なんだか懐かしいのが出てきたぞ
「おっちゃん! エールお代わり!」
採取依頼を受けて納品の終わった私は一人と精霊一匹でタルタル亭に来ていた。
「おいおい嬢ちゃん飲み過ぎんなよ? あんま飲ませると俺が後でディランに怒られちまう」
「大丈夫、大丈夫。それにここの料理が美味しすぎるが悪い!」
私がこっちの世界に来て早いことに二年が経った。私は相変わらずエーデルラント侯爵家にいるが、この二年後の間、基本的な令嬢教育を終わらせ、ディランに教わりながら冒険者として地道に活動したり、お兄様との魔法の練習で基本四属性である火、水、土、風属性の初級魔法が使えるようになった。
え? 成長が遅いって? これでもすっごく大変だったんだよ。火を出すことは出来てもそれを投げることは全く出来なかったんだからね。大丈夫。ちゃんと少しずつ成長してる。
何にせよ、地道な活動のかいあって三ヶ月位前に冒険者の位が銀に上がった。一年ほど前からは採取系の依頼は一人で受けるようになって、収入もそこそこ得られるようになった。
「な~にが大丈夫だって?」
「ヒェッ」
チャームフィッシュの唐揚げをつまみに機嫌よく飲んでいたら後ろから聞き慣れた声がし、振り向くとディランがいた。
「何杯目だ?」
「さ、三杯目。あれえー? 今日は討伐依頼じゃなかったの? 早いね」
「探すのに時間がかかると思ったら運良く見つけるのが早かったからな。この時間ならここにいると思った」
ディランは同じテーブルについて、エールとボイルしたリトルクラーケンの和え物を頼んだ。
「どうせまだ飲むんだろ? 少し付き合え」
そう言って出されたリトルクラーケンの和え物を一口分小皿に分けて置いた。それを見た精霊は小皿に突進していき、食べ始める。
ザラと花の妖精とのお茶会を重ねてわかったことは、精霊にお世話はいらない。自然からエネルギーを摂取するから食事も必要ないんだけど、試しに一度与えてみたら気に入ったみたいでいまでは一緒に食べている。それを聞いたディランもこうして小皿に入れて分けてくれるようになった。
結局、エールを五杯程飲んだところでディランからストップがかかって屋敷まで送ってもらった。
一人のときは二、三杯でやめるけどディランがいると帰り送ってくれるからついつい飲んじゃうんだよね。
冒険者として独り立ちしてからは、ディランとは朝ギルドで会って午後はこうしてタイミングが合うときに一緒に飲んだりしている。
令嬢教育やこの世界について学ぶ時間がなくなって冒険者活動に当てる時間が増えたから、もしかしたら独り立ち前より会う頻度は増えたかもしれない。
私を屋敷へ送り届けたディランは帰り際、切り出した。
「アサコも銀に上がったことだし、もう一端の冒険者だろ。どうだ? 俺と組んで例のダンジョン行ってみねえか」
例のダンジョン。あれか! ディランと最初に会ったとき言ってた愛し子のダンジョンか。
「返事は気が乗っ」
「滅茶苦茶行きたい!」
ディランの服を掴んで食い気味で返事をする。今の私はお酒が入って陽気で元気になってるのだ。
あれ、なんかディラン仰け反ってる? ま、いっか。
「お、おう。とりあえず詳しい話はまた今度しよう。今日は早めに寝ろよ」
「ん。おやすみー」
家についたと思ったらなんだか急に眠くなってきた私は部屋へ行くとステアにお世話されるがままになって、そのまま眠りについた。
翌朝、酔も残らずスッキリと目覚めた私は、冒険者ギルドへと向かった。相変わらず精霊も私にくっついている。花の妖精と一緒で魔力が心地いいんだって。
冒険者ギルドに入ると、掲示板の所にディランを見つけ声をかけた。
「おはよう、ディラン」
私に気がつくと、おはようと挨拶を返してくれた。
「昨日の話なんだけど、いつ行くの?」
「昨日、結構酔ってただろ。よく覚えてたな。覚えてないと思ってもう一回誘おうと思ってたところだ」
さすがに記憶が飛ぶほどは飲まないよ。ディランさんや、君は私のことをなんだと思ってるんだい。
なんて、ほぼ自業自得だけどね。
ここで話すのも良くないってことで半個室になってるカフェへと向かった。
「実は俺は目的のダンジョンに一度行ったことがある」
「ほう」
行ったことあるんだ。ディランのことだし色々試しても扉が開かなくて帰ったとかそんなんかな?
「一階層すら突破できなかった」
なんと。白金冒険者様が突破できないとか無理ゲーでは?
「正確に言えば、次の階層へ行くための扉が開けられなかった。変な暗号があってな。多分文字だと思うんだが、アサコならわかるんじゃねえかと思って」
私ならわかるとな?
「どんなの?」
「紙に写してきてる。これだ」
そう言って、一枚の紙を私に手渡した。
『おーす! みらいの いとしご きみはいま!
ダンジョン への いっぽを ふみだした!』
ちょっ、これボールに入るモンスターのゲームのセリフ!!
ブクマ、評価ありがとうございます。




