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それは正しき行い

 

 夜が来た。


 俺は与えられた部屋の大きすぎるベットで寛ぐ。

 布団はふかふかだし、天蓋はあるしで言うことがないのに落ち着かない。俺には豪華過ぎるのだ。そういうところは、日本人なんだよな。質素でシンプルなものこそ至高だ。


 コンコンと、扉を叩く音がする。

 俺の答えを聞く前に、扉は開かれた。


 ダークブラウンの髪は下ろされ、ふんわりとウェーブして腰まで流れている。榛色の両眼は、真っ直ぐ俺を見詰めていた。


「……ジャネットか。こんな夜遅くにどうしたんだ?」


「もう、分かっている癖に!」


「言ってみただけだ。……突っ立ってないで、こっちに来い」


「はい、シェロさん」


 ジャネットは柔らかく微笑んで、俺の側まで歩いてくる。歩くごとに、大きく膨らんだ胸が上下に弾んだ。眼福である。いつもありがとうございます。


 ジャネットは俺の目の前に立つと、そのまま俺の膝に座る。俺は慌てずに、腰に手を回しぐっと身体を引き寄せる。それから擦るようにように、ジャネットの腹を撫でた。


「シェロさん、膝枕なんて酷いわ。私がいるのに見せつけてくるのだもの」


「別に見せつけている訳じゃないさ」


「……そうかしら」


 甘えるように、ジャネットはお腹を撫でる俺の手に自身の手を重ねた。仕事モードの時は俺のことをシェロ様と呼んでいちメイドとして接するが、プライベートはいつもこんな感じだ。シェロさんシェロさんと呼び、慕ってくれる。まったく二面性を持つ女は嫌いじゃないぜ。


「まぁ、そう言うな。今晩は可愛がってやるから、それで許してくれ」


「誤魔化しているでしょう。でも良いわ。誤魔化されてあげる」


「……お前は良い女だな」


「シェロさんは悪い男だわ」


「違いない」


 俺は笑って、ジャネットをベットに転がした。

 ジャネットは頬を赤く染めて、いじらしくこちらを見上げる。


「お嬢様に知られたら、きっと私たちのことを許してくれないわね」


「別に許されなくても良いよ。どう言われようと、俺はやりたい放題好きに生きるだけだ」


「……でもお嬢様はシェロさんのことを愛しているわ」


 その静かに諭すようなジャネットの言葉を聞いて、一瞬固まる。心臓が強く鼓動した。大きく息を吸い、自分を落ち着かせる。


「あいつはさ、ヒヨコなんだよ。初めて親しくした男が偶々俺だっただけなのに、まるで唯一の男みたいに刷り込まれている。世界は広くて、もっと良い男が沢山いるのに。……そんなの馬鹿みたいだろ?」


「……シェロさんは、お嬢様に幸せになって欲しいのね」


 ジャネットは淡く微笑んだ。

 その笑みを直視できなくて、顔を背ける。


「うるせー、悪いか?」


「いいえ……シェロさんは不器用だって改めて思っただけ」


「なんだよ、それ」


「そのままの意味よ。幼い頃から、私はずっと貴方を見てきたもの」


「そういうもんか」


「そういうものよ」


 俺はベットに上がって、ジャネットに覆い被さる。そっと、桃色の唇に口付けを落とした。


 今夜は長い夜になりそうだ。




 ***




 窓から差し込む光が瞼を擽る。


 うっすら目を開ける。

 ぼんやりとした視界でその光を追う。そうすると焦点が定まってくる。俺は屈伸をしてから、横で眠るジャネットを見た。


 あどけない表情。安心しきり、深く眠り込んでいる。それが可愛い。俺は思わず、ぐっとジャネットを引き寄せた。


 こうやって身体を繋ぐ関係になったのは、もう2年ほど前だ。勿論無理やりとかではない。俺は卑劣漢ではないつもりだ。無理やり、ダメ絶対! 


 掛け布団を捲ると大きな乳房がまろびでた。うん、よし。今日も良い眺めだ。いつもありがとうございます。

 満足いくまでそれを堪能して、ゆっくりと身体を起こした。それからジャネットに肩まで布団をかけ直してやる。


 ベットから抜け出して、机におかれた水を張ったボールで顔を洗う。それから布に水を浸して、身体を拭った。

 服を着ると、部屋を出た。


 廊下を歩く。


 上を仰ぐと中央が尖ったアーチ、高い位置に張り出した梁、アーチを平行に押し出した形状の天井が見える。それが先までずっと続いている。

 俺はこの天井が好きだ。永遠に見ていられる。

 暫く天井を見上げていると、後ろから足音が聞こえてきた。


「シェロ、おはよう」


 声を掛けられて、振り向く。


「……なんだ、アンか」


「うむ。私だシェロ」


 俺の声かけに深く頷いて、アンは微笑んだ。

 キラキラと輝くプラチナブロンドが眩しい。蒼穹の瞳が柔らかく見詰めてくる。


「ご機嫌は如何か?」


「……まぁ、ぼちぼちだな」


「そうか、なによりだ」


 そう言って側まで寄ってきて、そっと手を繋いだ。それがあまりにも自然な動作だったので、何も言えなかった。にぎにぎと確かめるように握られる。アンは嬉しそうに、繋いだ手を見詰めていた。


「いきなり、なんだよ」


「ふふっ、なんでもないよ。ただ手を繋ぎたいだけだ。駄目か?」


「……別に、好きにしろ」


「うん、好きにする」


 その純真な姿を見て、決まりが悪くなる。顔を出す罪悪感を胸に秘めて、目を伏せた。


 俺はそんなもの感じちゃいけない。後悔などしない。こいつは、もっと先に行ける女だ。俺みたいな奴に捕らわれて、空に羽ばたけないなんて、そんなの我慢できない。


 ぐっと、力を入れて手を握り返す。俺はいつかこの手を離さないといけない。それが正しい。



 ……それで、良いんだ。


 



 シェロがアンに対して素っ気ない理由。

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