戦い続けてきた国。
壁の向こう側は何やら物々しかった。冷たい空気が流れているためか、辺りの雰囲気はピンと張り詰めている。
至る所に鎧を纏った兵士がいて、ここが魔物との戦いの最前線であることを実感させられた。
並んだ家々はどこも傷ついておらず、壁の中まで魔物の侵攻が及んでいないことが分かる。
兵士のレベルも、他の国の人たちと比べるとだいぶ高そうだ。
いよいよ決戦感が出てきた。
私の喉は真面目な空気に圧され、ゴクリと低い音を鳴らした。
「まずは王宮へ向かおう。俺たちのことは伝わっているはずだ」
ヴェルオール王国の王子であるヴァンを先頭にして、私たちは中心にある宮殿へと向かった。
なんか灰色が多いな。私は歩きながらそんなことを考えていた。
この国の建物はしっかりとした作りで整っているのだが、どこか重苦しい威圧感がある。
「ヴェルオール王国の方々、こちらへどうぞ」
私たちは、兵士に連れられて王宮の中を歩く。
冷たい床の上に、カツカツと足音だけが高く響いた。
なんだろうこの雰囲気……。
水の国の城内は華やかだった。雷の国の城内は荒れていた。この国の城内は緊張感が満ちていた。
「長旅ご苦労だったな。ようこそヒューネインへ」
長く伸ばした髭を動かしながら目の前の男性が言った。
きっとこの人が王様なのだろう。
しかしなんだろうこの感じ。気難しそうというかなんというか。それにかなり強そうだ。
さすが最前線の武力国家。王様からしても高レベルなのか。
「ヒューネイン王よ。我々は聖女の術を得るためにここまで来ました。それが封印されし場所をお教え願いたい」
「君がヴェルオールの王子か。なるほど、父によく似ている。ふむ……。聖女の術が封印されし場所か。教えてもいいが、そこへは勝手に行ってもらうことになる。あそこはもう放置された場所だ」
「なっ!?」
信じられない言葉に、部隊のみんなが驚きの声を上げた。
「それはどういうことですか!?」
「我が国は聖女の伝説を信じておらん。いつ現れるとも知れない存在にすがることはせず、我々は自分たちの力を高めたのだ。たった一人の存在で、この長い魔物との戦が終わる。そんな夢物語なぞありはしない。我が国はそうして、この最前線で長年戦い続けてきたのだ」
鋭い瞳の王は、それを当たり前のことのように言う。いるのかいないのか分からない。そんな曖昧な存在にはすがらない。
それはとても現実的で、国を治めていく上できっと正しいのだが……。
「聖女は……、アリスは今ここにいます。私たちは彼女と一緒に、この戦いを終わらせるために来たんです!」
私は思わず声を荒げてしまった。
だってアリスが軽く見られたみたいで、なんだか納得できなかったのだ。
「ほう。本当にこの長きにわたる戦いを終わらせられると。何十年、何百年と続くこの戦いを。そのか弱そうな少女が、たった一人で」
そんな私の言葉を、王様は咎めることなく冷静に返してきた。
こ、怖い。でも、私の役目は……。
「彼女だけではありません。私たちが、終わらせます!」
「なるほど。君たちのような学生が、前線で戦い続けてきた我が国の兵士たちよりも強いと」
えええ。どうしてそんな話になるのだ?
私はただ、聖女の力を認めてもらいたいだけなのに。
「はい! 自分一人でもここにいる人たちよりは――」
「おい、ラグナ!」
ヴァンが私の制止しようとするがもう遅い。
語彙力がなく言葉の駆け引きも出来ない私は、買い言葉のように思わず口を動かしてしまった。
「なるほど。ならば見せてもらおう」
王の口が僅かに緩んだ。
この流れは、まさか……。
「ここにいる兵士たち。それをヌシ一人で倒して見せよ」
あああ。始まってしまった。力試しイベントだ。
しかもゲームには無かった展開。また私のせいで、始まっちゃいました?
武器を構えた兵士たちが、私を一斉に取り囲む。
「術師よ。被害が外に出ないように障壁を張れ」
王の命令で、四方に位置していた魔法使いが杖を構えた。
「ラグナさん!」
アリスが心配そうに私を見ている。
そうだ。それなら――。
「大丈夫。アリスは光魔法で障壁をお願いします」
「は、はい」
光魔法<ブリリアントヴェール>
みんなの前に光の膜が現れた。それは優しく柔らかく、その場をふわりと包み込む。
その様子を見たみんなは、驚きの表情でその光景を眺めていた。
「これが聖女の技か。なるほど。だがそれだけでは戦いは終わらせられぬ」
そんなに力がみたいのか。だったら見せてやる。
私は両の拳に魔力を込めた。




