表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

スローライフ第一主義!チートでもマイペース

【プロローグ】⸻


 ――私はその日、静かに息を引き取った。

 日本で、ひとり暮らしのソロ活を楽しみながら、本とコーヒーに囲まれて生きていた私。介護の仕事は大変だったけど、誰かの役に立てる喜びも知っていた。

 そんな平穏な毎日が、ある日突然終わりを迎えたのだ。


 気づけば、私は知らない世界にいた。

 青い空、緑の大地、そして石造りの重厚な屋敷。

 新しい名前は――エリシア・フォン・ラントベルク。辺境の地を治める、ラントベルク辺境伯家の次女だ。


 おまけに、赤ん坊のころから私は特別な「力」を持っていた。

 手をかざせば、ものの正体が分かる【鑑定】。

 どんなものでも無限に収納できる【アイテム袋】。

 空をなぞれば、見慣れた【インターネット】が使え、欲しいものは【ネットショップ】で手に入る。

 そして、ステータス画面を開けば――レベル∞(無限大)。


 「……ちょっとチートすぎない?」


 前世でこつこつと働き、地味に生きた私に、神様がくれたご褒美だろうか。


 のんびりと田舎で暮らし、美味しいものを食べ、好きなだけ本を読み、ゆるく生きる。

 そんなささやかな夢を胸に、私はこの新しい世界で、ゆる~く、暮らしていくことにした。

【第1章 辺境の田舎で、のんびりスローライフ】



 「エリシア、起きておいで。朝だよ~」


 母の優しい声で目を覚ます。

 ふわふわのベッドの中で、ごろごろと体を転がしながら、私はもぞもぞと返事をした。


 「ふぁい……おきたぁ」


 目を開けると、天井には太い木のはりが走り、窓の外では小鳥がさえずっている。

 ここはラントベルク領――地図で見ると、国の端っこのほうにある小さな土地だ。

 豊かな森と、青々とした草原と、少しばかりの農地に囲まれたこの辺境の地で、私はエリシア・フォン・ラントベルクとして、生まれ育っている。


 「エリシア、今日も朝からお勉強頑張ろうね!」


 部屋に飛び込んできたのは、私の姉、クラリッサだ。

 ぱっちりとした目に、金色の巻き髪。朗らかで面倒見のいい姉は、私のことを本当に可愛がってくれる。


 「えへへ……お姉ちゃんとなら、べんきょうする~」


 そう言って抱きつくと、クラリッサは嬉しそうに私を抱き上げた。


 この家族は本当に温かい。

 辺境伯である父も、優しくておっとりした人だし、母は絵に描いたような慈愛の人。

 兄は剣術の訓練で忙しいけど、時間ができると私に絵本を読んでくれたりする。


 ただ――。


 「ラントベルクの田舎者どもは、ほんとうに……」


 昨日、父と一緒に城下町へ出かけたとき、隣国の貴族がそんな言葉を漏らしているのを、私は聞いてしまった。


 ここラントベルク家は、王都の華やかな貴族たちに比べて、田舎臭い、格が低い、とバカにされることが多いらしい。

 もちろん、父は気にしていないようだったけれど、私は――少しだけ、胸がちくりと痛んだ。


 「……じゃあ、私ががんばろっかな」


 のんびりと、スローライフを楽しみながら。

 でも、必要なときには、ちょっぴり本気を出して――。


 そんなことを考えていた、ある日のこと。


 「エリシア! ねぇこれ、すごいわよ!」


 庭で摘んだ花を母に渡したとき、ふと【鑑定】スキルが発動してしまった。


 【スプリングローズ:希少種。魔力を帯びた香気を持つ。市場価格:金貨50枚】


 (……金貨50枚って、めちゃくちゃ高くない?)


