ダンジョン
エミが法国ザイオンに本格的に封魔絵術の修行の為に出発してから2週間が経った。その間カエデ達はジェイドに城下町を見たいと申し出たが城から出させてもらえる事なく訓練の日々を過ごした。そしていよいよモンスターとの戦闘訓練に入る日が来たのだった。
モンスターとの戦闘訓練は城下町の中央にあるダンジョンで行う。城下町の中央にダンジョンがある…正しくは発見されたダンジョンの周りに街が出来て国になるまで成長したのがワドニアというのが正しい。ダンジョンは不思議な事にモンスターが繁殖だけではなくいつのまにか自然発生する。その為素材などの安定供給が可能になる為ダンジョンに冒険者が集まり冒険者達に対して商売を行う者達が集まり…という具合に発見されたダンジョンの周りに街が出来ていくのはこの世界ではなんら不思議な事ではない。ただしダンジョンだけに冒険者が集まりすぎると自然界にいるモンスターによって害が村などに及ぼされる為冒険者ギルドがダンジョンを管理していてダンジョンに行く冒険者や村や町周辺に現れるモンスターを討伐する冒険者をある程度振り分けする。討伐依頼などを専門とする冒険者は良いがダンジョンだけに精を出す冒険者は公に対する貢献度が低いと評価されランクなどが上がらず素材の買取価格などにマイナス補正がつくのだ。しかしカエデ達はそもそも冒険者の登録を行っていないのでダンジョンに入る事が出来ない…が今後は王国の新兵の実践訓練ということで特別にダンジョンに入る事を許されている。
そしてカエデ達には今回戦闘訓練の為にダンジョンに潜るという事で武器や防具が支給され、現在は兵士専用の馬車でダンジョンまで移動をしている最中である。
(初めて街中に出るけど結構賑わっているな…)
馬車は窓や出入り口に布がかけられ外を伺う事は出来ないが商人の呼び込みや街人の話し声や笑い声でなかなかの喧騒を見せる。
(戦争中…なんだよな?戦争中だからこそ明るく!…って感じなのか?)
街は賑やかな様相を見せている…魔王率いる軍との戦火の中このような賑やかな様子にカエデは違和感を覚えた。
「なぁジェイド この装備ってもうちょいどうにかならなかったのか?」
コウキがジェイドに対し文句を言う。その理由は高価で派手な装飾…という訳ではなくむしろ逆。カエデ、コウキ、アカネは皮の鎧でレイナは皮のローブ。盾や靴も皮製で色も茶色で地味なのだ。
「まだ勇者様方はLVが1ですからね。ここで鉄製などの鎧を着てもまともに動けずに苦戦するのは目に見えてます。その装備でも数回の戦闘を行えば石のように重く感じてくると思いますよ。ダンジョンは深く潜るに連れてモンスターも強くなっていきます。逆を言えば浅い階層はモンスターも弱くその装備でも十分です。LVを上げていけば重い防具や武具を装備しても問題なく動けるようになるのでそれまでは我慢をしてください。」
「ちぇっ…」
コウキは手を頭の後ろで組んで馬車の壁に寄りかかる。レイナもアカネもそれを苦笑いしながら見ていた。一方カエデは殴打と防御の両方の特性を持つガントレットを見つめながら手を開いたり握ったりしている。
(俺はこの先この世界で生きて行かなくちゃいけない…命を奪う覚悟をしないと…)
やがて馬車が止まりジェイドがカエデ達には少し待つように言うと馬車から降りていった。
「ワド…王国騎………ジェイドだ。……の訓練に来た。………マスターに話は………あるが……聞いているか?」
「はい。ギルマス……話は……おります。どうぞ………下さい。」
ジェイドと誰かの話し声が聞こえる。一部は聞き取れたが全ては聞き取れなかった。
「よしっ!ダンジョンにいよいよ潜ります!付いて来て下さい!」
ジェイドが馬車の入り口の布をめくりカエデ達を馬車から降りさせる。馬車から降りたカエデ達は辺りの様子を伺う。ダンジョンは本当に街中にあるようで辺りには普通に家屋が建てられている。そしてジェイドが歩みを進めた先も普通の建物に見えた。入り口に扉はつけられていない。入り口の左右には武装した兵士のような出で立ちの男が2人。その2人の間を抜けてジェイドについてカエデ達も足を進めた。
「よぉ!!お勤めご苦労さん!」
「え?あ、あぁ…」
2人の間を通り過ぎる際コウキが兵士に声をかけ、声をかけられた2人は困惑の表情を見せた。
外からの見た目は普通の建物だったが建物の中は壁があるだけで家具などなく床さえも貼ってはいなかった。そして家屋の中央にはポッカリと穴が空いている。
「ったく…なんだよあの2人…勇者の俺が声をかけてやったってのにあの反応は…」
コウキが醜い顔を歪ませる。
「ふすーっ 私達ってまだ新兵って事になってるんじゃなかったっけ?」
「あ、そっか…なぁジェイド なんで俺達って新兵って事になってるんだ?普通に勇者って言っちゃダメなのか?」
「そ…それはですね…勇者となれば冒険者ギルドも勇者様方を頼りに色々と依頼を持ってくると思われるからです。しかし今ワドニア王国は魔族との戦時…冒険者ギルドは戦争には不参戦の誓いを立ててますので戦時下であっても依頼をどんどん持っています。そうなってくると魔王との戦いに不利になり得ますので新兵として報告しているのです。」
「なるほど…確かに冒険者の依頼に忙殺されてちゃ元の世界に帰るのもどんどん遅れちゃうしその方がいいかもしれないわね…」
(流石に魔王討伐ってなれば冒険者ギルドも協力してくれるんじゃないのか…?普通にそういう依頼があってもおかしくないだろ?)
