第74録 知光石の呼び出し
ジョルジュから知光石が淡い光を放ったのは、エリスがロイトの所に滞在してから30日が過ぎた頃だった。
ロイトと一緒に棚の整理をしていたエリスは、懐が淡い青色に光っているのに気づいて石を取り出す。
「お、それは知光石じゃないか。珍しい物を持っているんだね」
「知り合いから頂いた物なんです。
でも、これが光っているということは……」
「うん、間違いなく困ったことが起こったんだね。
いやぁ、僕もガトーさんとお揃いのを持ってるからさー」
答えながら、ロイトは懐から手のひらサイズの赤い石を取り出した。
それを見たエリスは目を丸くする。
「色が違うんですね」
「そうみたいだね。僕も他の知光石を見るのは初めてだから。
もしかしたら大陸によって違うのかも。今度ガトーさんに聞こうかなー。
って、話そらしちゃったね。知り合いのところに行ってきたらどうかな?」
「はい。でも……」
申し訳なさそうに目を伏せるエリスを見て、ロイトは小さく微笑む。
「ああ、僕のことなら気にしなくていいよ。
こういう期間限定がちょこちょこ続くんだろうなー、とは思ってたし。
また戻ってくるなら手ぶらで行く?」
「いいんですか?」
「うん。エリスさえ良ければね。
用事が終わったら帰ってこないといけなくなるけど……」
「構いません。
お言葉に甘えて荷物は置いていきますね」
言い切ったエリスを見てロイトは一瞬目を見開くと、嬉しそうに頷いた。
「わかった。
それじゃあ、行っておいで!」
「あ……。
その前に着替えてきますね。汚すわけにはいきませんから」
「ちょっと気が早かったね……。うん、それがいいと思うよ」
エリスがグレーの作業着を見下ろして言う。
ロイトは先走ってしまったことが恥ずかしかったのか、目をそらして答えた。
エリスが部屋に戻ると、部屋の隅で佇んでいたベルゼブブが顔を上げる。
彼は普段、外を出歩きもせずにずっとここに閉じこもっていたのだった。
「この時間に戻ってくるなんて珍しいじゃねぇか。
まだ昼だぞ」
「ジョルジュさんから貰った知光石が光って……。
それで、着替えに来たの」
「フーン。なら、とっとと準備しろ。
オレ様は外で待っててやるからな」
ベルゼブブはつまらなそうに言い捨てると、すぐに退室した。
バタンと乱暴にドアが閉められたのを確認すると、エリスは着替えに取り掛かる。
仕上げにローブフード――紺と白、どちらを着ていくかに少し考え込む。
「白にしよう。ジョルジュさんから貰ったものだし」
エリスは素早くそれを羽織り、まだ淡く光っている知光石をポケットに入れるとドアを開けた。
「わっ!?」
危うくベルゼブブとぶつかりそうになりバランスを崩しかけたが、
どうにか踏みとどまる。
それからすぐにベルゼブブに抗議した。
「ドアのすぐそばで待たないでちょうだい!」
「お前が遅いのが悪いんだろうが。
アレキサンドルから呼ばれたってことは、何か起こるんだろ?
楽しみだ」
「戦いがあるとは限らないわよ」
「オレ様の興を削ぐなよ……。せっかく気分を上げてやろうとしているのに」
「少なくとも私には要らない」
エリスは呆れたように肩をすくめると、そのまま階段を降りてロイトの所へ戻った。
商品棚を整理している彼に声をかける。
「じゃあ、行ってきますね」
「うん。今度こそ行ってらっしゃい!
無事に帰ってくるんだよ――って使い魔君がいるから大丈夫かな?」
ロイトに視線を向けられて、ベルゼブブは短く鼻を鳴らした。
エリスはベルゼブブを軽く睨んでから、ロイトに向き直る。
「ロイトさんも、お気をつけて」
「ありがとう。と、いっても僕は基本店にいるからね。
危険はないとは思うけど」
ロイトが軽く右手を上げて手を振る。
エリスも小さく手を振り返すと、店を後にした。