 無邪気な顔で母に手渡しているけれど、私は内心で大パニックだった。

 だって、こんな高級品、そこらの庭に生えてるなんて――。


 このとき私は、まだ知らなかった。

 これが、後にラントベルク家を驚かせ、王都をざわつかせる大事件へとつながることを――。


 「まあ、まあまあまあ……エリシア! これ、本当にお庭で摘んだの?」


 母が驚きで目を丸くする。

 スプリングローズという希少な花――その香りには癒しと魔力増幅の効果があるらしく、王都ではなかなか手に入らない高級品だったらしい。


 「うん。おはな、きれいだったから~」


 無邪気に答える私。

 (いや、本当は【鑑定】で知ってたけど……)


 母は大慌てで庭に走り、父や兄、姉まで呼び寄せて、庭の大捜索が始まった。

 どうやら、うちの庭には珍しい薬草や希少種の植物が、わんさか自生しているらしい。


 (へえ、そんなの全然知らなかったなぁ)


 前世で本を読んで育った私は、つい好奇心が湧いて、ぺたんと座り込んでスマホを開く。

 もちろん、【インターネット】はちゃんと使える。

 ――異世界電波、万全。


 「薬草の育て方……薬草加工……あっ、これよさそう!」


 ネットショップを検索してみると、

 「簡単! 初心者でもできる薬草乾燥セット」が送料無料で売られていた。


 (しかも、支払いは異世界通貨でもOKって、すごいなこのシステム……)


 ポチッ。

 わずか数秒後、アイテム袋の中に小さな木箱が「ぽんっ」と転がり込む。


 「うわ~……やっぱ便利だなあ、これ……」


 私はしばらく木箱を愛でたあと、早速スプリングローズを丁寧に乾燥させる作業に取りかかった。


 ***


 そして数日後――。


 「うちの領地に、王都でも手に入らない薬草があるらしいぞ」

 「ラントベルク家、ちょっとすごくないか?」


 そんな噂が、王都まで届くようになった。


 もちろん、私は何もしていない。

 ただ、庭に生えてた花を摘んで、乾燥させただけだ。


 けれど、王都の貴族たちは浮き足立ち、商人たちはラントベルク領に興味津々。

 父はぽかんと口を開け、母は目を潤ませ、兄は「俺も何か探してくる!」と張り切り出し、姉は「エリシアはすごいわ~!」とほっぺたをむにむにしてくる。


 「えへへ~、えりーしあ、えらい~?」


 私は笑って、のんびりおやつのクッキーをかじった。


 こうして――。

 エリシア・フォン・ラントベルク、辺境伯家の次女は。


 のんびりスローライフを満喫しながら、

 こっそり異世界ざまぁ劇場の、幕を開けたのだった。


【第2章 辺境の田舎に、文明開化の風】



 ラントベルク領は、静かで豊かな田舎町だ。

 だけど、便利な生活――たとえば、簡単に水を汲める井戸や、火を起こしやすいかまど、農作業が楽になる道具なんかは、ほとんどなかった。


 (……ふむ)


 のんびりティータイムを楽しみながら、私はスマホで【ネットショップ】を眺めていた。


 「井戸ポンプ……あるじゃん」

 「かまど改良セット……安い」

 「農具一式……買っちゃえ」


 ポチポチポチ。

 指先が止まらない。


 アイテム袋に次々と収納される品々。

 支払いは、庭で摘んだ薬草をこっそり換金した小銭たちだ。経済的にも超エコ。


 ***


 「エリシア~、今日も元気そうねえ!」


 町の広場で、顔なじみの農夫のおじさんが声をかけてきた。

 私はにこにこと手を振った。


 (……せっかくだし、おじさんたちにプレゼントしようかな)


 ポン、とアイテム袋から取り出したのは、最新式の軽量スコップと魔力耐久のくわ

 さらに、井戸のそばにポンプ式の手押し機を設置してみた。


 「……え? これ、押すだけで水が出るのか!?」

 「すっ、すげえ! なんだこれ!!」


 村人たちは目を丸くして、大騒ぎになった。


 (えへへ~)


 私は満足してクッキーをかじった。


 ***


 ――数日後。


 「ラントベルク領、最近どうなってるんだ……?」

 「え? 水汲みが楽になった? 農作業が進化してる??」

 「ありえない、あの田舎者どもにそんな技術力があるわけが……!」


 王都の貴族たちが、ざわざわと騒ぎ始めた。


 それでも、ラントベルク家では、今日も平和そのもの。


 「エリシア~、最近、村の人たちがすごく喜んでるのよ!」

 母が、うれしそうに言う。


 「えへへ~、よかった~」

 私はふにゃっと笑った。


 今の私は、ただのんびり暮らしているだけ。

 たまにネットショッピングを楽しんで、

 アイテム袋から「便利なもの」をぽいぽい出しているだけ。


 (でも、せっかくだし……もっと楽しくしよっかな)


