第三十節 スライムは倒した、スライムは
スライムとの決死戦を繰り広げた後、馬車をドラゴンに引かせてホーオまで決死戦の人員は帰還した。
ドラゴンの引く馬車の感想は言わずにおこう。
とりあえず、できるなら今後は乗りたくない。
「報告します。勇者テノール、マインズ家次女カウ、マインズ家元侍従サーヴァン、冒険者ユウダチ、冒険者レオナルド。その5名の手によって巨大スライムは討伐されました」
そうしてトータン領主邸にて、ケイヴェは親父とテナー、パースの前でスライム討伐を証言していた。
勇者である俺が証言しても良かったが、この面子で最も嘘を吐かず、最も信頼されるのはケイヴェになるだろう。
近衛兵として隊長に報告義務もある。
2度も報告させるくらいなら1度にまとめさせよう、という人選なのだ。
「またまた大手柄ですね、テノールさん。褒賞もたんまり貰えるんじゃないですか?」
そうでなくては困るが、パースに『またまた』と称された通り、何度も事件やら騒ぎやらに遭遇している身としては、素直に喜べなくなってきた。
そろそろ平穏な一時が欲しいと、つい苦笑してしまう。
「巨大スライムを討伐していただき、ありがとうございます。皆様には是非、領主として感謝の品を送りたいのですが……。あの、ユウダチとレオナルドという方は?」
テナーが不思議がっているように、報告には登場するその2人はこの場に居なかった。
「冒険者ユウダチ、冒険者レオナルドの2名に関しましては、この場への不参加を希望されていました。そのため、ホーオに着いた時を以て別れています。『私たちに報酬を寄越そうと言うなら、この事件への関与を伏せる事で報酬としてくれ』、という伝言を預かりました」
そう、ユウダチとレオナルドは報酬を辞退したのだ。
元より、使命とやらで目立つ事を避けていた。
だが、まさか金銭すら受け取らないとは、とても信じ難い思考である。
(……まぁ、お前にとってはな)
何か言ったか。
(何も?)
絶対何か言ってただろうが、まぁ、追及したって答えは返ってこない。
「ユウダチ、レオナルド……。その人たちは3級冒険者でしたよね?」
「そのように彼らは申告し、冒険者証も3級と明示されていました。しかし、3級に収まる実力ではないと、拙は推測します」
パースは不審な2人について詮索し、ケイヴェも不審さを後押ししていた。
確かに、あの2人は色々と不審であったのだ。
「そうですか……。少し調べた方が良さそうですかね……」
「追跡しますか?」
「貴女は休みなさい」
あれ程労働して、まだ労働する気があるケイヴェを、さすがのパースも諫めた。
隊長として、部下の面倒はしっかり見ているようだ。
「了解しました。国王への報告が済み次第、休暇を頂きます」
「本来ならそこも私が変わりたいんですけど……」
「国王への報告までが拙への王命です」
「ですよねぇ」
ケイヴェに譲らない一線を引かれてしまい、パースは意見を下げるしかなかった。
命令の優先度も、王命と比べてしまえばパースの方が下になってしまうし、彼女の弁は至極真っ当なのだ。
他の隊員だったらもっと融通が利きそうなものだが、彼女はそうならない。
仕事熱心な部下に、パースは意外と頭を抱えているのかもしれない。
「では、国王への報告は任せますよ。テノールさんは私が王都まで送り届けますから」
「了解しました」
王命にない部分くらいはケイヴェもパースに従った。
この人、色々と大丈夫なのだろうか。
パースとか王とかに無茶な命令されても従いそうだ。
「報告は以上となります。次の命令がありますので、拙の退出を許可いただけますか?」
「はい、退出してもらって大丈夫です」
「感謝します。拙は失礼させていただきます」
最後まできっちりとした態度で、テナーの許しを得てからケイヴェは退出した。
「さて、一件落着か」
親父は息を深く吐き出し、椅子にその身を預ける。
凶兆という事で親父も張りつめていたのか。
「改めまして。皆様、今回は真にありがとうございました。多少ではありますが、報酬をお受け取りください」
テナーはまだ気を抜かず、領主としての務めを果たす。
彼は貨幣がぶつかり合う音を鳴らしながら、革袋を取り出した。
まずこれが、金銭的な報酬という訳だ。
「あ、あの。私が貰っちゃうのはちょっと拙いかなぁ、と。私、これでも一応貴族なので。領主からお金を貰うのは……」
カウは革袋の受け取りを、テナーにも気遣いながら渋った。
どうやら世間体というか、領主と貴族の癒着を疑われないか心配しているようだ。
「この報酬は冒険者カウへの依頼達成報酬とします。冒険者組合にもそう記録が残るように手を回しますので、ご心配なく」
「あ、ありがとうございます!それなら有り難く頂戴します!」
テナーは見事な対応でカウに金銭を受け取らせた。
その適切な処理は非常に優秀な領主の証左だ。
「勇者様も、どうぞ」
「いや、俺はいらない。テナーから受け取るのは忍びない」
テナーからの差し出された革袋を、俺は受け取らなかった。
この受け取り方はあまりよろしくないと、俺は判断したのだ。
本音としては受け取りたいが。
「で、でも、勇者様も依頼を受けたのですから……」
「良いんだ。身内で金のやり取りなんて、悲しいじゃないか」
「え、いや、あの……」
急に身内宣言したからテナーは怯み、頬を赤らめていた。
可愛らしいな。
(テノール、人の趣味に口出すのは不躾だけどよ。さすがにその趣味は控えた方が良いぞ……)
勝手に変な趣味を付加するんじゃない。俺は至って健全だ。
(自覚なしか……)
分かった、これは構ってはいけない奴だ。
良し、無視しよう。さっさと、テナーとの話も詰めねばならないし。
「その代わり、今度美味しい物を食べよう。一緒にな」
そう、俺は金銭での報酬ではなく、物品での報酬を受け取りたかったのだ。
こうすれば風聞は比較的良いし、さらにはテナーへの貸しを長く維持できる。
貸しとは長く維持すれば維持する程に利息が付く。
対人的な貸し借りだと相手の人格にもよるが、テナーは利息が付く類だろう。
(下衆いなぁ)
利益をより効率良く得ようとして何が悪いのか。
「は、はい!その時はご馳走します!」
テナーも喜んでいるのだ、俺は何も悪くない。
両者が得をしている、実に幸せな貸し借りだ。
(下衆い)
そんな『下衆い』って連呼しても俺は何も気にしないからな。
「さて、私は一旦家に戻る。1日空けてしまったからな」
一段落着いたところで親父は腰を上げた。
自身の侍従らに警戒している節がある親父は、1日家を空けただけでも気になってしまうらしい。
「だったら俺も家に。疲れたので体を休めたいです」
「皆様に我が家で夕食を振る舞いますので、その時までには」
テナーに夕食をお呼ばれし、これには俺も親父も頷いた。
そうしてから俺と親父は家へと足を向ける。
この時、俺は予期すべきだったかもしれない。
勇者に安息はないのだと。
「なんだ、これは……」




