暴走した王子を追って。
先の方で、戦いをしているかのような音が聞こえてくる。
きっとヴァンだ。私はそこに向かって速度を上げた。
「くそお!!」
彼の声だ。
間違いない。間違えるはずがない!
黄金の髪が激しく揺れている。
その周りには、複数の魔物たちが囲んでいた。
ヴァンの体が傷ついている。
体中にダメージを追った彼は、今にも倒れてしまいそうだ。
私の中で、何かが大きく爆発した。
風魔法<エアリアルレイン>
魔物に群れに向かって、全力で風の魔力を撃ちこむ。
撃ち抜かれた魔物は、その存在も残さないよう跡形もなく消し飛んだ。
「き……、貴様……」
私の存在に気付いたヴァンがこちらを睨む。
だがそこには、先日のような強い勢いがなかった。
ヴァンは力が抜けたようで、その手から剣がこぼれ落ちる。
それと同時に、膝から体を地面へ落とした。
「ヴァン王子!」
近寄った私を、彼は憎しみがこもった手で振り払う。
「どうして来た! なぜ貴様が……。俺一人でもやれたんだ! やれたんだ……」
私は何も言えなかった。
以前アメリアから聞いた話。ヴァンは聖女のそばで戦う勇者になりたかったのだ……。
私への敵意が強いのもそのせい。……のはず。
できれば彼の望みを叶えたいが、私だってアリスのそばを離れることはできない。
二人で一緒に聖女を守るために戦えたらいいのに。
「くっ!」
ヴァンが傷を押さえて苦しんでいる。
いけない。彼は相当なダメージを負っているんだ。
風魔法<エアードヒール>
風の魔力で彼の体を包む。
急いで彼の怪我を治さなければ。
「お前……、回復魔法も使えたのか……。くそ! 余計なことをするな!」
「動かないで! 聖女の回復魔法ほどではないですが、これで動けるぐらいには回復します」
「なぜだ。なぜ私を助ける。私はお前に……。お前は、なぜ」
「だって……」
あなたが推しキャラだからなんて言えない。
「なんでって、理由なんてないですよ。困ってる人がいたら助ける。それが身近な人なら尚更です」
うまい理由も思いつかず、私はどこかで聞いたようなセリフで誤魔化した。自分はそんな善人でもないのに。
そうして私は、彼に向かって魔力を流し続けた。
「よかった。戻ったか。二人とも怪我はないか?」
ミラが、安心した様子で私たちを迎えた。
「大丈夫です。ヴァン王子は、少し休ませてあげてください」
無言の彼に変わって、私はそう答えた。
「ヴァン王子!」
力の抜けた彼を、アメリアが寄り添いながら連れていく。
ひとまずこれで一安心だ。
「それで、どういう状況だった?」
「あ、はい。複数の敵に囲まれてしまっていて。でも、なんとか撃退できました」
「そうか。すまない。手間をかけた」
ミラはそう言って、申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、全然です。私は彼を追いかけたぐらいで」
「それだけではないだろう。君のそういう所、私は嫌いではないが、彼にとっては……。いや、いい。私が言うことではないな」
ミラはその後、口をつぐんだ。
彼とはヴァンのことだろう。いったい彼と、どうやって付き合って行けばいいのか。
男同士だったら簡単なのだろうか。いや、私は男ではあるのだが……。
「では部隊を進めよう。ラグナ君。私たちはアリス君たちの所に戻るぞ」
ぼんやりとしている私を、ミラが優しく引っ張る。
そして部隊は、目的の地に向けてゆっくりを進みだした。
ぼんやりと、こちらに向かって手を振っているアリスの姿が見えた。
「あの、大丈夫でしたか?」
「ああ。問題ない。ラグナ君がなんとかしてくれた」
「よかったです」
アリスは安心したように、大げさに息を吐いた。
「出てくる敵の種類がだいぶ変わってきた。気を抜かずに行こう」
ミラはそう言って、他のパーティーの所に歩いて行った。
今の言葉を他の人たちにも伝えに行くのだろう。
「水の国まであとどれくらいなんでしょう?」
「けっこう歩きましたからね。半分は過ぎているといいですけど」
アリスとの会話にホッとする。
さっきまでの重い気持ちが、少しだけ晴れてきた気がした。
「目的地までは、あと三日といったところだろう」
私たちのパーティーメンバーの一人、生徒会長のお供であるクライヴが言った。
最近ただのモブキャラではなくなってきた彼だが、中々に博識で色んなことを私たちに教えてくれる。
彼は戦闘でも役に立っていた。いつも槍を持って先頭に立ってくれる。レベルも十分に高い。
さすが生徒会長ミラの傍にいるだけのことはある。
「もうすぐですね。私ほかの国に行った事ないので楽しみです」
アリスは特に楽しそうな笑顔を見せる。
もしかして、気を使って励ましてくれているのだろうか。




