お約束。最後は落とし穴。
鋭い爪が振り下ろされる。
それを跳んでかわすと、地面がかつお節のようにするりと削られた。切れ味が良すぎて、爪とぎに苦労しそうだ。
「全員で広く囲むんだ!」
ミラの指示に従って、私たちはボスを取り囲んだ。
敵の攻撃をうまくよけながら、徐々に距離を縮めていく。
「牙と爪に気をつければ大丈夫だ! いくぞ!」
モブキャラの一人がそう叫ぶと、皆が一斉にボスに攻撃を仕掛ける。
あ、まずい。
お尻のあたりでゆらゆら揺れていた尻尾が、いくつにも分かれて鋭く硬化した。
それは飛びかかった人たちに向かって、素早く真っすぐに伸びていく。
風魔法<エアリアルレイン>
私は魔法を使って、枝分かれした尻尾の先を撃ち落とした。
あれはボスの特殊攻撃だ。ゲームではパーティーキャラの全員にダメージを与えてくる。
「今です!」
尻尾にダメージを受けて、ボスは苦しんでいる。
その隙を付いて、私は叫んだ。
「よし! 全員で攻撃するんだ!」
ミラとモブキャラたちは、それぞれの武器で一斉にボスを攻撃した。
切り付けられ、刺され、殴打され、魔法を受けて、絶え間ない攻撃に、ボスは見る見るうちに弱っていく。
やはり、ミラの攻撃のダメージが一番大きそうだ。
ミラの剣が額を貫く。ボスは一際大きく吠えた後、その巨体を地面に投げ出した。
「よっしゃああ!」
「やったああああ!」
「やってやったぜええ!」
皆それぞれに勝どきをあげた。
野太い声がフロアの中に響く。みんな体育会系だなあ。
「助かったよ。君のおかげだ」
ミラは剣を収めると、涼しい顔でこちらにやって来た。
「いえいえ。ミラさんたちの方がすごかったですよお。止めの一撃とかかっこよかったです!」
「おだてるな。君が攻撃を防いでくれなければ危なかった」
あの時はみんな無防備で、危なかったのは確かだ。でも全滅するほどではなかっただろう。
「それにしても、どうして君はこれ程の力を隠すんだ? 今のも全然本気ではなかっただろう」
「いやあ。それには色々と訳がありまして。先人の教えというか、それがテンプレというか……」
よくよく考えると、そこまで頑なに隠さなくてもいい気がしてきた。
でも今さらだしなあ。変に注目されるのも慣れてないし。
「よく分からないが、君が隠したいというのなら何も言うまい。彼らにも黙っておくように伝えておく」
「あ、ありがとうございます」
ミラさん。不思議な人だけど、いい人だよな。まさに生徒会長って感じのキャラクターだ。
ゲームでは、女性キャラのイベントがほとんど無かったから知らなかった。
「さて、目的も果たしたことだし帰ろうか」
満足そうな顔でミラが言った。
こんな時、ダンジョンから一瞬で帰れるアイテムがあればなあ。
ゲームにあったアイテムが、この世界にはあったりなかったり。どういう違いがあるのかは、未だ謎だ。
私たちは、元来た道を歩く。
ミラは大量のドロップアイテムに気分が良いようで、ホクホクした顔をしている。無表情に見える彼女の感情が、なんとなく分かるようになってきた。
「ん? あれは……」
ミラが指さした方を見ると、岩の陰で何かがキラリと光った。
あれは、銀スライムだ。
普通のスライムよりレアな鋼スライム。さらにそれよりもレアなスライムで、中々見ることはない。
「今日はやはり運がいいな。あいつもついでに狩ってやろう」
ミラはご機嫌にスライムの方へ走り出した。
なんだかテンションが上がっている。彼女にはこんな一面もあったのか。でも……。
スライムは、ミラの攻撃をひらりひらりと素早くかわす。
銀スライムは素早さが高いため、中々攻撃が当たらないのだ。
「くっ! このお!」
ミラはムキになってスライムを追いかけ始めた。どんどん帰りの道を外れていく。
「ちょっとミラさん。待ってください」
私の声も、ミラの耳には届かない。彼女はどんどん奥へ行ってしまった。
後ろを見ると、ミラお付きのモブキャラたちはぐったりしている。流石にダンジョン攻略で疲れているのだろう。
私は一人、ミラを追って走り出した。
このまま奥へ行ってしまうと面倒なことになる。
「見ろ! 仕留めてみせたぞ!」
行き止まりの壁付近で、ミラが誇らしげな様子で立っている。
あああ。その場所は……。
「ミラさん! すぐこっちに来てください!」
「どうしたんだ? それよりも、ほら」
ミラがドロップアイテムを拾おうとした瞬間、地面に大きくヒビが入った。
「なっ!?」
ひび割れた床が、音を立てて崩れだす。
そう。この場所は落下トラップのある場所なのだ。
「ミラさん!」
差し出した手が、ミラの腕を掴む。
これはだめだ。
私の所の足場まで崩落は進み、二人そろって穴の中に落ちてしまった。




