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麗華の初陣

 竜ヶ崎麗華が入部した時の南高女子剣道部には薙刀部と掛け持ちで五人しかいなかった。薙刀専門は二人、残り三人は両方をこなしていた。

「可能なら両方出ましょう」

 と麗華。麗華は両方で大将を務めて準々決勝まで駒を進めたが、そこで北女の高い壁に阻まれた。個人戦には薙刀の方は本職である主将が県大会のベスト16まで勝ち進み、麗華本人は剣道で優勝して個人戦でのインターハイ出場を決めた。

「お陰で最後に思い出が出来たわ。応援には行けないけど頑張ってね」

 と言って送り出された。

 インターハイの開催地は宮城県。

「東京からは新幹線だから」

 と言って渡されたのはグリーン車のチケット。しかも座っているのは南高の選手だけ。連続出場の男子バスケ部と男子バレー部。初出場の男子剣道部。その中には個人戦でも出場する弟の麗一がいる。女生徒は麗華の他にはバスケ部の監督滝川万里華と陸上七種競技で出場する野田刹那しかいない。

「向こうのお部屋も一緒らしいので、宜しくね」

 と万里華。

 その万里華よりも頭一つ大きいのが野田刹那。

「綺麗なったわねえ、れぇかちゃん」

「つなねえも、相変わらずおっきいですね」

「あら、二人は知り合いなの?」

 と驚く万里華。

「うちの母とれぇかちゃんのお母さんは高校時代からの知り合いで、私たちも小さい頃は一緒に遊んだの」

 と言っても二人がどう言う知り合いだったのかについては聞かされていない。万里華の方も兄弟姉妹とその母親に付いては知っていても、未遂の候補生までは知らなかった。万里華にとって刹那は同学年の友人でなゆたの姪と言う認識であり、麗華に付いては父親が総一郎の警護主任であった関係で名前だけは知っていた。 

