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落としたのは妹ですか?   作者: 狼煙緑
休日 編
21/39

いえ、司会のお姉さんです。ペンギンが嫌いになりました

 

「お待たせしましたー! これよりシャチとイルカのショーを始めさせてもらいますー!」


 司会のお姉さんの登場で観客席のボルテージは一気に跳ね上がる!

 だが、俺と櫻子の顔はどこか悟りを開いていた。


「お兄ちゃん~始まる~!」


 隣で袖を引っ張りながらワクワクした目をしている葉月ちゃんを横目に、俺と櫻子はため息をサンドイッチした。


「始まってしまいましたね」

「そりゃ始まるだろ……」


 覚悟は決まっているものの、これから来るであろう災害に気落ちせずにはいられない。

 隣で青いビニールを被ったカップルが羨ましく見える。

 滑り込みで入ったので俺たちには買う暇がなかった。


「まずは、みんなを楽しませてくれるお友達を紹介しますねー!」

「さあー! おいでー!」


「おっき~お魚さんだ~!」


 二匹のでっかいシャチが登場する。

 悪魔だ! 白黒の悪魔が現れてしまった!


「兄さん、今からでも買いに行きませんか?」

「この楽しそうな葉月ちゃんを置いて、そんなこと出来るわけないだろ」


 櫻子の言う事はもっともだ、だが、俺の袖を掴んで興奮してやまない葉月ちゃんを妨げる選択肢は俺にはないのだ。


「俺はいい、櫻子だけでも買ってこい……」

「兄さん!」


 一瞬躊躇うが、わかりました。と、最後には頷いて走っていった。


「これでいいんだ……これで」

「お兄ちゃんくるよ~」


 気づくと二匹のでっかいシャチが目の前に迫っていた。

 知ってるかい、葉月ちゃん? このシャチは飛ぶんだぜ!

 そう思うと同時に一匹のシャチが跳躍する!


 ジャバーン!!!


 水飛沫が観客席に降り注ぐ。


「すご~い! すご~い!」

「………………」


 座席から飛び跳ねかねない勢いではしゃぐ葉月ちゃんに対して俺の心はブルーだった。

 やっぱりこうなったか! びしょ濡れになった服を見ながら思う。

 横のカップルよ、今はしゃぐのは心に来るから勘弁してくれ!


「こうなら何度でも同じだ! こい!」

「こ~い!」

「兄さん……遅かったですか」


 少し遅れて、青いビニールを被った櫻子が戻ってくる。

 手には二つのビニール。俺たちの分も買って来てくれたのか。

 だが、数分遅かった。


「今更ですけど……これ」

「ありがとな、櫻子」

「なにこれ~」


 まだ続きますし無いよりマシですよと、葉月ちゃんに被せる。

 櫻子の言う通りだ。俺も遅れながら被る。


「元気いっぱいみたいですねー!」

「そんな二人の名前を紹介しちゃうよー!」


 二匹のシャチの名前はそれぞれ、ペンとギンと言うらしい。

 合わせてペンギン、空も飛べるんだぜ! と言うのがコンセプトらしい。

 無理があり過ぎないか……。跳ねてるだけだし。


「よーし、二人ともー! 客席に向かってペンギンアタック!!!」


 そう司会のお姉さんが叫ぶと、二匹のシャチが同時に大きく跳躍!

 ホントだ、空を浮いてる……。

 そう、惚けていると重力には勝てず落ちてくる。


「とんでる~!!」

「これはまずいんじゃ……」

「こんなの聞いてませんよ!」


 バッシャーン!!!!!


 各々がそう叫ぶと、まるで波のような水飛沫が客席の後方まで降り注ぐ!

 ペンギンアタックヤバすぎだろ!! さっきの比じゃないぞ!!


「すごい~! 雨みた~い~!!」

「雨と言うより滝だな……」

「このビニール意味がないじゃないですか……」


 みんな、なんやかんやでビショビショになる。

 すごい威力だった。これは前もって言ってほしかった。

 客席の方の声を拾うと、今日はいまいちだったとか、びみょー、とかが聞こえてくる。これ以上があるのかゾっとするな……。


「よーし! 物足りなさそうだし、もう一回いっちゃうぞー!」


「わ~!!」

「まだやるのか……」

「私ちょっとトイレに……」

「お姉ちゃんもみる~!」


 葉月ちゃんが俺たちの袖を掴んで離さない。

 これでは逃げられないな……。諦めるんだ櫻子よ。


「せーの!! ペンギンアタック!!!」


「ペンギンじゃ、ないじゃないですかー!!」


 櫻子の叫びも虚しく、俺たちは合計7回のペンギンアタックをお見舞いされた。




 ◇◇◇




「続いてはイルカさんたちですよー!」


「イルカ~!」

「やっと終わったな……」

「私、ペンギンが嫌いになりました……」


 シャチのせいでペンギンが嫌いになるとは……。ペンギンよ、可哀そうに。

 さっきまで見ていたペンギンたちの顔を思い浮かべながら、ご愁傷様と同情する。


「イルカさんも飛んだー!」

「おー、すごいな!」


 ステージ上に釣りあげられているボールに、ジャンプしてタッチしている。

 微笑ましいものだ。

 先程まで、そのボール以上の高さを目の前でシャチがジャンプしていたからな、3D映画の比じゃないくらい、迫力が半端なかった。


「イルカは良いですね……小さいです」

「すっかりトラウマだな……」

「わっかをくぐってる~!」


 何気なく他の客席の方を見ると、ボチボチと帰る人たちが見える。

 まさか、シャチ目的できていたのか? 物好きだな……。

 だったら、お前らが最前席に座れよ! と思い到るが自分の服を見て考え直す。 

 この被害を知ってるから座らなかったのだろうな……。

 後ろの人達は思ってるより濡れてないし納得だ。


「みんなー! また会いにきてねー!」


「うん~!」

「終わったか」

「みたいですね」


 本日のシャチとイルカショーは終了しました。とアナウンスが流れる。

 ただ見ているだけだったのにドッと疲れた。

 まさかここまでとは……思わなかった。



「今日は帰りましょうか……」

「そうだな……」

「かえる~!」


 こうして俺たちはお土産売り場で割高タオルとTシャツを購入し、トイレで着替えた後、自宅へと帰っていった。


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