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城の中からとんでくるー

鋭い一撃を受けて、私の体は大きく後ろへ吹き飛ばされた。


けれど、ただ転がる私じゃないわ。地面に片手をついてぐっと体勢を整えると、そのままの勢いでぐるりと一回転して、見事に着地してみせた。


すぐさま再び木剣を構え直す。確かな手応えに、思わず口元から笑みが溢れてしまった。


「どう!?耐えたわよ!」


誇らしげに胸を張り、少し離れたところに立つヨハンを見上げる。


ヨハンはまだ利き手ではない方の手で木剣を持っているけれど、その両脚を縛っていたあの紐の拘束はもう解かれている。


彼は静かに構えを解くと、ふっと目を細めて穏やかに微笑んでくれた。


「お見事です。姫様」


私はゆっくりと立ち上がると、両手でしっかりと剣を構え直した。


「さぁ!続きといきましょうか!」


威勢よく地を蹴って駆け出す。けれど半刻もしないうちに、私は草の上に転がっていたわ。


打たれた肩がひどく痛む。骨が折れてはいないけれど、本当に折れたんじゃないかってくらいに痛い。もちろん折れてはいないのだけれど、とにかくとても痛いの。


「ヨハン、私って強くなってるのかしら?」


荒い息を吐きながら尋ねると、ヨハンが穏やかに笑った。


「はい。この半年で見違える様です。剣術の授業ではいかがなのです?」


それを聞いて、私は気まずそうに思わず目を逸らしたわ。


「ぜんぜんよ。まだまだ型の練習ばっかりで...つまらないわ」


ヨハンが思案するように顎髭を撫でる。


「基本の型は大切です。あまり好きではありませんか?」


その落ち着いた問いかけに、私は思わず大きな声を張り上げてしまったわ。


「だって!剣術の先生よりもヨハンの方が強いんだもの!それに型ならもう覚えたもの」


私にだって、それくらいの違いははっきりと分かるわ。それなのに、毎回毎回、繰り返される型の練習ばかり。本当につまらないわ。


ヨハンが困ったような顔で笑った。


「私の剣は軍隊式ですからな、騎士の剣はまた、違いますので」


また新しい話が出てきたわ。私は草の上に座り込んだまま、見上げるようにして尋ねてみる。


「どっちが強いの?」


すると、ヨハンはまた困ったように苦笑いを浮かべたのだった。


「どっちが強いかはわからないですね。どちらも儀礼的な部分もあれば、もちろん実践的でもある。結局は使い手次第ではないかと」


難しい言葉が並んでいてちょっとよく分からなかったけれど、要するにこういうことかしら。


「強い人が強いってこと?」


私がそう尋ねると、ヨハンは満足そうに頷いた。


「剣と魔術、どちらが強いか単純には比べられないのと同じです」


なるほど、なんだか少し分かったような、やっぱり分からないような不思議な気分。私は小さく首をかしげながら、この新しい知識を頭の中で整理してみることにしたわ。


「どっちも覚えた方がより強くなる。ということかしら?」


なんとなく思いついた答えを口に出してみる。すると、ヨハンは深く頷いた。


「はい。それは間違いなく」


なるほど、それならつまらないと思っていた型の稽古も、もう少し頑張ってみようかしら。無意味だとばかり思い込んでいたそこに、本当は意味があるのだとしたら。


そう納得したところで、私はふと思い浮かんだ新しい疑問を口にしてみる。


「ヨハンは魔術は使えるの?」


私はもう3年も魔術を習っているわ。まだ初歩の初歩とは言え、自分なりには使えるようになってきているわ。


もしかしたら剣術では届かなくても、魔術ならヨハンにも勝てるのかもしれない。そんな期待が少しだけ頭をよぎったの。


でも、ヨハンは穏やかに笑って答えたわ。


「はい。それなりには使えますよ。自分1人を守れるくらいには」


ダメだわ。この人、本当になんでも出来てしまうみたい。完全な誤算よね。


あまりの万能さに、私は思わず愚痴みたいに言ってみるのだった。


「ヨハンは、できないことってないの?」


ヨハンは穏やかに笑っていたわ。


「ありますとも。私はむしろー...戦うこと以外に能のない人間です」


そう呟いた彼は、「ただー」と悪戯っぽく言葉を続けたの。


「今では庭師としては、胸を張って誇れる自信があります」


そう言ったヨハンは、ニヤリと子供みたいに笑ってみせたわ。普段の落ち着いた彼からは想像もつかないような笑い方をするなんて、本当にびっくりしてしまった。でも、とても素敵だと思ったの。


「私には庭師みたいに繊細な技術は向いてないと思うからー...」


私は草の上から勢いよく立ち上がると、再び木剣をしっかりと構えたわ。


「やっぱり、剣で貴方に勝つわ!」


私の宣言を受けて、ヨハンもゆっくりと剣を構えた。


無駄がなく実直で、どこまでも実践的な構え。そこから繰り出される重たい剣の鋭さを、私はよく知っている。


私はいつか、絶対にその剣に勝ちたいの。




その日、いつものように「それじゃ、また明日の朝に」そう言ってお屋敷に戻った私だったけれど、同じ日の午後、初めてもう一度ヨハンの元を訪ねることになったの。


ちょうど歴史の授業と魔術の授業の合間にある、ちょっとした休憩時間のことだったわ。廊下を歩いていると、メイド達がなんだか騒がしくざわついていたの。


気になって尋ねてみると、なんとヨハンが木から落ちたと言うじゃない。


それを聞いた瞬間、もういてもたってもいられなくなってしまって。近くにいたメイドに次の魔術の先生への言づてを急いで頼むと、私はそのままお屋敷を飛び出していたわ。


広い庭を、必死になってヨハンを探して走り回った。けれど、どこを探しても彼の姿は見つからない。


もう探す場所がなくなって途方に暮れかけた頃になって、怪我をしているのなら医務室にいるはずだということにようやく気がついたの。


私は息を乱しながら、今度はまたお屋敷に向かって夢中で走っていったわ。


ヨハンは、やっぱり医務室にいたわ。


肩で息を吐きながらドアを勢いよく開けると、ヨハンは椅子に座って怪我の治療を受けているところだったの。


「姫様?そんなに慌ててどうしました?」


彼のあまりに呑気な声に、私はすっかり拍子抜けしてしまったわ。


「あれ...木から落ちたと聞いて...それで...あれ?」


まごつく私を見て、ヨハンとお医者様は声を合わせて笑ったの。


「木から落ちたと言っても、大したことはありません。本のかすり傷です。もっともー」


ヨハンは自分の足をさすりながら答えたわ。


「こいつでなければ折れていたかも、しれませんけどね」


そう言って笑うヨハンは、怪我なんてしていないんじゃないかと思えるほど元気そうだった。その姿を見て、私は心からホッとしたの。


「義肢様様ね」


私が呟くと、ヨハンも「その通り」と楽しそうに笑っていたわ。


何にしても、大したことなくて本当によかったわ。だって、私はまだまだ彼に勝てそうにないのだから。


生身の脚でなかったからこそ、大事に至らずに済んだのだ。


怪我を免れた理由がまさか義肢のおかげだったなんて、そういうこともあるのねと、私はひどく感心したのを覚えているわ。


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