 新しい生活を、少しずつ、少しずつ。

 私は、自分なりにアップデートしていくのだった。


【第3章 ようこそ、のんびり辺境へ】



 ある日の朝、ラントベルク家に緊張が走った。


 「……王都から、使者がいらっしゃるそうです」


 執事のミカエルが、やけに深刻な顔で報告する。

 なんでも、最近のラントベルク領の噂――薬草の豊富さや、農業改革が耳に入り、様子を見に来ることになったらしい。


 (わあ……ついにバレた)


 私は紅茶をくるくるかき混ぜながら、他人事みたいに思った。


 「エリシア、あんまり外をうろうろしちゃだめよ? 失礼のないようにね」

 母が心配そうに言う。


 「はぁい~」


 私は元気よく返事をして、庭のブランコに座り込んだ。


 そして、その数時間後。


 「ふん、これが辺境伯家ですか」


 いかにも気取った若い騎士たちが、数名、門の前に立っていた。

 彼らは見るからに「田舎者を見下している」という態度を隠そうともしない。


 「おや、あそこにいるのは?」


 ブランコに座っていた私を見つけて、ひそひそと話し合っている。


 (あ~……嫌な感じ)


 でも、私はにっこり笑って手を振った。

 前世のソロ活女子スキル――「適当に受け流す力」は、今も健在だ。


 「こんにちは~。おにーさんたち、遠くからおつかれさま~」


 拍子抜けしたのか、使者たちはぽかんと私を見た。


 そのとき。


 「お嬢様、こちらでございます」


 私の後ろから、メイドのルナが現れた。

 手には、アイテム袋から取り出したばかりの、ふかふかの冷たいおしぼりと、爽やかなミントの入ったお茶。


 「長旅でお疲れでしょう。まずはこちらをどうぞ」


 ……異世界に、そんな気遣い文化、普通はない。


 使者たちは、またしても目を丸くした。


 「ど、どうも……」


 おずおずとおしぼりを受け取る彼ら。

 さらに、庭の向こうに目をやると、近代的な井戸ポンプや、きれいに整備された農園が見える。


 (これ、絶対『普通の田舎』じゃないって思ってるよね……)


 私はまたにこにこと笑いながら、クッキーをかじった。


 ***


 その夜。


 使者たちは、ラントベルク家のディナーに招かれた。

 豪華ではないけれど、素材の良さを生かした手料理の数々。

 なにより、家族みんなが温かく、楽しそうに笑い合っている。


 (うん、この家族、大好き)


 私は胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。


 使者たちは、帰る頃にはすっかりおとなしくなっていた。

 「……ラントベルク家は、ただの田舎者ではない」

 そんな言葉を残して。


 もちろん、彼らはまだ知らない。


 この家には、レベル∞(無限)のチート少女がいることを――。


【第4章 辺境伯家、料理革命とチート先生】



 王都から戻った使者たちは、何やら興奮気味に報告したらしい。


 「ラントベルク家は、ただの田舎者ではない」

 「不思議な技術と、豊かな生活力を持っている」


 その噂はあっという間に広まり――。


 結果。


 「ど、どうか弟子にしてくださいっ!」


 王都の若手貴族たちが、次々とラントベルク領を訪れることになった。


 広場では、礼儀正しくお辞儀をする少年たちがずらりと並んでいる。

 みんな高級そうな服に身を包み、キラキラとした瞳でこちらを見上げていた。


 (わ~……弟子志願、すごい人数……)


 私は、庭のテラスでスコーンをもぐもぐしながら、のんびりその光景を眺めていた。


 「エリシア様、彼らに何か教えていただけませんか?」


 執事のミカエルが、頭を下げる。

 家族みんながエリシア頼りにしていて、正直、ちょっと笑えてしまった。


 「ん~……じゃあ、まずはお料理かな~」


 私はにこっと笑いながら、スマホを開いた。


 ***


 【ネットショップ】で取り寄せた調味料や食材は、すでにアイテム袋に山ほどある。

 醤油、味噌、みりんにだしパック――。

 前世では当たり前だった日本の味が、この異世界では「革命的」だった。


 「今日は、特別に【カレーライス】を作りまーす!」


 私が高らかに宣言すると、若手貴族たちは「かれー……?」「なんだそれは?」とざわめいた。


 (ふふふ、驚くがよい……!)


