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前編

ダンジョン…それはファンタジーの世界で冒険の舞台となる存在である。

今日また、新たにここにそのダンジョンを支配するダンジョンマスターと呼ばれる存在が誕生した…。


「ふわぁ……。…いきなりダンジョンを支配して人間を殲滅しろって言われてもね~」


 少年は先ほどの会話を思い出していた。突然見知らぬ存在から異世界に連れてこられたと思ったら。「今日からお前ダンジョンマスターだから。人間と敵対してるから。とりあえず死なないように頑張れよ~」と説明もほとんどされずに放り出されてしまったのだ。彼の目の前に存在しているのはゲームのようなダンジョン管理アイコン。とりあえず夢だと思って一回寝てみたが現状は何も変わらなかった。


 「う~ん。やっぱり現実なのか…戦争一つしたことない平和な国の人間なのにまさかダンジョンマスターやらされるとはね…。でもこうなった以上やるしかないか」


 彼はアイコンを操作し、ダンジョンを生成する。


 「どうせなら、僕の考えた最強のダンジョンでこの世界を制覇してやろう」


 彼の戦いの日々が始まった。


☆☆☆


 「ここが新しく発見されたっていうダンジョンか」


 赤い髪の男が仲間である男に問いかける。


 「ええ、どうも最初はいいんですが奥まで行くと必ず帰ってこなくなる不帰の迷宮と言われてるらしいですぜアニキ」


 彼らは冒険者と言われる職業の人間である。突然発生するダンジョンは魔物を近辺に放出したり、間違って村人が足を踏み入れたりと人間にとって害悪でしかない。彼ら冒険者はそういったダンジョンを制覇し、お宝を得ながら人々の安全を守ることを生業としている。彼らは不帰の迷宮と言われ、多くの冒険者が倒されたと思われるこの洞窟を攻略し宝と討伐報酬を得ようとしている一団だった。


 「よし、とりあえず入ってみるか。いくぞ」


 男の言葉に従い男の仲間が洞窟へと入る。洞窟の中は外の様子とは違い石造りの立派な迷宮となっていた。

 しばらく歩き続け、男は一つの疑問にさしあたる。些細なミスが命に繋がる世界。男はその疑問を仲間たちと共有した。


 「なあ、モンスターの姿がいまだ見えてないがなんかおかしくないか?」

 「あれ、そういえば見てないですね??でも、運が良いだけじゃないですかねアニキ!」

 「そうか、それならいいんだが」


 確かに運がいいだけかもしれない。それにモンスターと出会わないことは何の損にもならない。見当たらないならそれはそれでいいかと男は疑問を思考から外した。…それが命取りになるとも知らずに…それはダンジョンの中腹に差し掛かったころ唐突に訪れた。


 「ア、アニキこの先やべえぇ」


 スカウターとしてのスキルを持つ男が突然切り出した。しかし彼らは止まることができなかった。余りにもこれまでの道中が順調すぎて油断していたのだ。彼らの仲間が一人一人と大量に仕掛けられた罠によって打倒されていく。


 「ぎゃああ」

 「アニキ―!!」

 「お前ら!!」


 そう、これは罠だった。何もない通路で油断させ、唐突に表れた大量の罠で彼らを打ち取ろうとする罠だったのだ。


 「っち。この先は進めね~引き返すぞ!!」


 仲間を連れて男はダンジョンを引き返そうとする。だが罠もなく、モンスターもなくただ白い石造りの同じ形の通路が続くこのダンジョンは彼らの方向感覚を乱していた。彼らは帰る道もわからず、罠へと誘い込まれてしまう。徐々に減っていく人員に男は額に汗を垂らした。


 「畜生。これが不帰の由来か!!道が平坦すぎる割に入り組んでて帰り道がわからね~!!途中戦闘の痕跡でもあればわかるかも知れねーがそれも排除されてやがる。しるしがねーんだ!!」


 普通のダンジョンだと考えて行動したつけが回ったこのダンジョンは今までのダンジョンとは違った思想で作られたダンジョンだったのだ。


 「ア、アニキ。あそこにボス扉がありますぜ!ダンジョンコアさえ破壊してしまえばここから脱出できます。まだまだメンバーもいるしあそこに行きましょう!!」


 ボス扉…それはダンジョンでも強力な個体がいるとされる扉、扉を開き中央に立つことで目の前にボスが登場する。それを倒せば宝が手に入り。ボスの奥にある扉を開けばダンジョンの命、ダンジョンコアがあるのだ。それを破壊すればダンジョンは崩壊し中にいたものは強制的に外へとはじき出される。彼らがこのダンジョンから出ることを考えれば最短の道のりだ。


