表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぁ?ウィリアムズ  作者: サミシ・ガリー
9/17

8.妖精と現実 ダレカ

前回に続き短めです、すみません

妖精と現実



 ダレカは裏口のドアから入ってすぐに閉めた。空気の流れがあっては支障が出るためだ。暗い街道を進んできたこともあって部屋が暗くともダレカには見えていた。簡素なコンロに大きな水桶、布巾などがキッチンには置いてあった。ダレカは出口から近いこともあって横目でそれらを眺めるにとどめた。以外と庶民な雰囲気だな、と感じながらそこを通り抜けてリビングに繋がっているだろうドアの前まで来た。


 ダレカの周りで鳴る音はダレカの息が出入りする音だけだ。呼吸が大きくならない様、ダレカは一度だけ見た、育ての親の笑顔を思い出す。場数を踏んで見つけた、ダレカの唯一の落ち着く方法だった。例え、自分に向けられた笑みでなくとも、ダレカの脳裏に刻まれた女性の横顔は影一つない太陽の様にダレカには映ったのだ。


 落ち着いたダレカは、ゆっくりとリビングへのドアを開けた。徐々に視界が広くなっていき、ダレカは家の構造を大体把握した。

 大きなリビングには食事をするだろう、長いテーブルがあり、奥には暖炉を囲むように立派なソファが一つあった。おそらくこの上に社長の個室か寝床があるだろう。そして、左奥の方には玄関がある。ダレカは気配を消すようにして、ゆっくりと床の板を踏み進める。左手には階段があり、玄関を開けると階段とリビングが見える様になっている様だった。ダレカは階段下の壁に沿う様に進んでいく。同時にリビングを見渡すが、先生が喜びそうな物はなさそうだった。食器棚にある皿や、フォークなどに銀が施されて入れば話は別だが、ダレカは音の鳴る食器類は避けて、部屋の構造を把握することを優先した。家族構成すら伝えられていないのだ。ダレカにとってはリスクの高い仕事であった。緊張しつつもこの家の庶民具合に違和感を感じていた。


 そうして、階段に身を隠せなくなり、玄関を目の前にする。玄関から入って右手に部屋が二つあった。片方のドアは開いており、洗面所の鏡がダレカを映した。


 ダレカはまじまじと、映る自分を見た。聡明そうな目にスッと伸びた鼻、えらが張っていて強そうな印象を受ける顔だ。偉そうなちょび髭と綺麗に整えられた髪、その上に額が隠れるほどの広いつば帽子を被っている。服は上等な黒いコートに、立派なボタンと国旗が刺繍施されている。肩幅は広く、そこらへんのゴロツキなら投げ捨てられそうなガタイをしている。ダレカは鏡に向かって、二カッと笑って髭をくるりっと捩じ上げて、得意げに帽子を深く被り直した。そして両頬を引っ張ってイケてる顔を崩した。しかし、すぐに真顔に戻って映る誰かを見た。悲しそうな目をしているそいつに、ベーっと舌を出して、もう一つの部屋に向かった。


 閉じている扉の前まで来て、耳をドアに付けて中の音を確認する。人はいる。起きているのか呼吸は不規則だ。時折子供が咳をする音も耳に届いた。ダレカは迷った。起きているのであれば、どんなに静かに動いても階段を上り下りする音は分かるだろう。それに、この家に先生の喜びそうなモノが置いてあるとは考えにくい。それならばいっそ内情を把握すると言う意味で彼女を『貰う』ことも選択肢の中の一つにあった。


 ダレカは早くこの仕事を終わらせたい、ということもあって、決心してドアノブをゆっくり回していった。ダレカはドアを少しずつ開けていく、その時間はダレカにとってはとても長く感じた。それは一時間だったかもしれないし、一分だったかもしれない。大きな手に汗が滲む。頼む!向こうを向いていてくれ!、そうダレカは大嫌いな神に祈って中の様子を覗いた。


 祝福もくれなかった神は気まぐれにも微笑んでくれたのか、子供は部屋の窓の方に顔をやっていた。部屋にはモノはほとんどなく、着替えが一着テーブルに置いてあるだけで、その他のモノは異常なほど置いていなかった。ダレカは子供が咳をするたびに嫌な汗を吹きだす。そうして大きな体がドアを通れる位までドアを開けて、素早く、しかし丁寧に右足を部屋の中に滑り込ませた。幸運にも床の板は音一つ鳴らず、ダレカを部屋に歓迎した。そこでゆっくりとゆっくりと子供に近づいていく。髪先でいい、触れるだけでいいんだ、そうダレカは自分に言い聞かせてブロンドの髪に手を伸ばす。目の前にしてみると、どうやらダレカと同じくらいの歳の女の子である事が分かった。どんな顔か見て見たかったが、ダレカは臭い先生を思い出して指を近づける。


 そうして、指が髪に触れたかどうかと言う時にゆっくりとその女の子がこちらを振り返った。その子はくりっとした目をしていて、整った顔をしていた。長い間ベットに居る所為か、顔はやつれていて、目の下にはクマが濃い。ダレカは身をひるがえして逃げようとしたが、体が急に重くなり、体の節々が痛みを訴える。そして肺は焼ける様な痛みに教われた。思わず咳が出てしまう。同じタイミングでその女の子も咳をしていたのか手を口にやっていた。そして、

「私? どうして?」


 その声は咳をし過ぎた所為で枯れていて、十二歳の女の子の声に聞こえなかった。この状況で叫ばない少女を目の前にしてダレカの熱っぽい脳みそが動き出した。そしてダレカは彼女と同じ、かすれた声で答えた。


「そう、私はあなた。私は妖精よ。あなたを助けに来たの」


 ダレカは自分でも何を言っているのか分からなった。







どうもサミシ・ガリーです。新生活いかがでしょうか?私、執筆を舐めておりまして、平日の執筆時間を確保するのが大変だと気付きました。低クオリティ(たかが知れてますが)の短めの文を投稿するのは余りにも心苦しいのでいっそ週一回の投稿にしてみます。更新楽しみにしてくださる方、申訳ありません。ラストがあるので、打ち切りはございません!次話は4月29日金曜の八時とさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