49 思うところ
大晦日。
色々あった今年も、今日でお終いだ。
七海は昨日から実家の方に帰省している。
和人も、今日は午前中に部屋の掃除を終わらせていた。
ベッドに横たわり、ゆっくりと今年を振り返ろうか……と思っていると、ケータイの着信音が部屋に鳴り響いた。
着信・柳恵美。
「もしもし?」
『ウッチー、久しぶり』
クリスマスパーティー以来だから、一週間ぶり、てところか。
「どうした?」
『あのさ……今から、ちょっと出て来れる?』
「今から?」
時刻は午後二時を回ったところだ。
夕飯までに帰れば、大丈夫だろう。
「いいぜ。何処へ行けばいい?」
『うちの近くのコンビニでいいかな?』
「オッケー。んじゃ着いたら連絡するよ」
和人は電話を切ると、ダウンジャケットを羽織り家を出た。
年末ということもあり車の量は多く、思ったより時間がかかってしまった。
コンビニに着いた和人は恵美にメールを送り、店内で立ち読みをしながら待っていた。
何の用事だろうか。
雑誌をパラパラとめくるが、中身は頭に入ってこない。
なんせ恵美と差しで会うのは、あの時以来、なのだから。
「ウッチー、お待たせ」
「オッス。やな……ぎ?」
声に振り返った和人の前には、ウールトレンチコートを羽織った恵美の姿があった、のだが。
その姿に、言葉が続かなかった。
「その髪……」
恵美は、自慢の背中まであった黒髪がバッサリと切られ、ショートヘアーになっていた。
「あ、これ? 変かな?」
「いや……変じゃないけど、さ……」
高校の頃から、ずっとロングだった。
和人の知る限り、肩より短くした事は無かったはずだ。
それが、どうして……。
「ま、色々あるのよ。さ、行きましょ?」
「へ? 何処に?」
「買い物、は冗談として……ちょっとそこの公園まで、ね」
そこって、どこだよ?
柳の家の近くに、公園なんぞ無かったはずだが。
恵美はさっさとホットの紅茶を二本買うと、車を開けろ、と急かす。
なんだか、いつもの柳らしくないような気もするけど。
やれやれ……。仕方ないか。
和人は車のロックを解除すると、運転席に乗り込んだ。
指定されたのは池公園だった。
旅行前に話をしたのも、ここだったな。
「こんなとこ、七海ちゃんにバレたら、大変じゃない?」
いつぞやの誰かと同じようなセリフだな。
「なんてね? 本人に許可もらってるから、大丈夫よ?」
「用意周到ってワケ、か」
「君と切り結ぶには、それくらいしないとね」
買い被り、だと思うけどな。
前と同じ、池の傍のベンチに腰を下ろす。
さすがにちょっと冷えるなぁ。
「これは、決別の証、よ」
恵美は、自分の髪を触りながら言葉を繋ぐ。
「過去の、私との」
失恋で髪を切る、とはよく言うけれど。
どこまでを、指しているのだろうか。
和人は無言で、紅茶のボトルに口を付ける。
「白石先輩に話してたこと、隠していてごめんね」
「構わないさ。もっとも、伝言、の時に気付くべき、だったのかもしれないけど」
「そうね。あれは迂闊だったわ。今思えば」
それに気付けなかった俺は、もっと迂闊だってことか。
いや、そんな余裕は無かった、か。
「愛に言われたわ。私達は似過ぎてる、って」
「俺も似たようなこと、言われたわ」
似過ぎてる、か。
言い得て妙、だな。
共に駆け抜けたあの経験は、それぞれに影響を与えたと思う。
特に瑞穂の存在は、二人にとって大きなものだった。
それも思い出だったと、語り合える日がいつか来るのだろうか……。
「で、わざわざ呼び出したのは、その……髪、か?」
「それもあるけど……」
そういうと恵美はケータイを取り出し、ちょっと操作をすると、画面を和人に見せる。
メールの画面、ということは一目で分かった。
送信者・水沢七海。
本文――。
「くっ、はははは!」
思わず爆笑してしまった。
「そこまで笑う? 健気な彼女の気遣いを」
そういう恵美も笑っている。
「それ、いつ来たの?」
「昨日の夜よ」
実家に帰ってから、か。
「気遣い、ねぇ。牽制、の間違いじゃないのか?」
「やっぱりそうかなぁ」
恵美はもう一度画面を見つめている。
メールの内容。それは、愛さんが俺らに依頼していたのと同じ事。
つまり柳に、俺が羽目を外さないよう監視を依頼したのだ。
確かに七海がこっちに戻ってくる前に、仲間内で集まる機会が一度あるのは事実だ。
残っているメンバーで初詣に行き、おそらくだが飲むだろう。
もっとも、俺が調子に乗って突っ走るタイプではないことを、柳は元より、七海もよく分かっている。
だからこそ、牽制、なのだろう。
最後に残った不安要素、なのかもしれない。
「まさかアノ事、七海ちゃんに言ってないわよね?」
「言うわけないだろう」
あり得ない、と和人は首を横に振る。
まぁ本気で聞いたワケじゃないだろうが。
「何か、感じるところがあったのかもな? あれでもアイツはなかなか目敏いから」
特に、俺の一挙手一投足に関しては、だが。
「意外と嫉妬深いのかも、ね? 七海ちゃん」
「どうだか?」
和人は肩を竦めながら答える。
嫉妬というよりは、重み、だと和人は思っている。
それは、和人自身の中にもあるからだ。
埋められない時間。それが重荷と感じることもある。
焦らないようにしてるつもりだけど、それが表に出てしまう事もある。
その一端が現れた行動だと、考えていた。
目と共に刻まれたものは、簡単には拭えないのだろう。
「さって、私は行くね?」
そう言うと恵美は立ち上がる。
「あれ、そうなの?」
家まで送っていくものだと思っていたが。
「これからもう一件、人に会う用があるから」
「誰に?」
「ん? ナイショ。強いて言えば……私なりの過去の清算、かな」
どういうことだろう?
まぁ、これ以上聞いても無駄、か。
彼女のクセは、分かっているから。
「そっか。んじゃまた来年」
「うん。良いお年を」
恵美は手を振って去っていく。
その後ろ姿が見えなくなってから、和人は腰を上げた。