 グリーン車に乗りこんだレギュラーメンバーに、

「改札が来るまでは師弟の座席に座っていて下さい。この車両の席は全部抑えてあるので、その後は自由に席替えをしてもらって構いませんので」

 と希総。

「流石は神林の御曹司ですね」

 と麗一がからかうと、

「スポンサーはOB会だから、うちの母は取り敢えず関係無いよ」

 麗一と麗那が並んで座っていると、

「二人ともご両親にそっくりね」

 と引率責任者の滝川校長が声を掛けてくる。この姉弟は姉が母親似で弟が父親似である。

「母が卒業生なのは知っていますけど、父の方もご存じなんですか?」

 と麗華。

「ええ。向こうは覚えていなかったけど」

 先月の水瀬麻理奈の誕生会で再会したばかりだ。二代目抗争の最中、絡まれていた翼を助けたのが錦規弘。後に三代目を名乗り竜ヶ崎の婿養子となる姉弟の父だ。

「獅子王ですか」

 と麗一。

「そう。貴方達のご両親を結びつける機縁となった存在」

「どう言う事?」

 獅子王についてまだ知らない姉の方が眉を吊り上げる。それを見て翼が懇切丁寧に説明を始めた。

「そう言う事だったんですね」

 と納得をしつつも、

「なんで貴方だけ知っているのよ」

 と不満を漏らす。

「俺は現役の九代目と、初代ご本人に直接聞いたんだけど」

「まあ、子供に話すには些か恥ずかしいエピソードだしねえ」

 と翼が笑う。

「現役の九代目って誰。と聞いても私には判らないか」

「知っている人だよ。御堂春真さん」

「なんで御堂の御曹司がそんなことやっているの?」

「あの人も初代の血縁だからね」

「獅子王。そうか瀬尾の小父さまの後援会の名前はそこから来ているのね」

 と納得する麗華だった。


 丸ごと借り切った旅館の一室に万里華と刹那と共に入った麗華。ここまでは制服だったので楽な私服に着替える。三人とも学校指定のジャージだった。但し理由はそれぞれ違う。

万里華はバスケ部監督として部員たちを過度に刺激する格好は出来なかった。他の二人の場合は、襲われても簡単に撃退できそうである。

「と言う事は本当の普段着はもっと刺激的なんですね」

 と麗華に訊かれ、

「それは御想像にお任せするわ」

 と交わす万里華。

 刹那は普段着もジャージなので裏も表も無い。但し普段使いの物はもう少し色が派手目ではあるが。

「私の場合、既製服だとサイズが合わないのよ」

「でしょうねえ」

 女モノではそもそもサイズが無い。男モノだと体型に合わない。彼女の母はその辺はプロなので簡単に手直しして可愛く仕上げてくれるのだが。

 麗華の場合、ファッションに興味が無い。但し顔立ちが整っていてスタイルも良いのでどんな服装でもそれなりに似合ってしまう。

「勿体ないわね」

 万里華と刹那はハモる様に呟いた。

「希理華さんはもう少し洒落っ気があったわよね」

「きぃねえは、北女に行ってから服装のセンスが磨かれましたねえ」

「希理華って、久世希理華さんの事?」

「知っているの?」

「お名前だけは」

 高校デビューで県大会を優勝し何かと比較され始めていたが、この時点ではお互いの因縁に付いてはまだ知らない。


 男子剣道部の一回戦と刹那の出場日が重なってしまい、麗華は刹那の応援を選んだ。まさか一回戦で負けるとは思わなかったからだが、麗華としてはどうしても直接見て確かめたかったのだ。

 野田刹那は昔から発育の良い子であったが、身体能力が高い訳では無かった。長い手足を生かして足は早かったが、麗華の中ではどちらかと言えば鈍くさいお姉ちゃんと言う印象であった。その刹那が高校で陸上競技を始めて記録を出し続けていると言うのが理解できないのだ。

 七種競技は二日間で七つの競技をこなして、採点表により換算された得点の合計で勝敗を競う。一日目は百メートルハードルに始まり、走り高跳び、砲丸投、そして最後が二百メートル走である。

 スタートに並ぶと刹那は頭一つ大きい。精神集中の為かその場でゆっくりと廻るとさっとジャージを脱ぐ。セパレートのユニフォームから鍛えられた腹筋が覗く。

 スタートは一瞬出遅れたかに見えたが二歩で逆転して最初のハードルを最初に跳び越えると後は滑る様なハードリングで後続との差をぐんぐん広げて行く。去年、自身が出した高校記録を更新する好スタートだ。

「手足が長いのはそれだけで有利ね」

 隣の女性が話しかけてきた。

「ハードルの高さは一般規格と同じ八十四センチ。これだと高校女子では超えるのも一苦労なのに、彼女は足が長いから全く苦にしない」

「えっと、もしかして野田なゆたさんですか?」

「そうよ。初めまして、竜ヶ崎麗華さん」

 刹那に良く似ているが、刹那よりは落ち着きが見える。現役時代はショートだったが、辞めてからは長くのばしていた。

「れなちゃんにそっくりだから直ぐに判ったわ」

 麗華の母麗那とは高校の先輩後輩に成る。

 競技を終えた刹那がこちらに走り寄って来た。

「次は走り高跳びね」

 なゆたはそう言って刹那の髪を結い直す。と言っても後ろで纏めていたポニーテールを両サイドに振り分けるツインテールに変えるだけだが。

「ショートカットにしてしまえば良いんだけど、走る時に髪がなびくのが良いんだって聞かないの」

 走り高跳びは今のところ刹那が最も苦手にしている競技だ。

「それでも高校記録は更新したんですよね」

 一回目の試技で昨年の記録に並んだ。本職では無いので、他の選手は既に試技を終えている。そこから一センチだけ挙げて成功。体力温存の為、ここで試技を終えた。

「昨年はここが精一杯だったから成長したわね」

「自分の身長より高い所を超えるって凄いですね」

 刹那は専門選手と違って投擲競技も有るので筋肉を付けているその分重い。その辺の兼ね合いが難しい所だ。

 そして砲丸投げ。刹那が一番得意な競技だ。彼女は筋力強化の為に手足首にそれぞれ二キロの重りを付けて生活している。女子の砲丸は四キロだから、彼女には大した重さには感じていないだろう。それに加えて全く同じ力で投げても長身の刹那では発射位置が高いのでその分遠くへ届く理屈だ。一発目で昨年の記録を超えて、残りの試技はパスした。

 そして最後の二百メートル走。

「ハードルの時にも感じましたけど、スタートが苦手ですか?」

「そうねえ。あの娘、反射神経は並なのよ。体が大きいからトップスピードに成るまで時間が掛かる。でも速度が付けば慣性でそのまま走り抜けられる。スタミナは無いけど瞬発力と集中力はずば抜けているから」

