第8話「揺れる大地と深き森の古代遺跡」
広場の中央に立ち、私は目を閉じて深く呼吸をする。
胃の底から湧き上がる莫大な魔力が、血液と共に全身を駆け巡るのを感じる。
頭の中に展開するのは、これまでの簡易的なログハウスとは次元の違う、強固で大規模な建築物の図面である。
4人が快適に暮らせる2階建ての居住空間、雨風を完全に凌ぐための石造りの深い基礎、そして島の周囲を見渡すことができる高さ10メートルを超える監視塔。
外壁は太い防虫処理を施した木材を複雑に組み合わせ、内部には螺旋状の階段を配置する。
建築士として培ってきた構造計算の知識が、魔法という媒体を通して現実の物理法則と結びついていく。
設計図の細部が脳内で完全に固定された瞬間、私は両手を地面に向けて強く突き出す。
体内で暴れ回っていた魔力が一気に解放され、両腕を通って大地へと注ぎ込まれる。
足元の地面が光の網目に覆われ、周囲の空気が急速に圧力を増していく。
鼓膜を圧迫するような低い音が響き渡り、土を割りながら巨大な石の基礎がせり上がってくる。
ルミナ、ドリス、ミアの3人が、あまりの光の強さに腕で顔を覆って後退する。
石の土台の上に光の柱が立ち並び、それが一瞬にして太い木材へと実体化していく。
壁が組み上がり、床が張られ、2階部分が形成され、最後に鋭角な屋根が空に向かって伸びていく。
監視塔の頂上に風見鶏の意匠が形作られた時、放出されていた光の粒子が弾けるように霧散する。
そこには、周囲のジャングルの緑と対比をなす、壮大で堅牢な真新しい拠点がそびえ立っていた。
「タクト、これは。まるでお城みたいだよ」
ミアが目を輝かせながら駆け寄り、石の基礎を手で撫でる。
ドリスは開いた口が塞がらないといった様子で、監視塔の高さを首を痛めるほど見上げている。
「釘1本使わずに、この規模の建物を一瞬で。あんたの魔法は、神の御業に片足を突っ込んでいるぞ」
私も自身の生み出した建築物を見上げ、深い満足感と共に息を吐き出そうとした。
しかし、その安堵は次の瞬間に訪れた異変によって完全に断ち切られる。
空気が不自然に冷たくなり、風が完全に止んだ。
周囲の森で鳴いていた虫の音が一斉に鳴り止み、不気味な静寂が島を包み込む。
露天風呂の方から、チャプ、と水面が揺れる音が聞こえたかと思うと、足元の地面が小刻みに振動を始める。
地震とは違う、何かが一定のリズムで重い質量を大地に叩きつけているような規則的な揺れである。
私は本能的な危機感を覚え、腰のナイフの柄に手をかける。
「何か来る。武器を持て」
私の短い警告に、ルミナは即座に弓を構えて矢を番え、ドリスは真新しい鋼のハンマーを両手で握り締める。
ミアは耳を完全に伏せ、背中の毛を逆立てて森の奥の方向を睨みつけている。
地響きは次第に大きくなり、やがて森の木々が不自然に左右に押し退けられるのが見える。
太い幹がへし折れる乾いた音が連続して響き、私たちの視界を遮っていた緑の天蓋が強引に引き裂かれる。
姿を現したのは、高さ15メートルはあろうかという、岩と土で構成された人型の巨像であった。
表面には長い年月を思わせる苔がびっしりと生え、関節の隙間からは青白い光の線が脈打つように漏れ出ている。
頭部にあたる部分には眼の代わりに1本の太い光の筋が走っており、それがゆっくりと私たちの新しい拠点に向かって焦点の固定を行う。
巨像の内部から、金属同士がこすれ合うような甲高い音が鳴り響き、周囲の空気が熱を帯びて歪む。
「ゴーレムか。故郷の文献で読んだことがあるが、まさか実在するとは」
ルミナの声には、隠しきれない緊張が混じっている。
「島の魔脈を刺激しすぎたのかもしれない。私の大規模な創造魔法が、あの古代の防衛機構を目覚めさせてしまったんだ」
私がそう分析すると、巨像は太い岩の腕を高く振り上げ、拠点に向けて重い一歩を踏み出す。
足が地面に叩きつけられるたびに、内臓を揺さぶるような衝撃波が周囲に伝播する。
「原因が何であれ、あんなデカブツにこの新しい家を壊させるわけにはいかないだろう」
ドリスがハンマーを肩に担ぎ直し、口角を上げて獰猛に笑う。
ミアも姿勢を低くし、鋭い爪を立てて飛びかかる準備を整えている。
私の創造魔法が生み出したこの平和な生活空間を、理不尽な暴力に奪われるわけにはいかない。
私は脳内の設計図を切り替え、迎撃のための巨大な兵器の構造を瞬時に組み上げ始める。
巨像の青白い光が赤く変色し、攻撃の意志を明確にして突進を開始した。




