いえ、水族館です。ペンギンとシスターズ
「なぁ、櫻子……」
「何ですか兄さん」
「何でここ?」
「高~い!」
朝食を終えた俺たちは、折角の土日だから出かけませんか? という櫻子の提案により、葉月ちゃんを連れて、デートもとい外出している訳だが……。
「いいじゃないですか、ポートタワー!」
「いや、まあ、いいけど」
昨日、風紀委員こと沢城 雪菜と来たばかりなのだが、とは言い出しにくい。
警備員のおじさんなんてもう顔を覚えちゃったよ。
週に数回で行くレベルって俺どんだけポートタワー好きなんだよ……。
「今日も見えますね、富士山!」
「ふじさ~ん! どこ! どこ!」
「こっちですよ! すごいですよ!」
二人して双眼鏡を覗きあっている。微笑ましい光景だ。
俺も昨日来てなければ、あそこに混ざっていたかもしれないな。
「………………」
俺は外の風景ではなく、周りの人達を見渡す。
なぜかって? 決まっている。ナンパ野郎と遭遇しないためだ!
過去ポートタワーに行ったその全ての際に、俺はナンパ野郎と遭遇している。
しかも俺が離れている隙を狙ってだ。
だから、警戒を怠る訳にはいかない。
「兄さん、なんで周りの人をジロジロ見ているんですか?」
「心配するな櫻子。お前は俺が守る」
「守るって………あっ」
「そんなに気にしなくていいですよ」
まるで俺を心配させないように笑顔で語り掛けてくる。
以前来た時のことを思い出させてしまっただろうか。それだけが心配だ。
「何が遭っても兄さんが助けてくれるって信じてますから」
杞憂だった。むしろ俺を信頼して、心から今を楽しんでくれている。
「……任せろ!」
「はい、信じます」
「お兄ちゃん? お姉ちゃん?」
なんだか変な雰囲気になってしまった。
葉月ちゃんに申し訳ない。程ほどに警戒しておこう。
「何でもないよ、葉月ちゃん」
「そうですよ、次はあっちの方を見ましょうか」
「うん!」
葉月ちゃんの手を引いて歩き出す。こうして見ると姉妹みたいだな。
そう思いながら二人の後ろを歩き出す。
◇◇◇
「山田風ドリアとカルボナーラ、お子様ランチになります」
「カルボナーラは私です」
「どうも」
「ごはーん!」
俺達はポートタワーを見終わったあと、近くのファミレスで昼食を食べることにした。
無事ナンパ野郎も現れなかったし、やっと一息つける。
「兄さんのそれ、変わった名前ですね」
「だな、山田風って何だろう」
山田さんが作ったのだろうか、ファミレスにしては独特なネーミングだ。
まあ、逆に気になったからこそ、これを選んだ訳なのだが。
「普通のドリアだな」
「そこは普通なんですね」
「おいし~」
それぞれが自分が頼んだものを食べ進める。
うん、やっぱり普通のドリアだ。なんだか拍子抜けだ。
そんなことを思っていると櫻子が話しかけてくる。
「兄さん、この後はどこに行きますか?」
「そうだなー」
どこへ行こうか、適当にぶらつくのも良いしなー。
けど、葉月ちゃんもいるし、歩き疲れてしまうか……
「あのね! 葉月、お魚さん見たい!」
「お魚さん?」
「そうなると、水族館とかですかね?」
「なるほど、そうするか!」
「うん!」
◇◇◇
~シーワールド~
「お魚さんいっぱ~い!」
「走ると危ないですよ」
「久しぶりに来たな」
興奮気味に泳いでいる魚たちを追いかける葉月ちゃんを横目に、俺は幼いころ親父に連れてきてもらった頃の記憶を呼び覚ます。変わってないな、あの頃から。
見渡す景色は、まだ少年と呼べるほど幼かった頃に見たものと何も変わっていなかった。泳いでいる魚の種類、配置、その到るところまで何一つだ。懐かしくなるな。思わず浸ってしまう。
「兄さん? 置いていきますよ」
ぼーっと水槽を眺めていると櫻子に次を急かされる。
「ああ、今行く」
俺はその場を後にした。
「ペンギンー!」
「たくさんいますね」
少し遅れて屋外に出ると、ちょうどペンギンが飼育員さんの持ってきた魚を食べさせていた。
「ペンギンさんがごはん食べてる~!」
「可愛いですね!」
「だな!」
見ているだけで癒されるな、まるで妹みたい。
そう思いながら二人とペンギンを見比べる。
どっちも素晴らしい、だが、シスターズの圧勝だな。
「何見ているんですか兄さん」
「どーしたの?」
おっと視線に勘繰られたらしい。
「いや、かわいいなって思って」
「そうですね、かわいいですよね」
「かわいい~!」
再びペンギンを見つめてそう口にする。
どうやら気づいてないようだ。
「あっちでシャチとイルカのショーをやるみたいだぞ!」
「本当ですか見たいです!」
「葉月もみる~!」
「よし、じゃあ行くか」
ペンギンたちにバイバイと別れをつげ、野外ステージの方へと向かった。
「席がほとんどありませんね」
「だな……どうしようか」
野外ステージに行くと結構な人が既に集まっていた。
見渡すとほとんどの席が埋まっていて、空いているのは最前列に少々と後ろの方が数席だけだ。
「どうしましょうか?」
「葉月、前でみたい~!」
「え?」
確かに前の席ならば一緒に座ることもできるし、大迫力だろうが……。
「兄さん、覚悟を決めましょう」
「仕方ない…な」
俺たちは空いている最前列に座ることにした。




