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261  作者: Nora_
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07

「追い出されてしまいましたね」

「ああ、あいつもなにやってんだか、しかも弟君もノリノリだったしな……」


 先生は結局十九時近くに帰ってきた。

 もうあまり余裕もないからここでもご飯を作ってゆっくりしようと考えていたのにこれだ。


「朝と昼はどうだった? 慎治がなにかしたりしなかったか?」

「お昼近くに慎治さんと一緒にハンバーガーを食べました」

「弟君やお母さんはいかなかったんだな」

「私のことを考えて遠慮してくれたんです」

「優しい子だな」


 そう、だから無理やり屋内から屋外へと追い出したりしないでくれたらもっといい。


「どうするか、天気が微妙だったから雨が降ってきたら困るよな」

「白坂先生はもうなにか食べました?」

「昼は食べたけどまだ夜分は食べられていないんだ」

「それならどこかにいきましょう」

「いいのか? じゃあ付き合ってもらう……のは危険じゃないか?」


 大きなお店だからあの高校に通っている人達も来ているかもしれない。

 私はともかく、先生のことは知っている人がいたら問題になるか。


「でも、お腹が空いてしまいますよね?」

「やっぱり中に入ろうぜ」


 それが一番か。

 チャイムを鳴らすと「もういいの?」と出てくれた慎治さんが聞いてくれたから頷いた。

 みんなもご飯を食べられていない状態だからやらなければいけないことは変わらない。


「それでどうだったの?」

「どうだったのって少し話を聞いてきただけだからな、今度結婚するらしいぞ」


 け、結婚……それはまたすごい話だ。

 友達と誰かが付き合うという話さえ聞いたことがないのにぶっ飛びすぎていた。


「え、じゃあ陽治は振られてしまったということか」

「元々好きじゃないから振られてないよ。それより慎治は残念だったな、一番気にしていたのは慎治だろ?」

「別に」


 そしてやっぱりここはそうだったみたい。

 私達の前だから冗談を言っているようには見えなかった、慎治さんの反応もまた露骨だった。


「みんな若くていいねえ」

「あ、こんな話をされても困りますよね、すみません」

「謝らなくていいんです――え、慎治さんなに?」

「ここにいる限り敬語は禁止って言ったでしょ?」

「だ、だけどそれは慎治さん限定で……わ、分かったから」


 なんでこの二人はこんなに怪しい感じなのだろうか。

 一緒に過ごしていれば慣れてなんとかなるかと思えばそうではなく、母の方は攻め攻めな慎治さんにやられっぱなしだった。


「そもそも晴さんはまだまだ若いでしょ」

「年齢のことじゃなくて……なんだろう」


 父とは仲良しでも違う男性を見て興味が出てしまったりするのだろうか。

 大好きで美味しい料理でも毎日出てくれば飽きが出てきてしまうように、できればそんなことにはなってほしくないけどコントロールするのは難しいか。


「誰を好きになっても問題ないからですか?」

「あ、それかもしれない。私はあの人のことは大好きだけど学生時代と違って人に対してあまり踏み込めなくなったというか……って、私のことなんかどうでもいいよね、ごめんなさい」


 大丈夫そうかな?

 父なんか一時間毎に何故か私に対して母への愛を語ってくれていたから少なくとも離婚なんかには繋がらなさそうだ。


「晴さん、浮気は駄目だよ」

「し、しないよ、そもそもそういう意味ではあの人以外……必要ないし……」


 これを録音しておいて父に聞かせてあげるべきだった、一時間毎でも流石に大変なので落ち着いてもらいたいのだ。

 ただ、先生もいるところで父への愛の強さを語られるのは少し辛くもある。

 なにが辛いのかと言うと内容こそ違うものの、調子に乗っていた私もこうして周りを置いてけぼりにしつつ一人で盛り上がってしまっていたからだ。


「うわ、結局惚気たかっただけなんだ……」

「ち、違うよ」

「慎治、それ以上はやめておけ」

「はーい。さ、唯の手伝いでもしようかな」


 ご飯作りに関してはそう大変でもないので引き続き一人でやった、何故か眠そうな隼人のためにも早く作り終えたかった。


「これ、もう運んでいいか?」

「はい」

「ありがとな」


 いや私だって食べてもらえてありがたいからありがとうと言いたくなった。

 でも、食事中は母や隼人に素直に甘えなかったことを後悔していた。

 わいわい賑やかな場所、食べてはもらえていたけどなんか気になったのだ。

 だからみんなが食べ終わって一人で洗い物をしている最中は最高だった、お皿を奇麗にしていく内に自分の内側も奇麗になっていく感じがしたからだ。

 まあ、これも「俺がやるよ」と申し出てくれた先生のそれを断ってのことだから褒められるようなことではないけど。


「お母さん、お風呂は私達から入ってほしいんだって」

「え、気になるから男の子達から入ってほしいかな」

「じゃあ陽治から入ればいいよ」

「あ、ならすぐに入って出てくるよ、眠そうな弟君のためにもな」

「それならこの人と一緒に入る、そうすればみんなも早く入れるでしょ」


 おお、さっきも何回か自分から話しかけていたぐらいだもんね。

 慎治さんと仲良くしてくれるのもいいけど先生とこうして仲良くなっているのはもっと嬉しかった。

 なんか母親目線で見てしまっているのは少しアレかな?


