白雪を踏みしめながら。
「やっと正気に戻ったか」
苛立った様子でヴァンが言った。
それはまるで、私が正気じゃなかったかのようだ。
「みんな、集まってもらってすまない。私たちの次の行動が決まった」
私たちを集めたミラが言った。
学園の生徒会室。数人の生徒がその場に集められている。
「次に向かうのは、氷の国ヒューネイン。そこで聖女アリスには、最後の試練を受けてもらう。そしてそのまま準備が整い次第、魔物との決戦の地である魔王城へと向かう」
「我々だけでですか?」
ミラの側近のクライヴが驚くように言う。
不安になるのも無理はない。学生だけで魔物の本拠地に赴くなど、常識で考えたらあり得ない。
だが、それに突っ込んでしまったら物語が進まない。これはそういう設定なのだ。
「いや。今回の戦いは魔物との決戦だ。すべての力を集結させて戦いに挑む。まず聖女を伴った部隊は先行して氷の国に向かうが、他の部隊も他国へ協力を要請しながら合流することとなっている」
なるほど。最終決戦の裏側には、そんな背景もあったのか。
それで氷の国に先行するのが、今この場にいる人たち。今回は早さが重要とのことで、人数は八人に絞られていた。
「私たちは大切な仲間を失った。その悲しみはまだ癒えていない。だが、これ以上の悲しみを増やさないため、仲間たちの犠牲を無駄にしないため、みんなでこの戦いを終わらせよう」
悲しみを増やさない。そうだその通り。あんな思いはもう御免だ。
そしてあんな思いを、もう他の誰にもしてほしくない。
「最後の試練……。私、頑張ります」
アリスの表情も引き締まっている。
「ああ。期待している」
ミラが順にみんなの顔を見回す。
それぞれが真剣な様子で、彼女の視線に頷いた。
* * * * *
わあー。雪景色、綺麗だなあ。
なんて思っていたのは最初だけだった。
寒い。寒すぎる。なんでこんな寒い中を歩いてるんだろう。
もう帰りたい。誰だ? こんな所に来るように仕向けたのは。
私たちは最後の聖女の術を求めて、氷の国に向かっていた。
物語ももう終わりが近い。ゲームで終盤に近付くと、雪国に行くことが多いのはなんでだろう。
「ラグナ! だらしないぞ!」
モコモコ装備の私を見て、ヴァンが不機嫌そうに言った。
彼は驚くほど薄着で、見ているこっちが寒くなる。それでも少しの震えも見せない彼は、さすが火属性のキャラクターだ。
雪はただ真っ白で、後ろには私たちの足跡だけしかない。
魔物も寒いのは苦手なのか、襲ってくる頻度は少なかった。
「雪って食べると美味しいんでしょうか?」
真面目な顔でアリスが言う。まるで発想が子供だ。
「腹壊しますよ」
そんなやり取りをしながらも、私たちは順調に氷の国への道のりを進んでいた。
漫画とかならこの後吹雪に巻き込まれて、そして遭難……。なんてことになりそうだが、どうかそうならないことを祈るばかりだ。
「わあ。晴れてきましたよ」
私の考えとは反対に、重い雲の隙間から太陽の光が降りてきた。
柔らかな雪の粒に、光が反射してチラチラと瞬く。その景色はすごく幻想的だ。
この世界にやってきてから、私は色んな景色を眺めた。
それは前世で見ることなんて絶対に出来なかったような、とても壮大で美しい景色ばかりだった。
「あれ、もしかして……」
そう言ったアリスの指先を見る。その向こうには石の壁が、視界の果てまで建ち並んでいた。
その壁は相当に高く、向こう側がまったく見えない。だがきっと、あれが――。
「着いたぞー!!」
部隊のみんなが叫びながら駆け出した。
そう。きっとあそこが氷の国、ヒューネイン。
あそこでは暖かい部屋、暖かいご飯、暖かいベッドが私を待っている。
あまり待たせてはいけない。だからさっさと向かおう。
寒さに負けず、私たちは歩幅を広げる。
ゴールが見えれば自然と元気が沸いてくるものだ。
「ほわー」
壁の近くまで来た私は、間抜けな声を出してしまった。
下から見上げると、思った以上にその壁は高い。さすが城塞国家と呼ばれるだけのことはある。
氷の国は、他の国と比べて魔物の領地から近い位置にあった。
そのためこの国は戦いの最前線であり、特に守りに秀でていることで有名だ。
この壁なんかも、なんかすごい巨人とかが来ても簡単には突破できないだろう。
「あんたたち、もしかしてヴェルオール王国の学生か?」
城壁の隙間から、兵士らしき人が顔を出した。
「はい! そうです!」
クライブはこの部隊のリーダーとして、頭上の兵士に向かって声を張り上げた。
生徒会長であるミラが後続の指揮をとるため、今回はその側近である彼にリーダーを託されたのだ。
重そうな低い音をたてて、石造りの門がゆっくりと開く。
私たちはそこから、氷の国へと足を踏み入れた。