 ひとたびトップスピードに乗ってしまえば誰も追いつけない。

「なんで七種競技だったんですか?」

「理由は色々あるけど、一言で言えば向いているから」

 その色々が聞きたかったのだが、

「じゃあ質問を変えます。なんで水泳じゃ無かったんですか?」

「私の後追いをして欲しくないから。で終わったら納得しそうにないわね」

 と笑い、

「私には弟がいて、それが刹那の父親な訳だけど、姉の後を追って水泳をやって挫折して、長く迷走していた。だからその轍は踏ませたくないと言うのが私たちの共通の望みなのよ」

「何の話ですか?」

 競技を終えた刹那が着替えて合流した。

「じゃあ宿に戻りましょうか。麗華さんも一緒にどうぞ」

「なゆたさんも同じ宿に泊まるんですか?」

「私は引率側の部屋に混ぜてもらうから」

「自由ですねえ」

 と麗華が言うと、

「あら、私もOBとして多少の貢献はしているのよ。他に若干の差し入れも有るし」

 旅館に着くと、

「あら野田さん、久しぶり。でもないわね」

 と翼。つい先月に水瀬麻理奈の誕生会で会ったばかりだ。

「差し入れを持ってきたので、男の子を何人か貸してもらえますか」

 なゆたの車から運び出された保冷箱。中身は総一郎の店で売っているアイスケーキである。

「私は運んできただけですから」

 アイスは各部屋へ配られた。麗華と刹那は万里華の分も貰って部屋に戻る。万里華は近くの学校で体育館を借りて練習して帰って来たばかりだ。

「伯母が瀬尾の小父さまからの差し入れを運んで来てくれたの」

「え、父さまの」

 と言ってから、しまったと言う表情に成る。

「大丈夫ですよ。知ってますから」

 と麗華。

「なんだ。気を張っていて損をしたわ」

 と舌を出す。

「冷蔵庫に入れておくからお風呂に入ってきたら?」

 屋内競技なのであまり日に当たらないから肌の白い麗華に対して屋外競技のため日焼けして浅黒い刹那が好対照だ。

 お互いに体を洗いっこしたが、刹那は体が大きいので大変そうだった。さっぱりして風呂を上がると、

「メールが着ていたわよ」

 と言われた刹那。スマホを確認して、

「明日、応援に来るって」

 誰がとは言わない。だがその嬉しそうな表情で想像は付く。

「麗華さんの明日のご予定は?」

「明日は道場を借りて稽古の予定です。男子部と合同で」

「男子部なら私たちの直ぐ後に帰って来たわね。一回戦で負けたって」

「そうなんですか?」

 麗華は部屋を出て男子部の泊まる部屋へ向かった。

「入っても良いですか?」

「やあ竜ヶ崎さん」

 意気消沈する剣道部員たち。

「負けたんですって?」

 と弟に詰め寄る麗華に、

「申し訳ない」

 と揃って頭を下げる四人の先輩方。

「大将の麗一に廻る前に勝負が付いてしまったんだ」

「それなら、仕方ないですね」

 と矛を収める。

「明日の稽古はどうしますか?」

「麗一にはまだ個人戦があるし、竜ヶ崎さんの方のお相手も務めさせてもらうよ」

「お願いします」

 自分の部屋へ戻る途上、ロビーで寛ぐ希総と遭遇した麗華。

「やあ、竜ヶ崎さん。調子は如何ですか?」

 と希総。

「上々です」

「それは良かった」

 麗華は希総の向かいの席に腰をおろして、

「会長は剣道部の試合の方をご覧になったんですよね。どんな試合でしたか?」

「あれ、剣道部の部屋へ慰労に行ったのでは?」

「行きましたけど、当事者の主観では無く、客観的な感想をお聞きしたくて」

「そうですね。竜ヶ崎の教えに従って常に前に出る剣道をして、良い試合でしたよ」

「勝つことが全てじゃない。ですか」

 まだ不満そうな麗華に、

「明日は稽古ですね。何でしたら格好の稽古相手を紹介しましょうか?」

「この辺に人脈がおありなんですか?」

「いえ。明日応援に来る予定の人物なんですが、久世希理華さんはご存知ですよね」

「興味深い申し出ですけど、今の私では勝てないと思いますので」

 稽古では無く真剣勝負を所望らしい。

「久世さんはお独りで?」

「いいえ。兄と一緒ですけど」

「兄と言うと、瀬尾先輩ですか」

 希総が公の席で兄と呼ぶのは矩総しかいないのだが、わざわざ確認するのは他の兄を知っていることに成る。

「兄と面識が?」

「いえ、直接には。父が瀬尾代議士と取った写真に写り込んだのを見掛けただけで」

 ちょっと頬を赤らめて、

「目付きが鋭いと言うか」

 どうやら兄違いでは無いらしい。

 翌日、刹那を送りだすと自身も稽古の為に道場へ向かう。敗退が決まった男子部員と一緒。レギュラー五人の他、来年を見越して一二年の部員が六人来ていた。麗華とまだ個人戦が残っている弟の麗一が交互に立って残りの部員と次々に戦う。いわゆる百人組手形式だ。

