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過労死建築士の無人島サバイバル!創造魔法と極上キャンプ飯でエルフも獣人も胃袋ごとオトして最強の楽園を造ります  作者: 黒崎 隼人


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第12話「星降る食卓と約束の黄金果実タルト」

 太陽が西の水平線に溶け落ち、空は深い藍色からベルベットのような黒へとその色を変え始めている。

 無数の星々が瞬き始め、森からは夜行性の虫たちの涼やかな音が重なり合って聞こえてくる。

 広場の中央に組まれた焚き火が、パチパチと火の粉を散らしながら4人の顔をオレンジ色に照らし出している。

 先ほどの巨大パエリアで胃は十分に満たされているが、この祝宴を完璧に締めくくるためには、甘い余韻が必要不可欠である。

 私は充実した魔力を体内で練り上げ、焚き火の横の空間に両手をかざす。

 光の粒子が砂埃のように舞い上がり、瞬く間に耐火性の高い石英を敷き詰めたドーム状のオーブンが具現化する。

 魔力を使ったのはこれだけではない。

 私たちの新しい拠点の周囲を囲うように、微かな光を放つ防壁の結界を敷き巡らせている。

 これで、どれほど巨大な魔物が接近しようとも、私たちが眠る時間を邪魔されることは2度とない。

 オーブンの内部で薪を燃やして温度を上げている間、私はミアが森の奥で見つけてきた黄金色の果実を手に取る。

 桃に似た形状だが、皮は薄く、指で押すと内側から濃厚な果汁が滲み出してくるほどに熟している。

 ナイフの先端を使って皮を丁寧に剥くと、周囲の空気が甘く芳醇な香りで満たされる。

 果肉を均等な厚さに切り分け、木のボウルに入れて蜂蜜と数滴の果汁でマリネしておく。

 次に、猪の脂を冷やして固めたものと、以前見つけて粉末にしておいた木の実を混ぜ合わせる。

 手のひらの熱で脂が溶けすぎないよう、指先だけで素早くすり合わせ、少量の水を加えて生地をひとまとめにする。

 滑らかになった生地を平らな石板の上に薄く広げ、指で縁を波打つように形作ってタルトの土台を作る。

 その上に、マリネしておいた黄金色の果実を花びらのように隙間なく並べていく。

 オーブンの内部が十分な熱を蓄えたのを確認し、灰を端に寄せて中央にタルトの乗った石板を滑り込ませる。

 入り口を石で塞ぎ、あとは内部の熱が生地を焼き上げ、果実の甘みを凝縮させるのを待つだけである。

 ルミナは膝を抱えて焚き火の揺らめきを見つめ、ドリスは自慢のハンマーを横に置いて胡座をかいている。

 ミアは私の隣にぴったりと身を寄せ、オーブンから漂ってくる甘い匂いに鼻をヒクヒクとさせている。

 時間が経つにつれ、生地が焼ける香ばしい匂いと、果実の糖分が熱されてカラメル状に変化する匂いが混ざり合う。

 それは、サバイバル生活の中では決して嗅ぐことのできない、平和と豊かさの象徴のような香りであった。

 私は分厚い布で手を覆い、オーブンの蓋を開けて石板を取り出す。

 熱気と共に姿を現したタルトは、土台が美しいキツネ色に焼き上がり、果実の表面は沸騰する果汁で艶やかに光り輝いている。

 ナイフで4等分に切り分けると、サクッという小気味良い音が静かな夜の広場に響く。

 木の葉で作った即席の皿にタルトを乗せ、小川の水を沸かして淹れた野草茶のカップと共に3人に配る。


「熱いから、少し冷ましてから食べてくれ」


 私の言葉を待たず、ミアがタルトの端にそっと噛み付く。

 熱さに一瞬目を白黒させるが、すぐにその表情がとろけるような笑顔へと変わる。


「私、甘い。外側はサクサクなのに、中の果物はお口の中で溶けちゃうよ」


 ルミナは木の匙で小さく切り分け、上品に口へと運ぶ。

 彼女の尖った耳が満足げに下がり、瞳が潤んでいるのが焚き火の光でわかる。


「果実の酸味が蜂蜜の甘さを引き立てていて、全くくどさがない。野草茶のほろ苦さが、口の中を爽やかに洗い流してくれる」


 ドリスはタルトを手づかみで口に放り込み、熱いお茶で一気に流し込んでいる。


「こんな繊細な菓子、王都の貴族だって食えやしないぞ。タクト、あんたの手は本当に魔法そのものだ」


 私も自分の分のタルトを口に運ぶ。

 生地の香ばしいバターのような風味と、果実の熱い甘みが舌の上で溶け合い、戦闘の緊張で張り詰めていた神経を完全に解きほぐしていく。

 温かい野草茶が喉を通り抜けると、体の芯から深い安堵感が湧き上がってくる。

 全員が食べ終え、手元のカップから立ち上る湯気を見つめながら、広場には静かで温かい時間が流れる。

 ルミナがふと顔を上げ、夜空に広がる天の川を見上げる。


「私は故郷を追われ、海を漂い、絶望の中でこの島に流れ着いた。でも今は、あの過酷な運命に感謝している。あなたたちのいるこの場所が、私の新しい故郷だ」


 ドリスが力強く頷き、ルミナの華奢な肩を軽く叩く。


「アタシもだ。船が沈んだ時は終わったと思ったが、ここで最高の仲間と最高の仕事を見つけた。アタシの金槌は、一生この拠点を守るために振るうと決めた」


 ミアは私の腕に両手でしがみつき、頭を私の肩にすり寄せる。


「私、ずっと一人で寂しかった。でも今は、毎日美味しいご飯があってみんながいる。ここから絶対に離れないよ」


 3人の言葉は、夜の冷たい空気を溶かすほどの熱を帯びていた。

 私はカップを地面に置き、3人の顔を順番に見つめ返す。

 過労で命を落とし、孤独にこの島で目覚めた私が、今こうして誰かと温かい食卓を囲んでいる。

 創造魔法の力だけでなく、彼女たちの存在そのものが、私の心を支え、生きる活力を与えてくれている。


「明日からは、本棟の内部の家具作りを始めよう。ベッドも、椅子も、最高の素材で私が設計する。この島を、私たちだけの永遠の楽園にするために」


 私の言葉に、3人が同時に満面の笑みを浮かべる。

 焚き火の炎がパチリと爆ぜ、夜空の流れ星が1本の光の筋を描いて消えていく。

 肩を寄せ合い、波の音と森の息吹に包まれながら、私たちはこの温かい時間が永遠に続くことを確信していた。

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