最後の試練。
神殿の中も魔物でいっぱいだった。
私たちはそれを退けながら、ひたすらに中を進んでいく。
こういったことも、もう何度目だろう。
神殿の攻略もこれで最後と思うと少しだけ名残惜しい。
「ここで最後の試練を受けたら、いよいよ決戦なんですよね。私、緊張してきました」
「きっと大丈夫。アリスも強くなってるし。みんなもいるし」
「そうですよね。って、今は最後の試練のことに集中しなくちゃです!」
アリスはそう言って、自分の頬をパチパチと叩いている。
そう。もうすぐ魔物との決戦が始まる。それを終わらせて、世界に広がる悲しみを止めなければ。
でも、そういえば魔物っていったいなんなんだろうか。
この世界には昔から当たり前のようにいて、誰もそれは分からない。
もしその存在がゲームの設定だけで生まれたものならば、なんて悲しい生き物なんだろう……。
でも、だからといって戦うことを止める訳にはいかない。
これまで戦ってきた人たちの苦労、そして犠牲を無駄にしないために。
「ふははは! よく来たな人間どもよ!」
試練の扉の前には、ボスキャラが待ち構えていた。
目の前の魔物は珍しく喋っている。魔物の中には高い知性がある者もいるのだが、こいつはそのタイプだ。
このボスは魔王の側近で、直々にここを守っている。
それほど聖女の力を警戒しているのだろう。なんせ聖女は、魔王に対抗できる唯一の存在なのだから。
そしてこの後、このボスとの会話シーンがあるのだが……。
「聖女と言えども所詮は子供。魔王様より授かりし、我の強大な魔力の――」
風魔法<エヴァーサイクロン>
私は風の最強魔法で、呑気に口を動かしているボスを吹き飛ばした。
ボスは風の魔力に切り刻まれて、あっけなく体を崩壊させていく。
風に紛れてボスの断末魔が聞こえる。
大丈夫。お前のセリフは憶えているから。
「えっと……、ラグナさん」
戸惑うアリスに向かって、私は親指を立てながら頷いた。
「じゃあ……、行ってきますね……」
アリスはそう言うと、肩を少し落としながら扉の向こうへ歩いて行った。
なんだかいつもよりリラックスできている気がする。これが最後の試練なので頑張ってほしい。
「うん。頑張って!」
試練と言っても、アリスはもう聖女としては十分に成長してると私は思う。
もうここに来る前に、試練なんて越えているも同然だ。
私はそう信じて、扉の前で彼女の帰りを待った。
* * * * *
神殿を出ると、周りにいた魔物たちはいなくなっていた。
「思ったより早かったな」
キャンプの準備をしながら、ヴァンが私たちに向けて言った。
周囲の景色はもう暗い。夜の雪山を歩くのは危ないので、このままここで夜を明かすということらしい。
それにしても、ヴァンが普通に話してくれるようになって嬉しい。
トゲトゲした感じはまだ残っているが、以前のように圧倒的な敵意は感じない。
みんなで一緒に火を囲む。
寒いからか、人と人との距離が少し近く感じた。
「聞くまでもないだろうが、聖女の試練はうまくいったのか?」
「はい! これもみなさんのおかげです」
ヴァンとアリス。この二人のルートもあったんだよなあ。
むしろそれが王道。それでアメリアが悪役令嬢としてストーリーに絡んで……。
私の知っている内容とは、だいぶ違ってしまった。
でもこうして振り返ると、これでよかったような気がする。
取り返しのつかないこともあるけれど、でも私にはきっとこのルートしか選べなかっただろう。
「みなさん。あれ……」
アメリアの声につられて空を見上げると、そこには星の海が広がっていた。
澄んだ冷たい空気が、鮮やかな星の光を目に届けてくれる。
どこまでも広がる星空。
この中のどれかに、私の元いた世界があったりするのだろうか。
「なんだか遠いところまで来ちゃいましたね」
隣に座るアリスが、しんみりした様子で言う。
確かに、学園に入学してから色んなことがあった。色んなところに行った。色んなことを経験した。
ゆっくりとした時間が流れていく中で、次々と思い出のようなものが浮かんでくる。
「いやいやいや。まだ終わりじゃないし。まだもうちょっとあるから。そういうのは全部終わってからで」
「そうですね。早く終わらせてのんびりしましょう」
淹れてもらったお茶を口に含むと、頬のあたりがじんわりと温かい。
さて。体が冷える前に、明日の下山に備えて寝ますかね。
私たちはそれぞれのテントに入った。




