親って大概めんどくさい
俺の養父の名前は、ラッセル・アンダーソン。
おもしろ可笑しく退廃的に生きて死にたい、が口癖の残念な男だ。面白いか、そうでないか。それが全ての行動の尺度である。俺を拾ったのも、きっとそういう録でもない理由だろう。
養父とは言ってもまだ年若く、30代前半。俺が生まれた世界で言うところの東洋系であるじいちゃんの血が入っているため掘りは浅く、艶やかな黒髪。そして、俺を見る印象的な鮮血の瞳は常に愉悦の色を含んでいた。
「で、どうよ。お姫様との仲は上手くいってるのか?」
「るっせーな。どうだって良いだろう」
「くっく、なるほどな。まっ、精々楽しませてくれ、我が息子よ」
自宅の居間で、お茶を飲みながら親父は心底楽しくて堪らないというを笑みを漏らした。人の不幸を喜ぶ顔だった。良識というものをきっと溝にでも捨ててきたんだろう。今からでも遅くないので、是非とも溝漁りに勤しんで欲しい。というか、勤しめ。
「絶対次じいちゃんに会ったら、あることないこと言いふらしてやる」
「……止めろ、めんどくさい。父さんに話が行くと絶対お袋が出て来るだろが」
露骨に嫌そうな表情。
というのも親父の父親、俺の義理の祖父は俺のことをとても可愛がってくれている。ばあちゃんは常にそんなじいちゃんの味方だ。
そして、この親父が天敵と称して憚らないお方が何を隠そうばあちゃんなのだ。だから、じいちゃんさえこちら側に引き入れれば必然的にばあちゃんもついてくる。勝ったも同然なのである。
「ばあちゃん、めちゃ美人だろ。なんでそんなに嫌なんだよ」
「馬鹿。お前お袋の本当の恐ろしさを知らないからそんな悠長なことが言えるんだよ」
そう言って、顔をひそめる親父。
俺は顔を傾げる。ばあちゃんと言ったものの、外見はとても若々しい。それも親父を10代で生んだからだろう。年齢的には40代中頃だが、見た目は完全に20代。じいちゃんも東洋系なので若く見られがちだが、それでも一緒に並ぶとと親と子ぐらいに離れて見える。
「見てくれが良いのは認めるがな。お袋は父さんしか眼中にない。良いか、あれは惚れた腫れたなんて生易しいもんじゃないぜ。なんせ血が繋がった子どもの俺にだって、嫉妬するくらいだからな」
「……うへぇ」
確かにじいちゃんが俺を可愛がり甘やかす度に、ばあちゃんは何とも言えない表情で俺を見ていた。あれは嫉妬だったのか。子にも孫にも嫉妬するって、何それ怖い。どんだけ、じいちゃんのこと好きなの。
「父さんは普通なんだが、お袋はまじでヤバい。ほんと父さんは何でお袋みたいな、計りもぶっ壊れるくらい重い女と結婚したんだろう。疑問を禁じ得ない」
「あー、禁じ得ないかー。……えっ、まじ、そんなに?」
「そんなに、だ。俺の物心がついた頃から今に至るまで、四六時中父さんにべったりだぞ。父さんが仕事に行っている間は、この世の終わりみたいな顔して鬱々してるし。父さんが他の女と親しく話すもんなら、泣いてすがり付くし。お袋の中での優先順位は、1に父さん2に父さん、3、4がなくて、5に父さん」
「……全部じいちゃんじゃねぇか」
「まぁ、そういうこった。お袋の中で俺は、父さんの血が半分流れているので、他人よりも気には止めておくぐらいの認識だろうよ」
親父はしみじみ頷いた。
俺は思わずげんなりとした顔をした。呆れすぎて、逆に感心する。ばあちゃんって、本当に極端だな。
「精々、お前も重い女に気を付けろよ」
「いや、気を付けろも何も、その重い女を押し付けてきてんのアンタなんだけど……」
「知ってる。だが、そんなこと知るか!」
「何だと無責任だろ、このクソ親父!」
「うるせぇ、反論は認めんぞこのクソ息子!」
低レベルな口喧嘩が勃発。どちらかが倒れるまで、徹底抗戦の構え。負けません、勝つまでは!
「いい大人が何やってるんだい!」と、夕飯を作りに来た長年のお手伝いさんであるマーサに二人して頭をどつかれ、数分もせず戦いは終結した。
俺も親父も、マーサには頭が上がらない。
にしても、マーサは力士でも目指しているのだろうか。その恰幅の良さは、もう明らか横綱を目指しているよねっ! それから張り手は止めてください死んでしまいます。いや、死なないにしても、俺の脳細胞に致命的な痛手を与えたのは間違いない。
……戦いの結果はいつだって虚しい。
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ぬるっとがんばります。
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