 玉ねぎを炒めると、甘い香りが立ち上る。

 にんじん、じゃがいも、肉を加え、ぐつぐつ煮込んでいく。


 (仕上げは……市販のルー! 楽勝~)


 魔法のように簡単に完成するカレーライス。

 しかも、今回は副菜にサラダと味噌汁まで用意した。


 「さあ、召し上がれ~」


 私は笑顔で皿を並べた。


 若手貴族たちは、恐る恐るスプーンを手に取り――。


 「っ……!!」

 「う、うまい!!」

 「これが……これが文明の味か!!」


 目を見開き、夢中でカレーをかき込む貴族たち。

 彼らの心は、日本料理によって一瞬でわしづかみにされた。


 (うんうん、日本食は最強だよね~)


 私はまたクッキーをぽりぽりかじりながら、満足そうに空を仰いだ。


 ***


 こうして、ラントベルク領では。


 ◆ 魔法よりもすごい農具革命

 ◆ 食卓を彩る日本料理革命

 ◆ そして、のんびりマイペースなチート先生・エリシア


 ――が、静かに、しかし確実に進行していったのであった。


【第5章 王家の誘い、のんびり全力回避】



 ラントベルク領に、またもや大きな波が押し寄せてきた。


 「宰相様がお越しになります!」


 執事ミカエルが、目を見開いて叫ぶ。

 父も母も、兄も姉も、そわそわと屋敷中を走り回っていた。


 (……たいへんそうだなぁ)


 私は、庭の木陰でハーブティーを片手に読書中。

 そよ風に揺れる草の香りを楽しみながら、のんびりしていた。


 そして――その日、宰相閣下がやってきた。


 「ほう……ここが噂のラントベルク領か」


 厳かな声と共に、立派な髭をたくわえた壮年の男が現れた。

 品のあるローブに身を包み、その隣には、護衛と思しき騎士たちが控えている。


 (あ、偉そう……でも、怒ってはなさそう?)


 私はブランコに乗ったまま、のんびりと手を振った。


 「こんにちは~。ようこそ~」


 宰相閣下は、一瞬呆けた顔をしたあと、思わず吹き出した。


 「……これは、なるほど。噂通り、実に面白い娘だ」


 エリシア・フォン・ラントベルク。

 この異色の少女に、宰相は一気に興味を抱いたらしい。


 ***


 宰相は滞在中、エリシアが生み出した数々の「文明開化」に目を輝かせた。


 農業改革、生活インフラの整備、日本料理による健康改善……。

 「魔法ではない、現実的で堅実な発展」。

 それが、王都のどの魔術師よりも強烈なインパクトを与えた。


 そして数日後、ついに――。


 「エリシア嬢。王家より、正式に求婚の申し出がある」


 ドドン、と。


 立派な巻物を抱えた使者が、深々と頭を下げた。


 (……いやいやいや)


 私は紅茶を吹き出しそうになった。


 王家の第三王子が、ぜひエリシアを后に――という話らしい。

 理由はもちろん、ラントベルク家の急成長と、エリシア本人の存在そのもの。


 「でもわたし、まだちいさいし~」


 にこにこ笑いながら、私はお返事した。


 「それに、のんびり暮らしたいし~。ごはん食べて、おひるねして、おはなをみて……それがいちばん、しあわせ~」


 周囲の家族は冷や汗だらだら。

 宰相は豪快に笑い、使者たちは呆然と立ち尽くした。


 「……よい。それもまた、誠実な返答だ」


 宰相閣下は、にこやかにうなずいた。


 「王家は無理強いはしない。だが――また必要なときは、力を貸してくれたまえよ、エリシア嬢」


 「うん。ひまなときなら~」


 私はスコーンをもぐもぐしながら、無邪気に答えた。


 (よかった……これで、もうちょっとスローライフ満喫できる~)


