第13話 からかい上手
店内のお客さんが一気に減ったのか、さっきまで全く動かなかった行列が徐々に動き出す。
自然と歩きながら話す格好になるが、さほどの問題はない。
元々俺が想像していたのは落ち着いてゆっくり話ができる店内なので、立ち話か歩き話かなんて、あってないような違いだ。
「私が始めて優真に出会ったのは中3の夏休み。大きな大会が迫っててね、午前の部活が終わった後も自主練としてランニングしてたんだ。いつも通りのコースを走っていたら、ある公園を通り抜ける時、優真が必死で……ふふふ」
「何だよ、急に笑って」
「ごめんごめん。何度思い返しても、あの出会いは衝撃だったなって。だって真夏の公園で全身びっしょりと汗を掻きながら、スコップで地面を掘ってるんだぜ? 思わず走るの止めて、何してるんだって聞きたくなる……ふふっ」
一度は耐えたものの、話すことで再び脳内にイメージしてしまったのか、黒崎がまた愉快に笑いだす。
面白いっていうか、奇妙さが勝つだろ。
砂遊びガチ勢にしても、スコップを持ち出して、公園の地面を掘るなんてことはしないはずだ。
大昔の宝物でも掘り起こして、一獲千金を狙ってたのか?
中学3年生がやることじゃない気がする、てか普通そんなことやらない。
「ひたすら地面を掘る優真に声を掛けたんだけどね、驚くほど全く反応しないの。無視すんなって思って肩を掴んだ。物理的な接触なら流石に気づくだろうって」
こんな感じ、って呟いた黒崎が、俺の肩を強めに掴む。
思わずビクッと身体を振るわせてしまい、それを見て黒崎がまた楽しそうに笑う。
「普通、いきなり掴まれたら今みたいに何かしら反応するだろ? でも、優真はこれでも何も反応しなかったんだ。ただ夢中でスコップを動かして穴を掘ってた」
「どんだけ集中してんだよ。穴を掘る悪魔にでも憑りつかれたんじゃないか? それか単純に頭がおかしくなったか」
「凄いな優真、正解だ」
「えっ、マジで? 嘘だろおい……」
悪魔に憑りつかれたなんて冗談だったのに、まさか本当に?
それで、俺の憑りついた悪魔をエスパーの力を持つ黒崎が退治したみたいな?
その場合、俺が黒崎に惚れちゃいそうだけど、どうなんだろう。
「何かめっちゃ考え込んでるけど、正解ってのは悪魔の方じゃないからな。最後に言った方だよ。頭がおかしくなったって方」
「あーそっちね……まあ、も、もちろん知ってたけど」
「流石に高校生にもなって悪魔はないよねえ」
うっ……何気ない言葉が胸に刺さる。
流石に、ってのがダメージを増幅させる。
どうせ、俺は中二病を高2まで持ち込んだ痛いやつですよーだ。
「今度は勝手に落ち込んでるし、どうした優真」
「いや、何でもない。話を続けてくれ」
「それならいいけど。で、どこまで話したったっけ。優真がぶっ倒れたってとこまで?」
「いやそれ聞いてないんだけど! 何、俺ぶっ倒れたの!?」
「肩を掴んだ手を離した瞬間にバターンと。そりゃもう派手にぶっ倒れてたよ」
大丈夫なのかそれ。
周りの声が聞こえなくなって、触れられても反応しないレベルって相当重度の症状だろ。
話を聞いた限りだと、多分熱中症だな……日差し防止と、水分補給くらいしろよ中3の俺。
「その後どうしたんだ? 流石に放置してランニング再開するわけないよな」
「私を何だと思ってるんだ。もちろん急いで救急車を呼ぼうとしたさ」
「呼ぼうと……した?」
「うん、呼ぼうとした」
「それってつまり……」
「結局、呼べなかったんだよねえ……テヘペロっ!」
テヘッと笑って、ペロッとベロを出しても誤魔化せないぞ黒崎。
可愛い……可愛いけども!
その状況で救急車呼べないって相当やばいでしょ。
たかが熱中症、されど熱中症。
重度のものなら命に関わる可能性のあるんだから。
聞こうじゃないか、この一大事に救急車を呼ばなかった理由を!
