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【完結】家族に愛されなかった怪物令嬢は、かわいい義息のために最強の継母になります  作者: 当麻リコ
エピローグ

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41/41

41.怪物令嬢

「嘘つき! 最低よ! この裏切り者!」


護送用の馬車まで引きずられながらセレスティアが叫ぶ。


「離しなさいこの痴れ者が! わたくしを誰だと思っているの!?」


メイクを施されることもなく、髪を振り乱し、目を血走らせている彼女は、とてもではないが第一王女とは思えない。


憲兵たちは暴れる彼女を抑え込むのに辟易としていて、チラチラとアレクシスに助けを求めるような視線を送っている。

けれど彼は朗らかな表情で一連の作業を見守っているのみだ。

もう関わりたくないのだろう。


「憲兵の方たちが可哀そうなので手伝ってまいりますね」


その気持ちはよく分かるので、私がその役を買って出ることにした。


「わざわざ君の手を煩わせるほどのことではないと思うが」


「煩わせるというほどのことはいたしませんわ」


アレクシスは気づかわしげに言うけれど、私としては一刻も早くご退場願いたいのだ。


「皆様方、そんなに乱暴にされては第一王女たるセレスティア様に失礼です」


私が声をかけると、セレスティアが私を睨んだ。


「なによ、いまさら恐れをなしたのかしら?」


「いいえ。ただ、あなたはこんなに華奢なんですもの」


言いながらそっとセレスティアの手を取る。


「ほら、まるで小枝のような指……一体何本目で黙るのかしら」


微笑みながら優しく力を込めると、セレスティアは「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げて気を失った。


「さ、今のうちにお乗せになって」


にこりと笑って言うと、彼らは慌ててセレスティアを担いで馬車に押し込んだ。


「鮮やかなお手並みだ」


肩を震わせながら褒めてくれるアレクシスに「光栄ですわ」と返して、馬車が去っていくのを並んで見送った。

胸のすくような、晴れ晴れとした朝だった。




すっきりした気持ちのまま談話室に移る。


「それで、セレスティア様のおっしゃった『嘘つき』とはなんだったのです?」


「ん? ああ」


お茶を飲みながら問うと、アレクシスが悪い顔で笑った。


「昨夜、君がリアムを連れ出してくれたあとのことだ。正直にすべて話せば、この屋敷で暮らす許可を与えると言ったんだ。そうしたら洗いざらい吐いた」


「……内容次第では許可なさるおつもりで?」


「まさか。ありえない」


あまりに堂々とした返答に、呆気にとられてしまう。


「嘘が嫌いだからといって、嘘をつかないとは言っていない」


ニヤリと笑うアレクシスにハッとする。


「俺のギフトを聞くと、皆なぜか俺が嘘をつかない清廉潔白な人間なのだと思い込む」


「たしかにそうですわね」


不思議だ。

私自身、いつの間にかなんとなくこの人は一切嘘をつかない人間なのだと勝手に思い込んでいた。


「ふふ、盲点でしたわ」


おかしくなって、クスクスと笑いが止まらなくなる。


「散々煮え湯を飲まされてきたんだ。これくらいの嘘は許されるだろう」


ふてぶてしい顔で言って、アレクシスはお茶を口に運んだ。


「それで、セレスティア様はなんと?」


「まず、セレスティアは俺の元従者を通じて第一騎士団の人間とコンタクトを取ったらしい」


「ではやはり逃げてきたというのは嘘だったのですね」


「それどころかとことん利用した挙句捨てたようだな」


呆れ果てた顔でアレクシスが先を続ける。


セレスティアは自分の信奉者だったその騎士に、自分を悲劇のヒロインとした嘘八百を並べ立て、義侠心と恋情を上手くくすぐった。

そして騎士は、同じくセレスティアを慕っていた同僚たちに声をかけ、襲撃計画を練った。


第一騎士団は王族の警護を担う立場上セレスティアと近しく、皆彼女に友好的——どころか、彼女が全員に気のある素振りをしていたせいで、一時期セレスティアを取り合ってもめていたこともあるらしい。