 青い空を見上げながら、私はのんびりと笑った。


【第6章 スローライフ革命、始まります】



 辺境の地、ラントベルク領。

 もはやその呼び名は、時代遅れになりつつあった。


 エリシアが次々と導入した新技術――

 井戸ポンプ、農具、調理器具、そして日本料理に続き、今度は「現代家電」が世界を変えはじめた。


 ***


 「ほわぁ~……! これが冷蔵庫なの!?」


 町の食堂のおかみさんが、冷えたミルクを見て目を輝かせる。

 魔力を動力源にした冷蔵庫は、エリシア特製。

 夏でも食材が傷まず、飲み物がキンキンに冷えるのだ。


 「こっちは……なんだ? 魔法の箱か?」


 パン屋のおじさんが興味津々で覗き込んだのは、ピカピカのオーブンレンジ。

 ふわふわのパンもカリッとトーストも、一瞬で完成する。


 さらに――。


 「洗濯機に、掃除機……!!」


 領民たちは次々に歓声を上げた。

 重労働だった洗濯や掃除が、スイッチ一つで完了する。

 (魔力を流し込むだけなので、操作も超簡単)


 そして極めつけは――。


 「テレビ?」


 大広場に設置された大きな画面が、魔法のように光り出す。


 『本日のお知らせ~。ラントベルク図書館、オープンしました!』

 『新商品、ひんやり夏スイーツ、絶賛発売中!』


 明るい女性の声とともに、辺境伯家のニュースやCMが流れ始めた。


 (……あはは、通販番組みたいになってる)


 私はソファに寝転びながら、のんびりポテチをかじった。


 ***


 さらに、移動手段も革命的に進化していた。


 「これが……エリシア様特製の【魔力自動車】か……!」


 町の若者たちが憧れの眼差しを向ける。


 馬車よりも早く、軽く、しかも誰でも運転できる。

 魔力量に応じて、速度や耐久力も上がる優れものだ。


 長距離移動用には、特別製の【キャンピングカー】まで開発された。


 外から見ると、普通のちょっと大きな馬車サイズ。

 けれど、中に入ると――


 「わ、広っ!!!」

 「温泉まであるぞ!?!?」


 魔力量に応じて、内部がどこまでも広がる仕組みだった。

 快適なベッド、キッチン、ダイニング、ミニ図書館まで完備。

 前世でのソロキャンプ好き魂が、炸裂している。


 (これで、旅先でも快適スローライフ~)


 私はふにゃっと笑いながら、キャンピングカーのソファにごろりと転がった。


 ***


 ――そして。


 またもや王都では、緊急会議が開かれていた。


 「……なんだこれは」

 「ラントベルク領、もはや異次元ではないか!!」

 「キャンピングカーに、魔力自動車に、テレビだと!?」


 青ざめる貴族たち。

 その結果――


 「至急、視察団を派遣せよ!!!」


 またしても、ラントベルク領に使節団が押しかけてきたのだった。


 ***


 「エリシア様ぁぁぁ、今度こそ、正式に技術供与の契約を――!」


 「いや、わたし、のんびりしたいだけだから~」


 またもや、のんびり全力拒否。

 スコーンをもぐもぐしながら、エリシアはふわふわ微笑む。


 今日もラントベルク領は、のんびりマイペースに革命を続けていくのであった。


【第7章 スローライフ女王顧問、誕生(予定)】



 ラントベルク領の噂は、もはや王都中に鳴り響いていた。


 魔力自動車、冷蔵庫、テレビ……。

 さらに新たに導入されたのは――


 「なんて清潔なんだ……!」


 領民たちが驚愕する、洗浄付き水洗トイレ。


 「わああ、雨みたいに気持ちいい~!」


 子どもたちが歓声をあげる、魔力シャワーシステム。


 そして極めつけは――


 「まるで王族の浴場だ……!」


 と噂される、超巨大浴室。

 タイル張りでピカピカに磨かれた浴場に、湯気が立ち込め、温泉のように広がっていた。


 (おふろって、やっぱり癒しだよね~)


