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第二十九節 スライム決死戦

 夜は明けた。

 山とホーオを結ぶ道のど真ん中。ここがスライムとの決戦、その前線基地だ。

 人員は俺、カウ、ユウダチ、レオナルド、サーヴァン。

 御者はすでに逃げてもらい、ケイヴェは別行動中である。


 別行動中も含めて6人の前線基地。

 巨大な魔物に挑むような数では絶対ない。

 しかし、この6人こそが、現状打倒しうる戦力であり、最適解なのだ。


「ユウダチ様はあまり気にせず力を込めてください。私めが釣り合うように調整いたします」

「ああ、頼むぜ」

「わ、私も頑張ります!」

「もちろんだ、カウ嬢ちゃん。お互い頑張ろうな」

「はい!」


 ある意味で策の正否を別けるサーヴァンたちが、最終の打ち合わせをしていた。

 頼むから本番で失敗しないでほしい。

 失敗すると俺が酷い目に遭う。


「私が今出せる限りの力で、核への壁が薄くなるように削る。それで構わないんだよな」

「ええ、構いません。お願いします」


 レオナルドもサーヴァンたちと似たように最終の打ち合わせ。俺に自身の役目を確認しに来た。

 結局全力を出せない事に後ろめたさでもあるのか、レオナルドはこちらに素直に従ってくれている。


「……もしもの場合は安心しろ。ユウダチがどうにかする」


 ユウダチが『全力を出してでもやってやる』という事についてだろう。

 何故にもしもの場合でないと全力を出してくれないのか、文句を言いたいところだが、文句を言ってレオナルドが不機嫌になられても困る。


「ありがとうございます。保険があるならば、俺は気兼ねなく行けます」


 ユウダチの全力を保険と前向きに解釈し、俺は笑顔を受け応えた。


「ふん。勇者という奴は、古今東西変わらない」


 レオナルドは鼻を鳴らして背を向け、何やら呟きながら俺から離れる。

 冒険者仲間であるユウダチに頑固とか素直じゃないとか言われるだけあり、彼の社交性には難がありそうだ。


 そんなこんなで時間を潰せば、ケイヴェが別行動を終えて合流する。


「観測結果により、スライムが真っすぐホーオへ向かっているのは間違いないでしょう。1時間後には接敵すると思われます」


 彼女はスライムの動向を探るために別行動していたのだ。

 そして、そんな彼女が良い知らせを持ってきた。

 スライムがまだあの山に陣取る可能性はあったが、見つかったからにはもう暴れる気のようだ。

 今回の策は山から出てきてもらうのが必須条件だったから助かる。

 山に籠ったままの場合は、2番隊隊長を待って、より安全な攻略ができたのだが。


 何はともあれ、1時間後に策のお披露目だ。


「では、皆さん。気を引き締めていきましょう」


 俺は皆に活を入れ、万一の失敗がないように備えた。




「スライム、目視しました」


 ケイヴェがそう指し示す先、スライムが遠目に見えた。

 移動速度は馬よりも遅いが、あの泉を埋め尽くす巨体となると圧巻だ。


「陽動、開始します」


 ケイヴェは次の役割、俺たちが狙われないよう、スライムの注目を集めるために飛び立つ。

 炎の吐息まで吐いてくるドラゴンだ。あの巨体でも無視できまい。


「すぅ……。The(ザ) flame(フレイム), shape(シェイプ) a(ア) sphere(スフィア).」


 続いて、レオナルドが魔術を詠唱する。

 彼を中心に渦巻く魔力だけで、彼の1段増した魔力が感じられた。

 その魔力量はユウダチすら越えている。


「The(ザ) place(プレイス) is(イズ) 200(ツーハンドレッド) meters(メーターズ) above(アバーブ) the(ザ) sky(スカイ). Radius(レディアズ) is(イズ) 50(フィフティー) meters(メーターズ). The(ザ) |temperature《テンパーチャー》 is(イズ) 1000(ワンサウザンド) degrees(ディグリース) Celsius(セルシウス). Aim(エイム) at(アット) the(ザ) point(ポイント) where(ウェアー) this(ディス) cane(ケイン) points(ポインツ).」


 しかもその詠唱は破棄でも短縮でもなく、おそらくは完全詠唱だ。

 これはかなりの効果が期待できる。


「す、スライム、近づいてます!」


 カウが言うように、徐々にされど確かに近づいてくるスライム。

 時は近い。

 もう少し、もう少しと、レオナルドは機を窺っている。

 そして、時は来る。


「The(ザ) flame(フレイム), burn(バーン) the(ジ) enemy(エネミー).『クェーサー』!」


 灼熱の大火球が、レオナルドのはるか頭上に生まれた。

 見た事も聞いた事もない魔術だが、間違いない。

 あれは、上級炎魔術だ。


 生み出された大火球はレオナルドが己の杖で差した先を目指す。

 差した先は当然、あのスライムだ。


 水分が急激に熱され蒸発するような音を響かせる。

 大火球は着実にスライムを焼却していた。

 しかし、その大火球もスライムに押し負け、その火を弱まらせていく。

 ついぞ、核にまでは届かなかった。

 だが、スライムの粘体を減らし、核までの壁は薄くなっている。

 好機は今だ。


「射出組!」

「言われなくても!」

「いつでも行けます!」

「我々が送り届けてみせましょう!」


 俺が促すまでもなく、ユウダチ、カウ、サーヴァンは準備していた。

 彼らは手を重ね、その手に何かが乗るのを待っている。


(任せた、エクスカリバー)

(あいよ!)


 俺は聖剣に手をかけ、エクスカリバーに体の主導権を渡した。

 そうすれば、エクスカリバーはユウダチらの元へ駆けていく。

 そうして、彼らの手に足を乗せた。


「いっけぇえええええええ!!!」

「やぁあああああああああ!!!」


 彼らは足を乗せたエクスカリバーを、全身全霊で射出する。

 スライムの核へと一直線。

 エクスカリバーは矢の如く、いや、もはや流れ星の如く射出されたのだ。

 これがスライムに回復させず、粘体を防御に回す暇も与えずに決定打を打つ俺の解答。

 決死の人間投擲である。


 まだ『クェーサー』のダメージが抜けないスライムは、思惑通り防御が間に合わず、エクスカリバーが核を目前とする。

 射出の勢いのまま、『魔術流浸食』を帯びた聖剣が粘体を切り抜け、スライムの核に触れ――


「切り裂けぇえええええええええええ!!!」


――核を真っ二つに裂いた。


 核を破壊されたスライムはその体を維持できず、ただの水となって流れ崩れる。


「作戦完了です。お疲れ様でした」


 空中に投げ出されていたエクスカリバーはケイヴェに回収され、無事にスライムを打倒したのだった。

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