第二十八節 冒険者たちの裏事情
「まずは冒険者レオナルドらと合流する、でお間違いないですか?」
トータン領主邸前にて、ケイヴェは伝えた策の最初を確認した。
俺が伝えた策はレオナルドたちの力が必須なのである。
「そうです。すみません、お疲れでしょうにまた運ばせて」
日にちはスライムから撤退したのと同じだ。
王都ドラクルから東の都ホーオへ、そこから山へ、次にその山からまたホーオへ、最後にまた山へ。
最初の移動で休みを挿んだとしても、ケイヴェの総合移動距離は大変な事になる。
俺でも彼女の疲労を心配してしまうくらいだ。
「問題ありません。拙及びタラの許容範囲内です。しかし、この策が終了次第、隊長より休むよう厳命が下されております」
それはそうだろう。
その労働は質と量を加味すれば殺人的だ。
だと言うのにケイヴェは平気な顔をしており、上司から厳命されなければ休みそうにない。
なんだこの人は。もしかして彼女も激務に慣らされてしまった類か。
ご愁傷様だ。
「その他、質問や事前の注意事項などありますか?」
「いえ、ありません」
ケイヴェの真顔に圧を感じ、俺は即座に首を横に振って話をさっさと進めた。
怖い、と言うよりは、なんだか自分もさっさと仕事に取り掛からなくちゃいけないような、そんな気がしてきたのだ。
「では、搭乗をお願いします」
すでに元の大きさへ戻っているタラ。ケイヴェはその背に騎乗する。
「勇者様、行かれるんですね」
俺がタラに乗ろうとしたところ、テナーが心配そうに声をかけてきた。
死ぬかもしれない場所に、知人を送りたくはないのだろう。
「ああ、行くよ。テナーに安心してほしいからな」
そんな彼に、俺は勇者然とした態度を取った。
他人の安心を得るために死地へ向かうなんて、まさに勇者だろう。
できるなら死地になんて行きたくなかったが、勇者としての名声を守るため、行かねばならない。
まぁ、策があるから死地という程でもないが。
「……。どうか、どうか死なないでください。義兄様」
テナーは涙ぐみながら、生還を懇願した。
ここで『義兄様』と呼ぶのも、なかなかに人の心を動かしてくる。
実に良い演出だ。俺の勇者らしさも稼げる布石である。
「帰ってきたら一緒にアップルパイでも食べよう、テナー。父上の林檎を使った、な」
「……はいっ」
拭ってなおも涙を零しながら、テナーは頷いた。
これで勇者である兄が弟に生還を約束する、とても感動的な場面ができあがったのだ。
勇者としての人徳も、兄としての好感度も稼げただろう。
「それでは、出発します」
ドラゴンは空を飛ぶ。
俺も見つめ続けるテナーを、俺は見つめ返し続けた。
演劇の一幕かと疑ってしまう程、完璧な出兵だった。
日が沈みつつある時刻。
幸運な事にレオナルドたちが休憩しているのを発見した。
視界が利かなくなる前に彼らは野営の準備をしたかったのだろう。
全速力で走っただろう馬を休める意味もあるか。
「勇者様!」
「どうした?なんで戻ってきたんだ?」
「ホーオで策を練るんじゃなかったのか?」
喜ぶカウに、疑問を口にするユウダチとレオナルド。
ユウダチはまだ気軽のものだが、レオナルドは最悪の事態を予想したように深刻そうだ。
「端的に言いますと、策は練り終わりました」
「本当か!」
予想が覆ったレオナルドがことさら驚いていたが、そのレオナルド含め、皆は喜色一色だった。
しかし、そう喜べたモノでもない。
その策の前提が、レオナルドの実力にあるからだ。
「レオナルドさん、訊きたい事があります」
「……なんだ」
俺が真剣な雰囲気を纏えば、レオナルドはまた深刻そうな雰囲気になってしまった。
何を問われるのか、身構えているのだろう。
秘密が多そうだし、訊かれたくない事も多そうだ。
「貴方は実力を隠していますね?」
だが、それでも追及する。
「……何故、今にそれを?」
「貴方の隠した実力が必要だからです」
「……」
やはり、これは追及されたくなかったモノか。
レオナルドは押し黙り、俺を睨む。
「全力を出せ、とは言いません。だから、ユウダチさんがしたように、少しだけでも力を貸していただけませんか」
「……まず、全力は出せない」
俺が頼み込むと、レオナルドは口を開いた。
第一声が否定であるが、言葉は続く。
「実力の一部を引き出すのも、難しい。私は、とある使命を帯びている。そのため、目立つ事はできない」
続く言葉も、消極的な否定だった。
ここから、俺は交渉していかなければならない。
レオナルドの情報が少ない状態の、厳しい交渉だ。
そうして、交渉の口火を切ろうとした時だ。
「レオナルド。それって、人の命よりも大事か?」
ユウダチがレオナルドを説得しにかかったのだ。
「……」
「そうじゃねぇよな。……分かる、分かるぜ。お前が本気を出したくない理由も分かるよ。でもさ、それを優先して人の幸せが崩されていくのを見過ごすか?」
「……私たちは万能の神じゃない。何もかもを救える力はない」
「だけど!今回は救えるだろ!?」
「……」
レオナルドの歯噛みが、握り拳が、次第に強く締まっていく。
「なぁ、やろうぜ!?やらなかったら、俺たちはずっと後悔する!あの野郎に笑われるし、リーダーに顔向けできない!」
『あの野郎』と『リーダー』について、こっちには不明だが、ユウダチとレオナルドは共通認識のようだ。
「……だが」
「やらねぇっつうなら俺がやる!全力出してでもやってやる!」
「お前……」
「どうする、親友」
ユウダチとレオナルドは互いにまっすぐ相対し、その目で語り合う。
数秒して、レオナルドから視線を逸らせた。
「……私の負けだ。やろう」
レオナルドは折れたのだ。
親友の思いに、彼は感化される。
「そう来ると信じてたぜ!全く、頑固なんだからよぉ!あっはっはっはっ!」
「その一言は余計だ」
レオナルドはユウダチの頭を叩くが、ユウダチは構わず笑顔だった。
そんなユウダチへ溜息を吐き、レオナルドは俺の方へ向き直る。
「少しばかり本気を出してやる。策を教えろ」
多少不機嫌ながら、レオナルドは策に乗る姿勢を取ってくれたのだった。