 二人は適度に水分を摂りつつ、これをクリアする。そして最後の百人目は姉弟の直接対決。

「負けた方はもう一周だからね」

 と姉の麗華。

「俺は構わないけど、先輩たちが保つかどうか」

「負ける前提で受けるんじゃないわよ」

 ここまで一人当たり二十秒前後で片付けてきたが、互いが激突すると二分を過ぎても勝負が付かない。腕力では男の麗一の方が上の筈だが、

「そこまで」

 鍔迫り合いで膠着したところで制止が掛かる。

「まだやれますよ」

「それは判るけど、俺たちがもう一周は出来ないよ」

 レギュラー陣はまだしも、控えのメンバーはぐったりして立ち上がれない様子だ。

「じゃあ上がりましょうか」

 一年のしかも女子なのにすっかり部の中心だ。

 その翌日、バレー部とバスケ部がともに初戦を迎え、宿は閑散としていた。既に自分の競技を終えた刹那は他の部の応援に回っているが、麗華の方はこれからが本番だ。

「ただいま」

 バレー部の応援に行っていた刹那が戻ってきた。

「男子バレー部はどうでしたか?」

「ストレートで勝ったわよ。希総君はピンサーでちょこっとだけ出てきたけど」

「苦戦したんですか?」

 今日は出ない予定と言っていたのに、

「みーくんたちが応援に来たから顔見せだったみたい」

「皆人君も中学生に成ったから、随分と大きくなったでしょうね」

「百六十くらいかな」

 と手で高さを示す。百八十超えの刹那から見ればまだまだ小さい訳だが。

「女子の団体戦も始まったんでしょ。見に行かなくて良かったの?」

 強豪校はどこも団体と個人の両方に選手を送り込んでいたので格好の偵察に成る筈だが、

「良いんです。私は相手に合わせて戦い方を変えるほど器用じゃないんで」

 それは見方を変えればどんな相手でも自分の戦い方で勝ってやると言う自信の表れでもあった。

「バスケ部の方も終わったみたいね」

 窓の向こうにバスが止まった。部屋に戻ってきた万里華はお客さんを連れていた。

「姉さんたちが応援に来てくれたの」

「一晩御厄介になるわ」

「え、総美さん。にしては小さい」

 思わず口に出してしまった麗華に、

「日野沙弥加さん。総美姉さんの元相棒で今は総志兄さんの相方なの。こちらは竜ヶ崎麗華さん。女子剣道部のエースで、個人戦に出場予定よ」

 と双方を紹介する万里華に、

「私とは母が姉妹同士なの」

 と刹那が付け加える。

 沙弥加は麗華と握手を交わすと、

「一年でインターハイ出場なんて、三年前の希理華を思い出すわね」

「その美貌も含めて希理華さんの再来と言われているんですよ」

「美貌は甲乙つけがたいけど、剣道ではどっちが強いの?」

 とズバリと斬り込む沙弥加に、

「現時点では、希理華さんです」

 と謙虚な麗華である。

「沙弥加さんって母親似ですか?」

 刹那は父方の顔立ちなので、二人は従姉同士でもあまり似ていない。

「さーやねえは母親似じゃなくて、叔母であるうちのお母さんに似ているのよ」

 と刹那。

「種明かしすると、うちの母は父親似で、その妹である可奈多叔母さんは母親似。私は隔世遺伝で祖母の顔立ちを受け継いだから、私と叔母も似ているって訳」

「なるほど」

「ところで、そろそろ座りませんか?」

 と万里華。体育会系の三人は立ったまま会話していたのだ。

 万里華が入れてくれたお茶を飲んで一息入れる。

「ところで刹那。いつまでこっちにいるの?」

 競技を終えても帰ってこない娘を心配した叔母の可奈多から様子を見て来るように頼まれたらしい。

「れぇかちゃんが私の試合を応援に来てくれたから、私もお返しに応援する約束なの」

「そう言うことなら、家の方には連絡をしておきなさいよ」

