異世界定番のお土産ってなんだろう
その日、私はザラとのお茶会に来ていた。
暖かい日差しに包まれたサンルームでザラ、花の妖精、私、私にくっついている精霊、そしてリヒト。
月虹草を採りに行ったあとからザラとは定期的にお茶会で会っているが、なぜかリヒトも度々私とザラのお茶会に顔を出している。
「というわけなので、来月のお茶会はもしかしたら行けないかもしれないです」
「会えないのは寂しいのよぅ」
花の妖精がふわふわの精霊をクッション代わりにしてお茶と共に用意されたアーモンドが香ばしいサクサクのクッキーを食べながら言う。
「残念だけど仕方ないわ。でもそうね、帰ってきたら教えてちょうだいね」
ザラは少し残念そうに言った。そしたら私達のやり取りを聞いていたリヒトがポツリと呟く。
「愛し子の作ったダンジョンか。私も行きたいな」
「お兄様!?」
「リヒト!?」
いやいやいや。一国の王子が珍しいものみたさで往復十日の旅とか駄目でしょう。最低三日は滞在予定だよ?それにこうしてお茶会に顔を出しに来てるけど、休憩と称して公務を中断して来てるの知ってるんだからね。後ろの文官さんが涙目だよ!
そんなような事を並べ立て必死で説得すると、なんとか殿下を諦めさせることができた。
「あーあ。私は留守番かー」
留守番もなにも元々予定にないから!
「仕方がないから土産話にでも期待しておくよ」
そう言って席を立つと、残りの公務を片付けてくるとリヒトは退室した。
「お兄様ったらもう。それにしてもアサコはディラン様と二人旅なのね」
確かに二人旅だ。お父様とお母様も心配はしてたけど止められなかったし、お兄様には止められたけど未婚の令嬢がって言ってたけど、そもそも社交界デビューしてないし、エーデルラント侯爵家の令嬢は病気がちで一年のほとんどをベッドの上で過ごしてる。ってことになってるから私の顔は貴族には知られてない。
それに、ディランは強いから危険はそんなにないと思う。私も自分の身を護る位なら出来るようになったし!
「ディランがいるんだからよっぽどの事はないよ」
「もう、そういう意味じゃありませんのよ」
何を期待してるのかは何となく分かるけど、無い無い。確かにディランはカッコいいけど、私への対応は近所の子供とか妹とか同業兼、飲み仲間みたいなもん。
だから、間違ってもそーゆーことにはならない。
「しばらくタルタル亭のご飯が食べられないのだけが残念だなあー」
なにか考え事をしているザラは放っといて、旅のことを考える。そう、最低でも十三日はタルタル亭のご飯が食べられない。まだ他所の街はよく知らないが、ラングスタール内で日本食に近いものが食べられるのはタルタル亭しかなかった。
食の開発も微妙に中途半端なのよね。マヨネーズや醤油、味噌はある。マヨネーズはそこそこ浸透してるけど、醤油や味噌はあまり流通してなくて、使い方を知ってる人も少ない感じ。
それでも味噌や醤油をいちから作った人がいることのほうがすごいよね。
そういうの私無いし。普通のOLだったし。
「あら、そういえばルコの街に珍しい料理があるって聞いたわ。ホノルに行くなら寄ってみたらどうかしら」
珍しい料理かー。ゲテモノとかじゃなければ楽しみだなー。でも昆虫食とかだったらちょっとハードルが高いなぁ。うぅん、気になるから行くとき寄れないかディランに聞いてみよっと。
「ありがとう。気になるから寄ってみるね」
「お土産持ってきてくれてもいいのよぅ?」
花の妖精に土産を要求された。人の食べ物は妖精や精霊にとっては嗜好品らしい。気にいるものがあるかはわからないけど、日持ちするもので良さそうなものがあったら買ってこよう。
「いいものがあったらね」
「絶対なのよぅ」
言うだけ言ったら妖精は精霊の柔らかそうな毛を引っ張ったり撫でたりして遊びだした。嫌がってる様子はないけど、痛くないのかなアレ。
その後は、お茶を飲みながら好きなお菓子の話になって、気がついたらお開きの時間になってた。
「じゃあ、そろそろお暇するね」
「絶対、絶対お土産もってくるのよぅ!」
花の妖精が目の前まで飛んできて力強く訴える。これは忘れたら大変なことになりそう。
「次はアサコが帰ってからまた会いましょう。気をつけて行ってきてね。お土産、期待してるわ」
ザラまで土産。つまり土産は忘れてはならないらしい。ちゃんと覚えとかないと、と心に留め置いて帰宅した。
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