「え、い、いいのか?」

「銭湯にだっていったことがあるから大丈夫だよ、じゃあいってくるね」


 二人がここから去ってすぐに「隼人君も成長したんだね」と母が言った。


「僕が一緒に入って隼人君と遊びたかったのに」

「それならいまからいってきたらどうですか?」

「あ、それいいね、そうすれば唯達も早く入れるよね」


 母並みに積極的だ。

 そう考えるとお似合いの二人だけどやっぱり母には父がいるから変なことにはなってほしくない。


「白坂先生と慎治さんは似ていないね」

「確かにそうかもしれない」

「でも、バランスがいいんだよね、そんな二人と唯は関われているんだからいいことだよね」

「話せているだけだけどね」


 しかもそれも心配されるような人間だったからでしかなかった。




「トイレ……」


 冬というわけでもお婆ちゃんというわけでもないのに今日はやたらとトイレにいきたくなる。

 六月の夜で中途半端だからだろうか? こんなことは初めてで微妙だと言えた。


「っと、大崎だったか」

「あ……すみません」


 曲がり角でぶつかるというなんともベタな展開に。

 先生はこちらの両肩を掴んで優しく押して距離を作ってから「トイレならそこにあるぞ」と、もう既に五回以上利用させてもらっている身としては申し訳ない気持ちになった。


「あの、少し待っていてください」

「ん? おう」


 ささっと済ませ、手も洗ってからリビングで付き合ってもらうことにした。

 先生とはほとんど話せていなかったからこのまま朝を迎えて解散にはしたくなかったのだ。


「っくしゅ……少し冷えますね」

「そうか? えっと……お、あったあった、それならこれを掛けておけよ」

「ありがとうございます」


 いやでも途中からとはいえ今日は先生といられたわけで、いざこうして改めて話そうとしても特になにも出てこないみたい。

 多分先生のお母さんのブランケットを抱きしめつつ悩んでいると「なんか不思議な感じだな」と先生が言ってきて意識を向ける。


「学校じゃなくて家でこうして生徒といる状態だからさ」

「親戚とかでもなければ普通ではないですよね」

「ああ」


 やばい、自分から誘ったくせにこれでは不味いだろう。

 でも、今度結婚するらしい女の人の話を聞くわけにもいかないし、本当にどうしたものか。


「とにかく、これで俺と件の女子の間になにもないことが分かって良かっただろ?」

「そうなると益々、仲直りできていたら教師を目指していなかったという話がよく分からなくなります」

「いやそれは……」

「それに慎治さんも嘘をついていました」

「まあ、上手くいかなかったことを真っすぐに話せる人間ばかりじゃないだろ?」


 それはそうだけどどうせ本当のところなんて確かめようがないのだから全て嘘で塗り固めればよかったのにと言いたくなる。

 

「白坂兄弟が二人とも振られてしまったようにしか考えられません」

「お、おいっ」

「きゃ!?」


 ばっとこちらを向いて大きな声を出してきたものだから驚いて変な声を出してしまった。

 かなり恥ずかしくて消えたくなったところで「あー生徒に対して欲情している悪い先生がいるー」と慎治さんの登場、より大変なことになりそうな状態になってしまったという……。


