最高の調味料、そして幻のキノコ
「想像以上に美味だった。忖度抜きに」
王は満足そうに笑いながら腹をさする。普段の重い食事と比べて、胃にスルスル入ってしまう料理についつい食べ過ぎてしまった。
「ホージョーサンは勇者として召喚したが……勇者にしておくにはもったいないほどの腕前だ。勇者より料理人を勧めるなど、王失格だが」
親平がちょっと吹き出す。王もキングジョークが受けたようでニヤニヤしている。
「ありがとうございます……私の腕前は本職の方々には遠く及びませんが、それでも喜んで頂き恐縮です」
「いや、本当に本職以上に感じたぞ」
道安の謙遜に、王は賞賛を重ねる。しかし、道安はほほ笑みを浮かべながら続けた。
「もし、本当にいつもの料理より美味しく感じたなら……実はひとつ、心当たりがあります」
王は興味津々で道安に質問する。
「どんな魔法を使ったんだ?」
「それは、王が私の調理風景を見たことです」
「調理風景を見たというだけで……?」
王は、意外な答えに首をかしげた。種も仕掛けも本当にない手品のような答えに、親平も首をかしげる。
「……料理が出てくるまでの手間は、実際にやってみるか見てみないと分からないものです。これは、ただ食べるだけでは、本当に気付きづらい」
王と親平は、料理の味についてなら努力して味わおうとした経験がある。しかし、その向こう側、つまり調理について考えたことはないことに気がついた。
「『異世界の美食を知る勇者が作ったから』『精進料理という珍しい料理だったから』という要因もあったかもしれませんが、本質ではない。あなたは私の調理風景に親しむ機会を得たから、普段の食事よりも特別な感謝を感じ、それが美味しさに繋がったのでしょう」
その感謝はありがたく受け取りますが、と続け、道安は王に向き合って、さらに続ける。
「私でなくとも、毎日あなたに料理を作るコック、さらにはその食材を生産している方々の仕事を見れば、同じように美味しく感じると思いますよ」
「そうか……」
国のトップとして激務をこなしてきた。そう言い訳すれば、おそらく反論してくる者はいないだろう。
しかし、王は自身の食事を作るのに、どれだけの人が手をかけているのか、今初めて思いを馳せることができた。
「激務の上、立場もある身です。全ての人に感謝を伝えるのは難しいでしょう。だから、想像でもいいので、彼らの手間に感謝してから頂いてみてください。そして、彼らに直接言う代わりに、食事前に唱えてみてください『いただきます』と」
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二人がそれぞれの寝室に帰った後、道安は一人厨房に残っていた。
目の前には、説明しかけて、結局説明しなかった天然マイタケ。今は道安の手によってシンプルな塩炒めになっている。
異世界シイタケに関しては、自分の身体で確認したところ毒はないと分かっている。しかし、この異世界マイタケは、まだ安全の確認が取れていない。彼らに食べさせるわけにはいかない。
(……これは、ただの毒見です)
自利利他の精神で、まずはこの身体で試し、健康に問題なく美味しい食材だと判ってから振る舞う。
道安は、マイタケを口にしてみた。
「……!」
修行中、一度だけ先輩と発見した天然マイタケ。通常の流通に乗っている栽培ものとは格の違う、幻のキノコ。
先輩と一緒に文字通り舞い上がったあの時の味が、口の中に広がった。
(……いかんいかんいかん。執着してはならない)
道安は慌てて心を落ち着かせる。
(まだ安全と決まっていないし、安定して採取できるとも限らない。執着すべきではない。今はただ、私の食事となってくれた異世界マイタケに感謝しつつ、この感情はいったん手放す)
マイタケを執着しない程度に味わい。すぐに調理場をピカピカに磨く作業に没頭する。
やがて輝く厨房を去った道安は、小さな自室で一人坐禅を組み始める。
色々なことがあった日だった。考えることは多い。
しかし、今はただ坐る。考えを放下して、全てを手放す。
なんてことない、いつもの坐禅とまったく同じ坐禅が、今日も始まる。
道安は一人ぼっちであっても、自分に向かって言った。
「今晩も……とりあえず坐りましょうか」




