第12話 エリー
俺がタイムリミットギリギリの30分でパンケーキを平らげらた後、休む暇もなく繁華街を歩かされ、これまたポップでキュートな外見の店に着いた。
そして、そのまま目的の店を通り過ぎ、100人は並んでいそうな行列の最後尾につく。
「一応確認するけど、本当にこの列に並ぶの?」
「そうだよ。見た感じ20分ってところかな?」
「女子って、本当は食べてる時間より並んでる時間の方が長いんじゃ……」
「もしかしたら、食べる時間よりも写真を撮る時間の方が長いかもね。私はその辺興味ないけど」
こればっかりは女の子になってみないと分からないな。
スイーツを食べるために並んだり、高いお金を払うまではまだわかる。
その時間や高いお金がスイーツの味ではなく、ビジュアルに対して払われている気がしてならない。
そこが野郎の俺には理解が出来ない部分だ。
いや、それもっと安くて美味しいのあるぞ? ってなっちゃう。
まあ、そんなことをデート中の女の子の前で言えるはずがない。
仮に言ったら、後から聞いた青宮が猛烈にダメ出ししてきそうだ。
ここはトリセツのお世話にならないように、グッと言いたいことを喉元で押さえるのが正解だ。
その代わり、他のことは遠慮なく言わせてもらおう。
「黒崎さん? 俺の耳が正常なら、さっき今度こそゆっくりできる場所に行くって言ってた気がするんだけど?」
「言ったよ? ほら、ゆっくりできるじゃん」
「えっ……? まさか、ゆっくりできるって待ち時間のこと!?」
「もちろんそうでしょ。一番暇なこの時間に話さないでいつ話すのさ」
そんな自信満々に言われても……。
こっちはカフェを想定してたのに、まさか店内ですらないとはね。
しかも今並んでる場所、アイスクリーム専門店とか書いてあった。
なんでも自由なトッピングとデコレーションでカメラ映えするとか。
ただでさえ、チョコとイチゴの甘々ソースとふわっふわのスポンジにお腹がいっぱいなのに、ここからアイスはキツ過ぎる。
黒崎が半分残したのはこのためか。
糖質制限とか少しでも思った俺の気持ちを返せ。
食べる気満々じゃないか。
「もう食べきれない分を俺に押し付けるのは無しだぞ」
「大丈夫大丈夫。今日はもう遅いし、ここで最後だから」
若干言葉足らずだが、最後だから後を考えて残すことは無いという事のはず。
確かに携帯の時計を見ると18時前だし、ここからスイーツを更に食べることは無いだろう。
というか、この時間にアイスを食べるのも俺的にはナンセンスなんだけど。
「全然列が進んでる気がしないし、もうここでいいや。黒崎が知っている範囲で約束について教えてくれ」
「了解ー。結論だけ簡潔に言うと、小学校6年の1年間だけ日本に来ていた女の子がアメリカに帰る時に手紙を貰ったんだって。その手紙に約束の内容が書いてあるって優真は言ってた」
手紙……手紙…………てがみ?
ダメだ、思い当たる節は無い。
せめて少しでも何か思い出せればと思っていたけど、簡単には記憶は戻らないよな……。
まあ約束の内容が分かっただけでも十分だ。
まさかこんなに甘々でピュアピュアでロマンティックなものだとは思わなかったけど。
「記憶喪失前の俺には悪いんだけど、その約束って相手が覚えてないなんてこと普通にあるよな。大体、連絡先を知らなきゃ再会もできないだろうし」
「私も最初はそう思ったよ。けど、優真は確信していた。エリーは絶対約束を覚えてるってね」
「エリー……?」
なんだろう、凄い懐かしい感じがする。
外国人で、アメリカに旅立ち、再会を誓った女の子……ダメだ、やっぱり鮮明な記憶を思い出すことは出来ない。
「そういえば、黒崎たちの告白を俺は約束を持ち出して断ったんだろ? 青宮に聞いたんだけど、黒崎がそのとき俺と何かを話して、今の掟を結ぶに至ったって……」
「やっぱり聞きたいよねー、その話」
予想通り、といった感じで黒崎が軽く口角を挙げて笑う。
青宮から大体聞いているって言っていたし、俺が何を聞きたがってるかはある程度わかっているのだろう。
「ここからは話が長くなるけどいいか? なんせ、私と優真が出会ったところから話が始まるからな」
「問題ない。まだ列の先は長いし、何よりさっきから全く動いてないからな」
俺の文句が通じたのか、5分間くらい不動だった長蛇の列が3歩だけ前に前進した。
この調子でいけば、最前列に出るのは30分後くらいかな。
黒崎は20分って見積もってたけど、到底その時間には店に到達できそうにない。
まあそれだけ長く話を聞けるってこった。
ポジティブシンキングで物事を捉えていこう。
「それじゃ、遠慮なく話させてもらおうかな」
黒崎がニコッと笑ったのと同時に、再び列が少し前進した。
第12話を最後まで読んでくださった皆様ありがとうございます!
作者の木本真夜は、三度の飯より感想が好きなので、どんなに些細なことでも書いて貰えると嬉しいです。
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