レイナ達がジェイドの言い訳に納得している中カエデだけはやはり違和感を覚えていた。
「さて…では今からダンジョンに潜りますが装備の確認やポーションの準備は出来ましたか?先ずは低階層の弱いモンスターを相手にしますので大怪我をする事はないとは思います。それに私もフォローに入りますしね。では行きましょうか」
カエデ達は改めて装備や回復薬の確認を行いジェイドに続いて穴に入っていく。穴には自然に出来た不揃いの階段がある。
「にしても不思議ね…何も無かった場所にダンジョンがいつのまにか発生し階段なような足場を形成して…まるで人間を誘い込んでるみたい…」
「ふすーっ 本当よね…」
「へっ!どうでもいいじゃないか!とにかく俺達はここを利用してLVを上げまくればいいってだけだぜ!」
階段を降り終えるとジェイドが振り返りカエデ達に声をかける。
「ダンジョンは出て来るモンスターに偏りがある事が多いのですがこのダンジョンは割と色々な種類のモンスターが出るので訓練にも適していると思われます。そしてこのダンジョンの低層は小動物系のモンスターが出ます。見た目は可愛らしい姿をしているのですがしっかりと殺意を持って人間に襲いかかって来ますので注意して下さい。では私は皆さんの後方でフォローを行います。今までの訓練を思い出し行動してみて下さい。」
レイナが光を放つ光球を発生させるライトの魔法の詠唱を唱え盾術の勇者アカネが先頭、中心に魔術の勇者レイナ、その左右にコウキとカエデ、そして最後尾にジェイドが位置しダンジョンを歩き出す。
「ふすーっ もう20分くらい歩いたわよね…なかなかモンスター出てこないわね…」
「何言ってるのよ…15分くらいでしょ?」
「おいおい30分くらい歩いてるだろ?」
「えっ?(10分くらいだろ?)」
「ふふっ…皆さん緊張と警戒ですっかり気疲れされてますね。まだ歩き出して7.8分って所ですよ」
ジェイドが懐中時計を見ながら微笑む。
「マジかよ…たったそれだけしか歩いてないのか?こんなにも疲れてんのに…」
「慣れれば緊張と警戒のバランスがとれてきます。それまではおおいに疲れてください」
「ふすーっ あっ!?」
「モンスターか!?」
先頭を歩いていたアカネが声を上げそれに反応したコウキが剣を構える。
皆の視線の先には白いフワフワした20センチ程の毛玉が地面に落ちている。それが風もないのにコロコロとこちらへ転がってきた。
「あの毛玉 講座で習ったやつだ!」
「ふすーっ なんだっけ!?」
「毛玉兎よ!体当たりに気をつけて!」
「ふすーっ!分かった!アトラクト!!」
アカネが攻撃を自分に向けさせるアトラクトを唱え腰を少し落とし盾をしっかりと構える。アトラクトを唱えたからといって他の者に攻撃が完全に行かない訳ではないがアトラクトがあるかないでは攻撃主体の者の行動のし易さは雲泥の差がある。
コロコロと転がっていた毛玉兎は勢いを増して先頭のアカネとの距離が5m程になった所で地面から離れ一気にアカネへと突っ込んだ。「ふんっ!」とアカネが鼻息を漏らしながら盾で毛玉兎の突撃を受け止めるとボフンと音を立てた後毛玉兎は空中へと跳ね返される。
「まかせろっ!はっ!……あれっ!?」
空中へ跳ね返された毛玉兎に向かってコウキが剣を振り下ろす。しかし毛玉兎に当たった剣は毛玉兎を切り裂く事なく毛玉兎を地面へと弾いた。地面に叩きつけられた毛玉兎が軽いバウンドを起こしたタイミングでカエデが毛玉兎を蹴り上げる。
「レイナ!頼む!」
「オーケー!詠唱は終わってるわ!ファイヤーボール!」
蹴り上げられた毛玉兎に向かってレイナが杖の先を向けると杖の先から野球のボール程の火の玉が放たれる。
放たれたファイヤーボールは毛玉兎に直撃し大きな炎に変わると大きな炎は地面をゴロゴロと方向を変えながらに転がった後やがて動きを止めた。
火が消えた後に残ったのは兎の丸焼きである。
「どうやら私が異世界でモンスター討伐1番乗りのようね」
レイナがパサパサの髪をかきあげた。