 「よし、そうだなお前ら行くぞ!!」


 その言葉に従い男とその仲間は巨大な門の前に立ち、扉を開ける。


 「へ??」


 扉を開けた瞬間、男たちに多数の魔術と弓矢が襲いかかった。男は素っ頓狂な声をあげ力尽きた…。


☆☆☆


 「ふ~、今日も終わった…。冒険者さん。ごちそうさまです」


 少年は手を合わせ、冒険者たちの冥福を祈りながらダンジョンの様子を確認していた。彼の目の前に映し出されるモニターにはボス部屋で大量に蠢くモンスターたちの姿が見えた。


 「いや~。それにしてもやっぱり僕の考えた最強のダンジョン。今んとこ損失ゼロで連続勝利だ」


 少年はモニターが映し出す画面を切り替える。白い石で造られた迷路が見えた。


 「そもそも、モンスターをわざわざ徘徊させるってナンセンスだよね。どうせ待ってればコア狙ってボス部屋来るんだし戦力の分散をわざわざする必要なんかないからね。それに戦闘の痕跡…モンスターの死骸が残れば似たような地形で侵入者を惑わすっていうダンジョンのうまみ消えるし、なによりただ冒険者を強化することに繋がるからね。わざわざ前線にモンスターを送るメリットなんてない。それに…」


 彼は画面をさらに切り替え罠のある部屋へと移した。そこらじゅうに罠が仕掛けられており、だれも通ることができないようになっている。


 「モンスターを徘徊させるならしっかりとその経路を確保しなくてはいけない。でもそうすると仕掛けられる罠が限られてくるから攻略されやすくなる。だからモンスターは居ないほうが良い。…そもそもダンジョンの主役ってモンスターじゃなくてダンジョンだからね?わざわざ魔物で倒そうと努力する必要もないし、むしろダンジョンで倒せるようにしたほうが良いでしょ。うんうん完璧だ」


 再度画面を切り替え元の画面に戻す。


 「とはいえ、なんかルールで魔物は召喚しなくちゃいけないし、コアへは絶対に一応いけるようにしなくちゃいけないからその辺の問題を解決する必要はあったんだよねまあ、その答えがこれなんだけど」


 彼は画面を拡大し魔物たちを映す。全体の3分の2が弓や杖を持った遠距離タイプの魔物だった。


 「人ってのはどうしても扉を開けたりするときには油断するからね、それにこの世界の人間はボス部屋は中央に行かなければボスが出ないと思ってるから…ぷぷぷ。ボスは居なくても下っ端モンスターは居るかも知れないのにね。おかげさまで開けた瞬間開幕全力砲撃であっという間ですよ。どんな達人でもイチコロ。熟練冒険者のあの間抜けな顔は笑えるな~ぷぷぷ」


 彼は笑いをこらえながらも話を続ける。


 「一か所に魔物を集めればやられにくい、その他管理もしやすい。数も小数で済むみたいな利点もある。近代になって戦闘方法が大きく変わったことは歴史とかでよくやるけどそれとも関連することがらなんだよな~。あれは銃という遠距離兵器が誰でも使えるようになったから起きたことでどんな歴史的偉人であろうと大量の遠距離砲撃からは逃げられないことを表している。どんな強力な兵士でも圧倒的な物量と攻撃力にはかなわないってことだ。…兵士を育てて直接戦わせるみたいなのはよくあるけど。いつその育てた大切な兵士がやられるかわからんし、教育には時間もかかる。それに寿命の関係でいつかは戦力が弱体化するわけで…そういうことを考えるとダンジョンのような半永久機関における防衛の戦力としてはこの僕の考えた形態が最良だということ。ふふん。さすが僕だね」


 ひとしきり威張った彼は急に肩を落として落ち込み始めた。


 「…はぁ~。ホント一人で何いってんだろ…。まったくダンジョンマスターになってから一人事が増え過ぎだよ…」


 そういって彼はいつもの仕事に戻っていった。

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