セレスティアの生存を知った騎士たちは、むせび泣いていたらしいとかなんとか。


「泥沼ですね」


「俺を恋敵として憎んでいる者も多い」


うんざりした顔でアレクシスが言う。


メイソンは両者の繋ぎ役を仰せつかったらしい。

密かに連絡を取り合い、アレクシスを王宮に留まらせ、決行の合図にあの革袋を渡したそうだ。


「小賢しいことに奴らは騎士としてではなく、あくまでも個々の私情でセレスティアに協力しただけと言い逃れられるようにゴロツキに扮したそうだ」


どちらにしろ身元が割れれば懲戒処分は免れないのに、とアレクシスが苦笑する。


しかしまさかの反撃にあい、女一人に十人以上で挑んでも手こずっているのを見て、クロイツ家に戻るのは無理とセレスティアは判断した。

そして万が一に備えて控えていた残りの騎士たちのところまでリアムを引きずり、殺させようとした。


自分の手を汚すという発想すらないのが彼女らしいと言えばらしい。


その死体をセドリック殿下に献上すれば、褒められて王宮に戻れると考えたのだという。

あまりにも浅はかだ。

そしてその浅はかな計画を、止めることも諫めることもせずリアムを殺そうとした騎士たちにまた腹が立ってくる。


「あの方たちはどうしてそこまでセレスティア様に協力を?」


いくら話をでっち上げたとしても、少しは疑いを持ってもよさそうなものなのに。

それほどまでにセレスティアへの恋情が強いのだろうか。


「セレスティアのギフトのせいだろうな」


アレクシスが深いため息をつく。


「セレスティア様の?」


「精神干渉系の、かなり強力なギフトだ。言霊強化とでもいうのか……彼女の言葉を信じやすくなり、叶えてやりたくなるという厄介な特性だ。彼女に好意を持つ人間ほど強く作用する」

「なるほど、だから……」

思わず絶句してしまう。

あまりにもセレスティアにぴったりのギフトだ。

というより、そんなギフトを持っているせいであんな性格になってしまったのだろうか。


国王陛下が無理を押し通してアレクシスに結婚を迫ったのも、不倫の末の駆け落ちをアレクシスの罪に仕立てたのも、ただの娘可愛さだけでなくギフトによって強化されたものなのであれば多少の納得もいく。


「ではルーナも……?」


暗い気持ちで問う。


昨夜のうちに、内通者はルーナだったとアレクシスに打ち明けられていた。

彼女には本当によくしてもらったから信じたくはなかったが、それもセレスティアのギフトによるものなら間違いではないのだろう。


「ああ。彼女はセレスティア付きの侍女だった。セレスティアも侍女に嫌われては損だと理性が働いたのだろう。ルーナにだけは優しく接していたそうだ」


傍若無人な振る舞いはメイドにだけ。


本性を見せなければ、美しくたおやかなセレスティアは理想の主だったのだろう。


「この屋敷で一番セレスティアの近くにいた人間だ。誰よりも深く、強力にあのギフトが作用したはずだ」


「……ルーナは処罰されるのでしょう」


恐る恐る尋ねる。

自分で口にした処罰という言葉に、胸の奥が冷たくなった。


「彼女は悪意で情報を漏らしたわけではない」


アレクシスが苦笑する。


「というと?」


「俺の外出予定を漏らしたのは『リアムに会いたいけれど、アレクがいる時に訪ねたら怒らせてしまう』と泣きつかれて、同情したからだそうだ」


「なんて悪質な……」


人の善意に付け込んで、無自覚に雇い主を裏切らせる。

きっとそこには罪悪感などひとかけらもないのだろう。


「護衛騎士の酒に下剤を盛った件もそうだ。元従者から『迷惑をかけたお詫びに』と預かったと言い、セレスティアがルーナに酒瓶を寄越した。それを渡しただけ。中身のことは何も知らない。護衛の名誉のために下剤の件は伏せていたから、ルーナは酒が原因で腹を下したことすら知らずにいた」


知らないまま同僚を陥れ、知らないまま敵を招き入れていたなんて。

本来であれば警戒していただろうことも、言霊強化というギフトのせいで疑問を抱くこともなく。

その凶悪さに、あらためて背筋が寒くなる。


「言ってしまえばルーナはセレスティアの犠牲者でもある。減給か謹慎で済ませるつもりだったが、事情を知ったルーナが責任を感じて自ら辞した。自分のせいで危険な目に遭わせてしまったと、何度も君に謝っていたよ」


