子こそクラスの『王子様』宮原里奈、その人であった。

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