「はあい」

「二人は前々から知り合いなの?」

「うちの母とつなねえのお母さんは高校時代からの知り合いで、小さい頃から遊んでもらっていました」

「この子、小さい頃から大きかったからねえ。身長で抜かれたのは何時だったかしら」

「小五の時よ。さーやねえが中学に上がった時に一緒に写真を撮ったから、よく覚えているわ」

「それにしても、元バレー部なのにバスケ部の応援ですか? 総志さんもいないのに」

「総志兄さんも来ているのよ。隣の部屋に泊まる事に成っているわ」

 と万里華。

「先にバレー部の試合を見て、希総君と一緒にバスケの方へ廻って、こうして宿を斡旋してもらったの」

「会長とも当然親しいんですね」

「希総君は二個下で、同じポジションだから色々と手解きをしたわ」

「いつからセッターを、いやそれ以前にいつから総美さんとコンビを?」

「順を追って話そうかしら」

 沙弥加は居住まいを正し、

「私が西条姉弟と出会ったのは幼稚園の頃だけど、元をたどれば親の代からの因縁があって、私の母木嶋波流歌は瀬尾総一郎と言う少年を巡って神林希代乃さんとライバル関係にあったの」

「そこで希代乃さんが出て来るんですか?」

 と目を丸くする麗華。

「そうなのよ。二人の女の子から告白された総一郎少年は、みんなで仲良くしようと言った。それを受けいれたのが希代乃さんで、断固拒否したのが波流歌。そこで受けいれていたら私はこの世に生まれていなかった訳だけどね」

「それでどうなったんですか」

 と興味津々の麗華。

「希代乃さんは中学から私立のお嬢様学校へ進んだので、ライバルが居なくなったと喜んでいたら、新たに現れたのが永瀬矩華さん。ハーレムもそれを認める女性が一人だけでは成立しないけど、二人に成ったから。母は諦めて二人とは別の高校に進んだ。単に同じ高校へ進むだけの学力が無かっただけなんだけど、これがまた別のドラマを産んだ」

 と言って刹那をちらりと見る。

「高校生に成った波流歌は家庭教師の大学生と付合い始めて、高校卒業と同時に結婚。ところが妹の可奈多もこの大学生に恋心を抱いたのだけど、四つも違っていたから割り込む隙は無かったのね。うちの母がもう少し頭が良くて結婚は大学を出てから、となっていたらもつれたかもね」

「可奈多さんも大変ですね。初恋の相手が義理の兄なったんですから」

「そうなのよ。しかも長女だった母は二世代住宅に改造された実家に同居したから、可奈多叔母さんから見ればまさに生き地獄。居心地が悪くなって高校三年の時に遂に家を出た。その時頼ったのが高校の先輩だった不破瞳さん。瞳さんの紹介で今の仕事を始めて、西条不動産でアパートも紹介してもらった。そして希代乃さんの紹介で野田阿僧祇と言う伴侶も見つける事となった」

「そこでまた希代乃さんが出て来るんですね」

 と笑う麗華。

「ええ。瞳さんも瀬尾総一郎のハーレムのメンバーで、可奈多叔母さんの上司になったのも同じくメンバーだった水瀬麻理奈さん。その妹が久世希理華なんだけど」

「妹? 随分と年が離れていますね」

「麻理奈さんと言う人も不幸な生まれで、中学生の時に親が離婚。その後希代乃さんと矩華さんの助力で両親が再婚して、生まれたのが年の離れた妹の希理華と言う訳なのよ」

「随分と話が脱線しましたね」

 と万里華。

「そうね。私の話に戻すと、幼稚園の時に西条総美と仲良くなって、その弟総志は姉のおまけだった。小学校を卒業するまでは私たち三人は同じくらいの背丈だったのに、中学に入った途端にあの姉弟は急激に大きくなって、それまでは私の方が上手いからセッターをやっていたのに、身長差が出来てからはその役割が完全に固定されてしまった」