 エリシアは湯船にぷかぷか浮かびながら、のんびりと微笑んでいた。


 ***


 そんな中、王都では、さらなる動きが起きていた。


 「エリシア嬢を、女王顧問として正式に任命する!」


 女王陛下自ら、そう命じたのである。


 「しかし……彼女はまだ子ども、しかも辺境伯家の次女……」

 「そんなことは関係ない! 今この国に必要なのは彼女だ!」


 貴族たちはざわめき、執政官たちは頭を抱えた。

 しかし女王の決意は固かった。


 そして。


 「正式な依頼です、エリシア嬢」


 立派な服を着た使者たちが、深々と頭を下げた。


 (あ~……またか~)


 私は、庭でのんびりお昼寝中だったけど、ちょっとだけ起き上がった。


 「じゃあ~……ひとつ、じょうけんつける~」


 私が提示した条件は、ただひとつ。


 『スローライフの自由を、絶対に侵害しないこと』。


 「のんびりくらして~、おひるねして~、おふろに入って~、おやつ食べる~。それ、だいじ~」


 使者たちは顔を青くしたり、頭を抱えたりしていたけれど、最終的には了承した。

 (というか、承諾せざるを得なかった)


 こうして私は、**「スローライフ保障つき女王顧問」**という、前代未聞のポジションに就くことになった。


 ***


 そして、もうひとつの動き。


 新キャラクター、ライバル登場。


 「私は、ルディウス・フォン・ガルダネスト。王都第一魔導学院、主席卒業者だ!」


 高飛車な金髪の青年が、エリシアに宣戦布告してきた。

 彼は幼い頃から英才教育を受け、王都でも有名なエリートらしい。


 「貴様のやり方は、魔法文明を汚している! 私こそが真の指導者だ!」


 力強く言い放つルディウス。


 (あ~、なんかめんどくさそ~)


 エリシアは、もぐもぐとクッキーをかじりながら、ぼんやり彼を見ていた。


 「じゃあ~……この掃除機、かけられる~?」


 「なに? 掃除機? くだらない!」


 ルディウスは勢いよく掃除機のスイッチを押した。

 ――ボフン!!


 魔力量を調整できず、掃除機が暴走。彼は吹き飛ばされ、花壇に突っ込んだ。


 「……うう……」


 ボロボロのルディウス。


 「えらいね~、がんばったね~」

 エリシアは、ほっこり笑って彼の頭をなでた。


 (ま、敵にはならないかな~)


 のんびりスローライフを守りつつ、

 私はまた、少しだけ世界を変えていくのだった。


【第8章 スローライフ領地改革、大成功!】



 ラントベルク領は、ますますにぎやかになっていた。


 エリシアがふと思いつきで建てたのは――


 「ラントベルク学園!」


 子どもたちが楽しく学べる学校だった。


 読み書き、計算、歴史や地理に加え、

 エリシアがネットから引っ張ってきた「科学的な基礎知識」まで取り入れたカリキュラム。

 先生たちは、地元の賢い人々が集められた。


 「えりーしあさま、ありがとう!」


 元気な子どもたちに囲まれて、エリシアはふにゃっと笑った。


 (わたしは~、おやつ食べてるだけだけどね~)


 ***


 続いて建設されたのは――


 「ラントベルク総合医療センター!」


 魔法治療だけに頼らない、近代的な医療施設。

 エリシアがネットショップで仕入れた医療機器や、基本的な医療知識を元に、簡単な外科処置や看護体制も整えられた。


 「これで領民たちも、もっと安心して暮らせるな!」

 父も母も、嬉しそうに笑っている。


 (わたしは~、お昼寝したいけどね~)


 エリシアは、ハーブティーを飲みながらのんびりしていた。


 ***


 さらに――。


 「かんぱーい!!」


 大人たちの間では、「お酒文化」が大流行していた。


 生ビール、日本酒、ワイン、シャンパン、カクテル……。

 魔力冷却式の生ビールサーバーまで登場し、町の居酒屋は連日満席。


 「つまみ、追加~!」

 「はいよ、枝豆とフライドポテト、唐揚げも!」


 屋台では、きゅうりの一本漬けや、アツアツの唐揚げが飛ぶように売れていた。


 (……みんな、楽しそうでよかった~)


 エリシアは、クッキー片手に見守っていた。


 ***


 子どもたちには、広大な公園が作られた。


 ブランコ、滑り台、ジャングルジム、ターザンロープ……!

