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48 Sunset lovers

 クリスマス・イヴ。


 横には、グレーのコートを着た七海が歩いている。

 しっかりと、和人の手を握って。

 ただ、場所だけがいつもと違った。

 自分達が生まれ育った街。

 十年前に七海が離れた、今現在でも和人が暮らす街。

 何の変哲も無い田舎町だが、少なからずクリスマスの装飾がなされ、駅前はイルミネーションで飾られている。


「だいぶ、変わっちゃったね」

「そうだな。十年前と比べたら、色々変わったと思うよ」

 再会してから、こっちに来たい、と言われたのは初めてだ。

 それは、あの場所に足を踏み入れるのは、多少なりとも覚悟がいる、ということなのか……。



「変わってないね。ここは」

 小学校。今は当然冬休みだが。

 校舎はともかく、グラウンドは開放されているので、敷地内を歩く。

 遊具も昔と変わらない。

 いや、一部は新しくなっているらしい。

「狭く見えるねー」

「それほど、身長伸びたワケ……痛っ」

 綺麗にわき腹に一撃、貰いましたよ。

「ま、でも、自分達の見る世界が広がった、てことだろ」

「そうだね……」

 成長と共に、行動範囲も広がっていく。

 当然、自分という世界、も。

 それと同時に、色々なものを知っていく。

 嬉しいことも、悲しい事も、理不尽な現実も。

 結局、自分達はセカイを構成するパーツに過ぎない。

 ただ、自立する意思と思考を持っている。

 それがアンバランスであるから、人生は面白い。

 今なら、そう思える。



「そういや、同じ目をしてる、って言われたよ。俺ら」

「同じ目? 誰に?」

 七海は小首を傾げる。


 目。

 諦念と言われた。

 人を好きになるという事、って何だろう?

 愛する事、とはどう違うのか?

 明確な境界線なんて、描けないのかもしれないけれど。

 十年前の別れ際、あの時の感情は、愛なのか。恋なのか。

 純粋に、存在だけを求めていた。

 子供のくせに、と言われるだろうけど、むしろ、子供だからこそ、今のように、体のような打算を考える事も無かった。


 それが、引き剥がされた。


 引き剥がされるという現実が、感情を目覚めさせたのかもしれない。

 思春期に入るか入らないか、ぎりぎりのタイミングで突きつけられた理不尽な現実は、二人に深い諦めと恐怖を刻んだ。

 それが目に、行動に、表れてるんだろうと、和人は分析していた。

 その経験が、今の自分を形作っている、とも言えるのか。


「姫。愛さんに、言われたんだ」

「え? 意外……。柳先輩なら分かるけど」

 だろうね。俺も意外だし。

「柳も、先輩も、俺の目については気にしてたみたいだけど」

 瑞穂に言われるまで、自分がそんな目をしてるなんて知らなかったが。

「やっぱり……アレが原因なのかな?」

「同じ、と言われたら、そうなんだろう」

 俺ら二人の共通体験と言えば、それだろう。

「気付いたのが、愛先輩、ね……」

「あの人は要注意だ。油断すると、全部見透かされるぞ」

「肝に銘じとく……」

 もう手遅れなのかもしれないけれど。



 再び街を歩き、噴水のある小さな公園へとやってきた。

 冬の日没は早く、空は夕暮れになりつつある。

「ここも、何も変わらないね」

「ああ。時々散歩がてらに来てるよ」

 真冬、クリスマスイヴ、夕暮れという時間帯という条件では、公園内に人影は無かった。

 ゆっくりと公園内を一回りする。

 こんなことがあった。

 あんなこともあったね。

 そこかしこに、思い出が眠っている。



 噴水の正面に位置するベンチに腰を下ろす。

「懐かしいね……」

「ああ。そうだな……」

 無邪気に遊びすぎて、池に落ちたのも、いい思い出だ。


「やっと……帰って来れた……」


 七海はそう言うと、立ち上がって噴水の方へニ、三歩歩く。

 そして、ゆっくりと振り返る。

 それを見て、和人もまた、ゆっくりと立ち上がる。


「……ただいま。和くん」


 言葉と同時に、七海は和人の体に飛び込む。


「おかえり。七海」


 そんな七海を、しっかりと受け止める。

 そして十年前と同じように、指を絡めて、唇を重ねる。


 それは七海が歌った、あの情景そのものだった。

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