起きたら突然、なんてあることなんだよ
ディランが写して持ってきたものは、暗号でも何でもない日本語で書かれたものだった。ダンジョンを作ったのは過去の愛し子で間違いないような気がする。
なんとも力の抜ける文面を眺め、ディランにヒントでもなんでもないものだと伝えるとちょっとがっかりしたような顔をしていた。
「とりあえず、そのダンジョン行ってみない? 行けばなにかわかるかもだし」
「・・・・そうだな。暗号だと思って無駄な解読に当てる期間もいらなくなりそうだしな」
・・・・この文面にどれだけの時間を使ったんだろう。ディランの目が遠くを見ている。
件のダンジョンがあるのはディティリエ王国の端の方、隣国との境目付近にあるホノルという村の近く。ここからのんびりと行くと五日程の距離。
「結構遠いね」
「依頼で行くわけじゃねえからなー。趣味みてえなもんだし無理に急ぐ必要もねえだろ」
ちょっとした旅行みたいだ。
「そうだな、準備含めて一ヶ月後に出発でどうだ?」
少し長い期間留守にすることになるから、ザラにお茶会出来ないかもしれないって伝えておかないとかな。
「うん、わかった。じゃあそれで」
ダンジョン攻略の日程が決まり、持ち物の確認を済ませると、今から依頼を受けるのもちょっと、という時間になってて、せっかく時間があるからと小さめの魔獣の狩りの仕方をディランに教わった。
今までは、罠を仕掛けて掛ってたら良しだったが、魔獣、特にハーブラビットが狩れるようになればアサコの冒険者生活が更に潤うのである。
ふっふっふ。タルタル亭に持ってけばゴッズが調理してくれるもんね。ハーブラビットはほんのり香草の匂いがついててエールよりもワインによく合うんだよね!
すっかり常連客となったアサコは以前、採取依頼中に木になってるレンコンに似た実を見つけてギルドの納品カウンターで聞いてみたら、食べられると言われゴッズに頼み込んだところ、まんまレンコンのはさみ揚げが出てきたのである。
それ以来、時々食材を持っては店に行き料理してもらっている。
ゴッズも最初はアサコの勢いに押されて始めたことだったが、アサコが美味しい、美味しいと食べているのを見て満更でもない顔をしている。アサコが色々と食材を持ち込むもんだから、タルタル亭のメニューは以前よりかなり増えた。
半日程かけたがハーブラビットは見つけられず、リトルボアという、イノシシを小さくして角を生やしたような魔獣がいただけだった。
リトルボアの肉は食べれないことはないが、筋張っていて獣臭が強いためあまり食用には向かず、角を薬にイノシシと違い柔らかい皮は小物に仕立てるのが主な用途だ。
初めてのときは血抜きをする際のナイフの生々しい感触に慄いたが、獲物の解体ももうお手の物である。
解体を済ませ、部位毎に袋に詰める。ギルドの納品カウンターに持ってけば依頼を受けてなくてもこういった素材の買い取りをしてくれる。
「そろそろ良い時間だし戻るか」
ディランのその言葉に周りを見ると辺りは夕焼けに染まっていた。
「ホントだ。じゃあギルドに寄ったあと、タルタル亭っで一杯やろー」
「仕事終わりの一杯じゃあ止められねえな。遅くならねえ程度に帰るぞ」
タルタル亭行きが決まり、足取り軽く普段よりも速いスピードで街まで帰り、それほど混んでなかった納品カウンターでリトルボアを買い取ってもらった。
「今日も一日お疲れさまー!」
タルタル亭でキンキンに冷えたエールを一気に呷る。
ゴッズのチョイスで出してもらった、クラウドビーンをニンニクと塩で炒めて粉チーズを振ったものをつまみ、またエールを喉に流し込む。塩気のきいた豆と冷えたエールが外で動き回った身体に染みる。
「んんー幸せー」
「アサコは酒とうまい飯があれば毎日幸せじゃねえか?」
「一番大事なことだよ!生きてるうちに食べられるものなんて限られてるんだから美味しいもの食べないと!」
一仕事終えたあとのエールは格別美味しい。仕事して自分の力で稼いで食べる美味しいお酒と料理。一緒に飲んだり食べたりしてくれるディランに、屋敷に帰れば優しい両親も兄もステアもいる。
最初はわけもわからずこの世界に来て諦めようとしたけど、今はそんなネガティブな受け入れ方じゃなくて。好きな事ばかりしてて凄く充実してる。今は自分も自分の周りの人達も胸を張って大好きだと言える。
「起きたら突然何も食べるものがない場所にいたりしたら後悔してもしきれないでしょ?」
「アサコが言うと説得力があるな」
真顔で言うもんだからつい、可笑しくなってケラケラと笑う。
場の雰囲気もあり何もかもが全て楽しく感じてついつい酒も進み、
「おっちゃん! エールお代わり!」
結局一、二杯で終わることはなく、ディランは陽気な酔っぱらいを屋敷に送り届けることになった。
ブクマ、評価ありがとうございます。