 とようやく最初の質問の答えに辿り着いた。

「一つだけ気になったんですけど」

「なに?」

「玉の輿を狙おうとか思わなかったんですか?」

 一瞬の間が有って、

「希総君とって事? 考えもしなかったわ」

「その気に成れば御堂もいけましたよねえ」

 とからかう万里華。

「ちょっと良いですか」

 と外から希総が声を掛けてきた。隣の部屋の支払いについて万里華の意見を求めてきたのだ。

「そう言う事なら、別会計にしてもらいましょう」

 と即断する万里華。

「カードで払っちゃ駄目ですよ」

 と言われ困っている希総に、

「俺が現金で支払っておけばいいんだろ」

 と後ろで控えていた総志。

「なにか金で解決するようで心苦しい」

 と希総が漏らすと、

「世の中のたいていの問題は金が無いから発生するのよ」

 と諭す沙弥加。

「なんだか、本当の姉と弟みたいですね」

 と感心する麗華に

「本物の姉よりも姉らしいからねえ」

 と頷く総志。

 希総と万里華が宿屋側との打ち合わせに行ってしまうと、

「遅れたけど、西条総志です」

 と改めて挨拶してくる総志。

「なるほど。こんなイケメンを前にすれば、御曹司も霞みますよねえ」

 と納得する麗華。

「何の話?」

 と首を傾げる総志と、顔を赤らめて困惑する沙弥加だった。

 翌日、沙弥加たちは早々に帰京する筈だったのだが、

「総志兄さんがバスケ部の練習を少し見て行きたいと言い出しまして」

 と困った様な希総。

「良かったら、沙弥加ねえさんもうちの練習に少し顔を出して頂けませんか?」

「それは良いけど。弟二人はその間どうするのよ」

「それなら二人は私と一緒に観光でも」

 と刹那。

「貴女一人で大丈夫?」

「れぇかちゃんもいっしょに行かない?」

「私まだ試合が残っているんですけど」

 と渋るが、

「良いじゃない。気分転換よ」

 と押し切られてしまった。

 外で二人と合流。

「母さんまで」

 引率として滝川校長まで駆り出された。

「今日は試合が無いから暇なのよ」

 一同を見渡して、

「皆人君の母親不破瞳さん、刹那さんの母親木嶋可奈多さん。そして麗華さんの母親竜ヶ崎麗那さん。三人が揃って高生だった頃に、教育実習生として来たのが瀬尾総一郎。その年度末で転任したから可奈多さんや麗那さんの卒業は見届けていないのだけど。子供世代がこうして一同に揃うと懐かしいと同時に年を感じるわねえ」

 一行は城を始めとする観光地を巡った。その道中で、

「聞いても良いんでしょうか。息子さんはどうして瀬尾の小父さんにそっくりなんですか?」

 と麗華。

「一言で言えば、この子が瀬尾総一郎の胤だからよ。私の夫滝川千万太は御堂の御落胤に生まれながら、子供を作れない体質だった為に後継ぎになれなかったの。私と結婚するに当たって、子供を残す為に養子を取るかあるいは人工授精を試みるか。御堂家を納得させうる選択は後者だった」

 千万太の後継ぎは御堂家の血を引いている事がベストだが、そんな都合の良い相手はそう都合良く見つからない。

「次善の策として着目したのが瀬尾総一郎と言う訳。ここまで遺伝子が自己主張してくるとは予想外だったけど」

「瀬尾の小父さんは御堂の女当主真冬さんの異母兄ですからね」

「ええ。まあそう言う事よ」

 二人の本当の間柄は御堂家のトップシークレットなのでここでは話せない。

「それで旦那さまとはどうやって知り合ったんですか?」

 と刹那の無邪気な質問。

「母の紹介だったのよ。海外で発掘の仕事をしていた両親が、海外放浪中の滝川と知り合って様々な助力を受けたの。その母が学長の指名を受けて急に帰国することに成って、その時に同行して大学の採用に任命したのよ」

「それもまた運命の出会いですね」

 これもかなり端折っている。

 仙台駅で総志たちと合流。そこで太一と皆人を渡して、

「じゃあお願いね」

 と母の顔に成る翼。

「ええ。麗華さんも試合頑張ってね」

 と言って帰路に就いた。

 宿に戻ると、

「まだ何か隠していますよね」

 と万里華に詰め寄る麗華。

「他人の家の事情を聞きだしてどうする気なの?」

 と切り返された。

「つまりはまだ秘密があるんですね」

「何を隠したいかはそれぞれの家の考え方で、聞いてみればなんでそんなことをと言う事も多いわ。逆に大きな秘密だったら貴女は受け止めきれるのかしら?」

「済みません。考えが足りませんでした」

 と反省する麗華に、

「じゃあ優勝したら御褒美で教えてあげる」

「そんな事で良いんですか?」

「気に成って試合に集中できないとなったら困るからね」

 竜ヶ崎姉弟は個人戦で揃って優勝する訳だが、全てを知った麗華がどのような反応を示したかはまた別の話。

一部前話と時系列が被ります。

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