「そんな、止めることはできないのですか?」


「昨晩のうちに荷物をまとめて出て行ったようだ。同室のメイドが辞表を見つけたらしい」


もはや手遅れなのだと知って、それ以上は何も言えなくなってしまう。


「それにしても強い強いとは思っていたが、主力メンバーでなかったとはいえ第一騎士団を壊滅させるとはな。その場に居合わせることができなくて残念だったよ」


しんみりと黙り込んでいると、空気を変えようとしてくれたのか、アレクシスがぼやくように呟いた。


「見ても面白いものでは」


「俺は君の戦う姿が好きなんだ」


「えっ、そんな、その、ありがとうございます……」


真っすぐに言われ、思わず照れて口ごもってしまう。


「あの、もしかして悪いことをしてしまったでしょうか。王宮のメンツを潰してしまったのでは」


唐突に不安になって慌てて問う。

仮にも王家直属の騎士団を、怒り狂っていたとはいえ叩き伏せてしまったのだ。


けれど私の質問に、アレクシスが肩を小刻みに震わせ始めた。


「くく、いやいや、エリート意識の肥大した奴らにはいい薬になっただろう」


とうとう堪えきれなくなったのか、声を上げて笑い出す。


「実のところ、団長の顔を見るのが楽しみで仕方ない」


「まぁ!」


珍しく意地の悪い顔をしているアレクシスを意外に思う。

どうやら第一騎士団の団長とは仲が悪いらしい。


「君が奴らを返り討ちにしたことはすぐに王宮中に広まるだろう。選民意識に凝り固まった連中だが実力は確かだ。それがたった一人を相手に手も足も出なかったんだ。もうリアムを狙う愚か者はいないだろう」


いい見せしめになった、とアレクシスが満足そうに言う。


「仕返しをしようなどという輩はディートリヒが嬉々として叩き潰すだろうな。そういうことにかけてはあれほど頼りになる男もいない」


信頼のこもった口調で言ってから、アレクシスは急に渋い顔になった。


「……ただ、そうなるとまたうるさくなりそうだ。また勧誘してくるだろうが、ちゃんと断るんだぞ」


「ですから、女性は騎士団には入れませんのでご安心を」


「いや、奴なら君のために規則を捻じ曲げかねん……しかしもし君が望むのであれば俺に止める権利は……だがやはり」


一人でうろたえ始めるアレクシスがおかしくて、笑いがこみ上げてくる。


「ふふ。大丈夫、騎士団に興味はありません」


「そ、そうか」


念を押すような私の言葉に、ようやくアレクシスがホッとした顔になった。


「ああそれから、陛下は奇跡的に意識を取り戻された。継承権争いはひとまず膠着状態だ。リアムの身は当面の間安全だろう」


「よかった……」


心底安堵して、息をつく。

かなり戦えるようになってきているとはいえ、リアムにはできるだけ平穏に過ごしてほしい。


「それと、君の家族についてだが」


アレクシスが居住まいを正して一度深く息を吸う。


「このままだと、フィオナ嬢はセドリック殿下に切り捨てられるだろう。計画は失敗した上に、セレスティアの件にも一枚噛んでいる。彼女を生かしておけば、いずれ殿下の地位を脅かす存在になりかねん」


