良い坐禅? 悪い坐禅?
しかし、どうやっても頭に雑念が浮かんでくる。ホージョーサンは適当なことを言っているに違いない。いや、適当なことを言っているならあんなにポンポン言葉が出るか? いやいや何を考えているんだ無心にならないと。ところで鼻がかゆくなってきた、これ掻いていいのかな? あー痒いのに対処できないとこんな感じなのか、ヤバ。手がうごかなくなったり取れちゃった兵士ってこんな感じなのかな……それはヤだな……。
「……」
「……」
マショーダワが雑念と格闘し、早く終わらないかなと考えている内、一炷が終わった。
「……おそらく、警策があなたを励ます助けになりそうだ。明日、頼んで持ってきてもらいましょう」
「……うまくいってなかったってこと?」
「坐禅に良い悪いはありません。雑念にとらわれるのは人間として自然なことです。うまく流せるようになるまで、坐り続けると良いでしょう」
「……」
「修行と聞くと、上手くいくように頑張る、高みを目指すことのように思うかもしれませんが、少なくとも私が思う修行には当てはまりません。不出来だったと思おうと、坐禅の形を保ち、なんとか雑念を流そうとしたあなたの坐禅はまさしく坐禅でした」
「……でもなんかくやしい。いままで意味があることならこんな失敗したことなかったのに」
「目的がないのは確かですが、意味がないなんてことはありませんよ。文字にできないだけで。それに、こんな言葉もあります。身初心なるを顧かえりみることなかれ」
「……?」
「古い言葉で、経験が乏しいことや、自分は未熟であると気後れするな、という意味です。坐禅は、上手くいかないことも含めて、常に初心者のような心で取り組むことが大切なのです」
「……なんかいいこと言ってごまかそうとしてませんか?」
道安はにやりと笑った。
「坊主はいいことを言ってごまかすのが得意かもしれませんね。でも、『いいこと』はおそらく、善い縁を導く教えだから、これはつまるところ仏法のこと。いいことを言うことにかけて、我々は天職です」
「またそうやって煙に巻こうとするー!」
「今日はここまでにしましょう。また明日来ますよ」
道安は笑いながら勝手に出てってしまった。道安のために用意した部屋は、この部屋からしか行けないんだけど……。
「……ぜったいホージョーサンをぎゃふんと言わせてやる」
ぎゃふんと言わせる。
その方法が、
彼を論破することなのか。
色仕掛けで醜態をさらさせることなのか。
または彼の言う「修行」で、彼の予想を超えることか。
……言った本人も、どれを想定してつぶやいたのか分からなかった。