 日本式のカラフルで安全な遊具が揃い、いつも笑い声が絶えなかった。


 「わーい! エリシアさま、いっしょにあそぼー!」


 元気な声に誘われ、エリシアもたまにターザンロープに挑戦して、

 見事にぽてっと落ちたりしていた。


 (でも、たのしい~)


 ***


 領民たちのファッションにも変化が現れた。


 「この着物、素敵ねぇ……」

 「和服とドレスの融合みたいな服も流行ってるぞ!」


 着物風ワンピースや、モダンな袴スタイルなど、

 異世界にはなかった日本の伝統と西洋文化が絶妙に融合した、新たなファッション文化が生まれていた。


 ***


 そして、連絡手段もさらに進化。


 「スマートフォン? これ、魔道具なのか!?」


 領民たちは目を丸くした。

 エリシアが開発したのは、魔力通信式スマホ。


 通話も、メッセージも、地図もニュースも見られる便利なアイテム。

 村から村への連絡、商売のやり取りも一気にスムーズになった。


 (もう、文明国家っていうより……超快適スローライフ王国だよね~)


 エリシアはスマホで友達から届いた「今日遊ぼうね」メッセージを見て、

 にこにこと頷いた。


 ***


 こうして。


 エリシアの領地改革は、スローライフを最優先しながら、

 気がつけば異世界史に残る「大改革」と呼ばれることになっていった。


 本人は、今日も。


 「おひるねしたら~、おやつたべよ~」


 と、のんびりベッドにもぐりこんでいるだけだったのだけれど。


【第9章 世界が動き出す、スローライフの魔法】



 ラントベルク領――

 かつて田舎と呼ばれ、見下されていたこの土地は、今や異世界でもっとも注目される場所となっていた。


 ***


 「我が国と、ぜひ同盟を!」


 「貴国の技術を学ばせていただきたい!」


 周辺諸国の王族や使節たちが、次々とラントベルク領を訪れた。


 それもそのはず。

 ここには、冷蔵庫も洗濯機もシャワーもテレビもあり、

 魔力自動車が走り、スマホで連絡が取れる。

 そして、極めつけは――


 「……あれは、なんだ?」


 視察団のひとりが、丘の上を指差した。


 「新しい観光地、『ファンタジア・パーク』です!」


 そこには、夢のような光景が広がっていた。


 巨大なお城。

 空飛ぶ乗り物。

 ジェットコースター、メリーゴーランド、魔法ショー。

 カラフルなキャラクターたちが手を振りながら、子どもたちと戯れている。


 エリシアは、アイスクリーム片手に、のんびりパレードを眺めていた。


 「エリシア様、またしても革命的すぎます……!」


 執事ミカエルが涙ぐんでいたが、エリシアは「へへ~」と笑っているだけだった。


 ***


 さらに、年に一度の**「ラントベルク大祭」**も始まった。


 領地中から屋台が集まり、通りにはいい匂いが立ち込める。

 焼きそば、たこ焼き、フランクフルト、かき氷、チョコバナナ……!


 「わーい! たこやきー!」

 「かきごおりー!!」


 子どもたちも大人たちも、笑顔いっぱい。

 あちこちで大道芸や音楽ライブも開かれ、夜には花火が打ち上がった。


 「……きれい~」


 エリシアは、浴衣姿で屋台のリンゴ飴をかじりながら、夜空を見上げた。


 ***


 しかし――。


 「まずい……世界の勢力図が変わり始めている!」


 王都では、貴族たちが会議室で頭を抱えていた。


 ラントベルク領は、周辺諸国と次々に友好条約を結び、

 もはや一大経済・文化圏となりつつあったのだ。


 技術、文化、食料、交通網――。

 すべての中心が、ラントベルク領になりつつある。


 (でも、わたしは……べつに、えらくなりたいわけじゃないし~)


 エリシアはのんびりと、祭りの射的ゲームでクマのぬいぐるみを狙っていた。


 「当たったら~、おやつにしよ~」


 そんな調子で、今日も世界を変えていく。


 本人は、気づきもしないままに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