セレスティアを調べても、殿下に繋がる証拠は出ないかもしれない。

けれどあの軽率なフィオナが秘密を守り続けられるとは思えない。

そもそも、殿下は最初から婚約なんてするつもりはなかったのではないか。


きっとフィオナも私同様に捨て駒なのだろう。

フィオナだけではない。

たぶん、お父様たちも。


「君はどうしたい?」


「どう、とは?」


アレクシスに真剣な顔で問われて首を傾げる。


「今ならまだ、罪人として引っ張ることで命は救える」


私の気持ちを慮る、真面目な声だった。


少し考えて、それからゆっくりと口を開いた。


「——悪いことをしたら反省室に閉じ込められる。それが我が家の家訓ですの」


にっこりと微笑んでみせる。


そう、私にそれを強いてきたのだから。

彼女たちだってきっとその覚悟があるに違いない。


「自分の犯した罪の自覚もなく、あっさり殺されておしまいなんて腹の虫がおさまりませんわ。どうぞ地下牢に放り込んでやってくださいませ」


あえて露悪的に言うと、アレクシスがニヤリと笑った。


「それで、その美しい二重奏に隠された本心は?」


「……っ」


一瞬で顔が熱くなる。

この人の前で強がりの嘘なんてつくものではない。


結局のところ私は、自分で思うほど割り切れてなどいなくて、あんなひどい家族でも見殺しにはできないのだ。


いいや違う。

きっとここに来る前なら、少しの葛藤はあっても命を救おうとまでは思わなかった。

だけど。


「……リアムの家族として、悪党の死を喜ぶような人間にはなりたくないのです」


観念して白状すると、アレクシスは「そうか」と満足そうに目を細めた。


ふと、かわいい足音が聞こえてきて私はドアの方を見た。


「どうやら待ちきれなかったようだな」


私の視線に気づいてアレクシスが笑う。


バン、とドアが開いて、頬を膨らませたリアムが乱入してきた。


「ねぇまだ!? もういいでしょう父上! 早くエリーをかえしてください!」


セレスティアに会わせたくなくて、朝からずっと家庭教師がつきっきりだったのだ。

とうとう痺れを切らしてしまったらしい。


「こら、ノックはどうした」


「だってもうお昼だよ!? ノックなんてまってられないよ!」


焦れたように言って、リアムは私の手を掴んでぐいぐいと引っ張ってくる。


「ほら行こうエリー! ごはんの前に運動しなくちゃ!」


「はいはい、分かったから落ち着いて」


「たまには俺も付き合おうかな」


「ホントに!? ボクと手合わせしてくれる!?」


「手加減してくれるなら受けて立とう」


格好悪い申し出なのに、恥じらいもなくアレクシスが堂々と言う。

リアムは一瞬ぽかんとしたあとで盛大に噴き出した。


「あはは! いいよ!」


吹っ切れたように明るく笑うのが嬉しくて、私はアレクシスと顔を見合わせて笑った。




よく晴れた庭に、木剣の音が軽やかに響く。


「なぁ、考えてみたら、もうそんなに鍛える必要もないのではないか?」


早くも音を上げて見学のアレクシスが、休むことなく動き回る私たちを見て呆れ半分に言った。


「いざとなったら国家を相手取っても負けないように鍛えなくては!」


リアムを守るためならやれる自信がある。


「さすがにそれはやりすぎ」


張り切って言う私に、リアムが呆れたように笑う。


「できるわけない、ではないのだな」


リアムの言葉に、今度はアレクシスが呆れた。


「だって母上ならできるにきまってるからさ」


笑いながら、自然に私をそう呼ぶリアムに胸が熱くなる。


「リアム……!」


嬉しくて思わず手を止めぎゅっと抱きしめると、リアムは照れたように耳を赤くした。


「……母様だとほら、あっちを思い出しちゃうから」


何も言っていないのに、照れ隠しなのか不要な言い訳をするのがかわいらしい。


「俺も仲間に入れてくれ」


すかさずアレクシスが割り込んでくる。

昨夜をなぞるような言い回しに、私とリアムが同時に笑い出す。


一人でも生きていけるとずっと思っていた。

けれど大切な人と一緒なら、ただ生きていく以上の幸福があると知った。


きっとこのギフトは、彼らを守るために神様が授けてくださったのだろう。

呪いのように感じることもあった力に今、生まれて初めて感謝している。


怪物でかまわない。

恐れられるほどに敵が減るのなら、いくらでもそう呼べばいい。


私はエリシア・クロイツ。


王族殺しにお似合いの怪物で、最愛の息子リアムの最強の継母だ。



最後までお読みいただきありがとうございました!


もっと大暴れさせたいという気持ちと、倫理的にどうなんだ…?という気持ちとの葛藤で、プロットで考えていたより大人しくなってしまいましたが、少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。


久しぶりの投稿でとても緊張していましたが、

リアクションや感想、ブクマ、評価等いただけてとても励みになりました!

誤字報告もとても助かりました。


完結までお付き合いくださり、誠にありがとうございました。

もしよかったら、下にある☆☆☆☆☆で評価いただけると嬉しいです!

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