「ふすーっ 私は盾役だから元々攻撃手段あんまりないしー」
「ちっ!先を越されたか…ていうか何で切れなかったんだ?」
「何言ってるのよ。毛玉兎はフワフワに見えるけどあの毛が物理攻撃に対して耐性があるって習ったじゃない。」
「そうだっけ?」
「はぁ…まったく…」
「レイナ初討伐おめでとう」
「ありがとう。といってもカエデが蹴り上げてくれたおかげで魔法が当てやすかったからだけどね。こちらこそお礼を言うわ。」
「…ちっ」
「おぉ!勇者様方!カエデ殿!初実戦で見事な連携じゃないですか!これはあっと言う間に私のLVなんか抜いてしまうんではないですか?いやぁ私もうかうかしてられませんな!」
急にジェイドがおべっかを使い出す。そんなおべっかに引っかかるカエデ達ではない。ないのだが…
「へへっ…まぁ任せとけって!ジェイドどころか人類の到達点も超えて魔王を完膚なきまで倒してみせっから!」
「「はぁ…まったく…」」
その後地下第1層で夕方まで毛玉兎や双子ネズミなどの初心者向けの魔物を狩り続けなんとか4人ともLVを2まで上げて帰路に着いた。馬車の中で4人はぐったりと座り込み壁に体重を預けたり首を下げて俯いている。
「やべぇ…まじ疲れた…」
「頭が痛いわ…」
「ふすーっ お腹減った…」
「本当に皮の鎧が重く感じるな…」
4人ともスキルを使用する事で消費されるMPが減った事や命がかかった戦いという初めての体験に心身共に疲れ切っていた。
ワドニア城へと戻って来た4人は夕食までの間自由時間となった。カエデは訓練場で今日のモンスターとの戦闘を思い出し、「あの時はこう動いた方がよかったかな?」と思うような体の動きをイメージし修正していく。
「カエデ様…あまり無理をなさってはいけませんよ」
クリスィーナが訓練場の入り口から歩きながらカエデに声をかけた
「あ、クリスティーナ様。大丈夫ですよ。無理はしてません。出来るだけ戦闘の感覚を掴みたいんでその日のうちに修正しておきたいんですよ。」
「カエデ様は勇者ではないのに1番勇者らしいですね」
クリスティーナがクスリと笑う。
実際ダンジョンから帰ってきたアカネとレイナはすぐに風呂へ行き、コウキは一眠りするといって自室へ戻っていた。
「自分はあいつらみたいに特殊なスキルがある訳じゃないですからね…この世界で生きていくためにはあいつら以上の努力は最低限必要かなと思いまして」
「その件については本当に申し訳なく思っております。…カエデ様は勇者様方と魔王討伐には行かれないのですよね?でしたらこのワドニア王国の騎士になりませんか?「勘も良さそうだしLVが上がればきっと強くなる」とジェイドも言っておりました。ジェイドはなかなか私にそういう事を言わないのですよ。」
「ジェイドさんが?…んー気持ちは有難いんですけど遠慮しておきます。せっかくの異世界なんで色々な所に行ってみたいんですよね。もし旅に飽きて安定した生活をしたい思ったらこちらからお願いしますんでその時はお願いします。」
「むー…この世界の人間なら国のお抱えの騎士に誘われたら泣いて喜ぶレベルなんですけどね」
クリスィーナが頬を膨らませカエデを可愛らしく睨む
「ははっ…そう言われれば確かにかなり光栄な事ですよね」
「はぁ…」
「…どうかされました?」
「実は最近コウキ様の視線をよく感じまして…しかも何かイヤらしい視線のような気がするのです。」
そう言われてカエデは思わずクリスィーナの大きな胸元に視線が行く。男は悲しいかな視線が決められたプログラムのように自分の意思と関係なく胸元やお尻や足を見てしまう生き物なのだ…とカエデは思っている。しかしそれが相手にバレるのはよろしくない。紳士とは異性に気づかれる事なく女性のセックスシンボルを見ることが出来る男に与えられる称号なのだ。
「カエデ様…今胸元見ましたよね?」
「あははー」
そしてカエデは紳士ではなかった…
「…ちっ」
そして楽しげなカエデとクリスィーナの会話を覗き以下略