「ま、そんなことはどうでもいいとして、はい、唯にこれを渡しておこうと思ってね」

「どこの鍵ですか?」

「それは陽治の家のだよ、いつでも来てくれればいいからね」

「おい……」


 物凄く怖い顔を見てしまったのもあってどうすることもできずに固まることになった。

 ドッカーン! と爆発しなければいいけど、目の前で大喧嘩をされたら出ていく自信しかない。


「教師なんかになったせいで一緒にお出かけすることも難しくなったからね、その点、家でならいくらでもゆっくりできるでしょ?」

「大崎も困るだろ……」


 あ、だけどすぐにいつも通りの先生に戻って「大崎悪いな」とこれまたいつものように謝ってくれた。


「これ、貰ってもいいですか?」

「ここで悪魔の大崎の登場か……」


 悪魔か、たまには悪魔の囁きに身を任せることも必要なのかもしれない。

 間違いなくズルいことだけどこのチャンスを無駄にしたくなかった。


「駄目なら返します」


 それでも駄目だと言われたら返すしかないけどね。

 ストーカーとかではないから誤解しないでほしい、あの頃の私とは違うのだ。


「いやいいけど……あんなところに入ってもつまらないぞ?」

「でも、白坂先生がいてくれるんですよね?」

「夜に来るつもりか!? それは不味いだろ……」


 そうか、お休みでもなければ自然と夜に、ということになってしまうか。

 少し考えなしだった、先生が驚くのも無理はない。


「僕といちゃいちゃしたいからだよねー」

「流石に夜なら慎治さんがいてくれた方が白坂先生は安心できますよね」

「朝とかお昼なら二人きりがいいみたいな言い方だね?」

「慎治さんといられるときは慎治さんと、白坂先生といられるときは白坂先生とだけが一番かもしれません」

「うわこわ……流石晴さんの娘さんだ」


 ちゃんと親子らしく見えているのなら嬉しかった。

 こういうところを引かれない程度に出していくだけだった。




「もう終わりかー」

「私達がいると慎治さん達のご両親がゆっくりできないのでこれでいいんですよ」


 まだまだ時間はあるからまたやりたければ迷惑をかけないところで集まればいいのだ。

 次は私の家がいいかな、その方が食材なんかももっと自由に使えて精神的に楽だから。

 あとは父だけ仲間外れにしてしまっているのでそこも気にしなくていいのは大きかった。


「それなら陽治の家で二次会をやろう」

「俺はもういいや」

「私もお父さんが可哀想だからこれで帰るね。えっと、白坂先生、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそありがとうございました」


 緩くなったものを色々と戻していかなければならない。

 甘えるわけにもいかないから二人と一緒に帰ろうとしたのにできなかったけどね。


「さ、陽治の家に出発!」

「ま、いまとなってはあっちの方が落ち着くからいいけどな」


 先生もいちいちツッコミ役に回っても疲れるだけだと判断したのかもしれない。

 それなら私がちゃんと止められる側にならなければいけないような気がした。


「白坂先生、私がいたら駄目ですよね?」

「時間があるなら別にいいぞ?」

「そ、そうですか……」


 慎治さんは家族だから厳しくしてばかりもいられないのは分かる、だけど私は他所の人間なのだから駄目なことは駄目だとはっきり言えばいいのに。

 お休みモードだから平日にならないと戻らないのだろうか? それなら平日にまた誘ってほしいところだ。


「あ、今度こそドキッとしたでしょ」

「変なこと言わないでください」

「あーまた冷たい唯になってしまった」


 先生の家まで距離があるわけではなくて本当に良かった。

 朝でも夜でも遭遇リスクがあるからこういう時間はなるべく短い方がいい――なんて上がらせてもらっている悪い人間は考えている。

 こうなっているのは慎治さんのせいともおかげとも言えてしまう、喜んでいいことなのだろうか。


「反省するまでの唯を見てみたかったな、どうせ大袈裟に言っているだけだろうからね」

「いやそのせいで一人になっていますからね」

「でも、反省したいまの状態でも最近までは一人だったんでしょ?」


 うっ、確かにそうだ。

 ならもっと根本的なところが駄目で、そういうところから目を逸らしたくて理由として使ってしまっているだけなのかな……。


「そういえば佐藤がいてくれるんだよな?」

「はい、佐藤先輩は話しかけてくれたときから一緒にいてくれています」


 これからは一緒にお弁当を食べたり、毎日一緒に帰る……は難しくてもそれなりの頻度で一緒に帰ったりしたかった。

 あとは着せ替え人形にされているところの写真を見せてもらいたい、クールな先輩が恥ずかしそうにしているところを見られたら可愛くてやばいことになりそうだけど。


「俺は嬉しいよ、大崎に一人だけでもそういう存在がいてくれればいいんだ」

「それでも私は白坂先生に気にかけてもらいたいです」


 鍵を貰っておいてあれなものの、十分とかでもいいから先生と話せればそれでいい。

 学校でが難しいなら家の外で待つことになっても――いやそれは微妙か、とにかく取り上げられたくない。


「ちょっといちゃいちゃするの禁止、そういうのは二人だけのときにしてよ」

「はい、そうします」

「おいおい……大崎も慎治みたいになってしまったな」

「慎治さんは基本的にはいい人なのでそんな人に似ているなら嬉しいですね」

「そういうところもだよ……」


 昨日と今日だけで色々な先生の表情を見られて一人で満足していた。

 でも、これ以上は踏み込みすぎてしまっているのでやめておいた。

 私が黙れば二人で盛り上がるので今度は一人で幸せな状態になっていた。

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