「いやー、ランニング中は重荷になる余計なもの身に付けたくないし、スマホとか財布とか置いていくんだよね」
「俺の携帯を使うって手は?」
「もちろん試した。充電切れって出てきたときは流石に焦ったね」
それなら仕方がなさすぎるな。
うん、正当な理由だし、何より可愛いから許しちゃう。
それによく考えたら、そもそも黒崎が見つけてくれなかったら、ぽっくり逝ってた可能性あるのか。
熱中症になるまで何の対策もせずに穴を掘り続け、携帯は充電切れ。
ごめん、黒崎……俺が全面的に悪うございました……。
「周りに誰も居なかったし、とりあえず持ってきてたタオルで全身の汗を拭いたり、水道で頭を冷やしたり、その場でできることをしたんだ」
いや、本当にごめん。
その場で完璧な対応をしてくれた黒崎さんに、あろうことか文句を付けようとした俺をお許しください……。
「全部大変だったけど、やっぱり水を飲ませるのが一番難しかったなー」
「いちいち手で救って運ばないといけないもんな。途中で漏れる可能性もあるし……」
「だろ? そこで私は天才的な閃きで水を一気に飲ませる方法を思いついたんだ。どんなやり方かわかる?」
軽く首を傾げる黒崎。
聞き方的に「どんなやり方かわかる? どうせわからないと思うけど」ってニュアンスに聞こえる。
天才なのが自分だけと思うなかれ。
絶対に当ててやろうじゃないか。
「水筒を持ってきてた」
「重いからランニングには持ってかない」
「ペットボトルを拾って使った」
「衛生面的に危ないっしょ」
「なら、自販機でペットボトルを――」
「だから財布も持ってかないって」
ダメだ、さっぱりわからん。
その場の状況が何もわからないから、予想する範囲も限られてしまう。
「このままじゃ当たらなそうだし、大ヒントあげよっか? その代わり、次が最後の回答で、当てられ無かったらアイスは優真の奢りね。もし当てられたら、何でも1つ言う事聞いてあげる」
「くっ……最初からそのつもりで問題出したな!?」
「さー? それはどうかなー?」
何という白々しさ。
十中八九、俺が当てられないことを見越して質問してきただろ。
そして、俺を焚きつけたとこで奢りを賭けたヒントをチラつかせる。
列に並ぶ前にメニュー表見たけど、1つ4桁普通にしてたぞ……。
まだ銀行にどのくらいお金が入ってるか確認していないし、財布の中身的に奢りは避けたい。
でも、仮に俺が当てたら……。
「あれー? 優真、もしかしてヒント出してもわからないかもって思ってる? まあ確かにこの問題は難しすぎるかもしれないけどー」
おいおい、黒崎。
そんなガキみたいな挑発に乗るやつがいるわけ……。
「いいだろう。次で絶対に当ててやる!」
「賭け成立だね。ヒントはここだよ、ここ」
「ここって……ええっ!?」
俺を馬鹿にしたような感じで言った黒崎が、人差し指を唇に重ねる。
静かに、を表すシーっのポーズ。
どう考えても口を強調している。
つまりそれって……。
「口移しってこと!?」
「ぶっぶーー! 答えは、優真の口に直接水道の水を流し込む、でしたー!」
黒崎が満面の笑みで大きく両手でバツ印を作る。
「その時、私たちはまだ初対面だよ? 口移しなんてするわけないじゃん?」
やられた……。
冷静に考えたら、いくら非常事態でも瀕死でない限り、異性相手に口移しなんてするわけがない。
それなのに、少女漫画のような甘々展開を考えてしまったのは、競技場で走ってた時は無かったはずのキラキラと光り輝く真っ赤なルージュが俺の脳内を占領したからだ。
「まあ……今なら喜んでするけど、ね?」
「はっ!? それってどういう……」
「あー、でも間接キスも恥ずかしがっちゃう優真には無理かなー」
ニヤリ、と俺を小馬鹿にした笑みからは、黒崎がどこまで本気で言っているのかイマイチ掴めない。
まったく黒崎は、俺をからかうのが大好きだな……。
からかわれるこっちの身にもなってほしい。
ピュアピュアな俺は、毎回無駄にドキッとしてしまうんだから。
謎の熱が身体の内側から溢れ、真っ赤になってしまうのが自分でもわかる。
からかわれる度にそうだ。
恥ずかしさからか、全身が火照ってしまう。
「あっついな……」
あっ、今、言葉に出すつもりなかったのに。
周りを見ると暑いというより、寧ろ涼しそう。
さっきまでは日差しが強くて、日傘を差す人がいるくらい暑かったけど、18時を過ぎた今は夏の太陽を大きな雲が隠して、地上は影で覆われている。
また黒崎に「何? 真に受けて恥ずかしがってるの?」ってからかわれそうだ……。
「そうだね、めちゃくちゃ暑い。流石夏って感じ」
「えっ?」
黒崎も……?
今は本当は涼しいくらいじゃ……。
「優真、アイス奢り忘れんなよ!」
黒崎の眩しい笑顔は薄っすらと赤く染まっていた。
第13話を最後まで読んでくださった皆様ありがとうございます!
作者の木本真夜は、三度の飯より感想が好きなので、どんなに些細なことでも書いて貰えると嬉しいです。
また、この作品を少しでも面白いと感じて下さった方は、是非ブクマ、評価をよろしくお願いします。




